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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第12章 第1話

 翌日は学校が休みにもかかわらず、俺は早起きをして制服に着替えた。


いつもの時間に家を出る。


休日の電車はいつもとは雰囲気が違って、バスに乗っても、いつもならあふれかえるほどいるはずの同じ制服が、数えるほどしかいない。


今日は俺は、ようやく出来た自分の時間を無駄にしないために、自分の写真を撮る。


それだけだ。


 部室に入り、三脚を持ち出す。


まずはお気に入りの、山から見下ろす街の風景を撮ろう。


通学路の坂道にかかる、森の木々もいいかも。


そこに虫か鳥でもいれば最高だ。


そうだ、池にも行こう。


あそこには大概アメンボがいるから、本当に助かる。


いつも来る猫は、今日もフェンスを抜けて来るかな……。


 校庭に出る。


体育館に背を向け、それは視界に入らないようにする。


扉は全て開放されているのに、なんの声も音も聞こえてこない。


そういえば、本番当日の動きはどうなっているのかな。


三脚を片手に、被写体を探してあちこちを歩き回る。


まぁいっか。


俺には関係なかった。


そういえば、いつもどこで何を撮ってたんだっけ。


 空には厚い雲がかかり、日差しはないが空の撮影は難しい。


撮っても灰色の画面にしかならないだろう。


虫たちはすっかり隠れてしまって、どこにも見つからない。


こんな天気の日は、影が出ないから、そのぶん人物撮影には最適なんだけど……。


原生林との境界線に張られているフェンスが、ここだけ植物の勢いに押されて、すっかり覆われてしまっている。


その目の前の藪が、ごそりと動いた。


次の瞬間、パッと小さな女の子が飛び出してくる。


濃紺の制服と真っ白な肌に、吸い込まれそうなほど黒く真っ直ぐな髪が、肩先で揺れている。


少女は俺を見上げた。


目が合う。


そのまま駆け出そうとする彼女を、俺は呼び止めた。


「ま、待て。お前、あのチビ龍か」


 首を左右に振る。


「え? 違うの?」


 どう見たってあの時、荒木さんと一緒にいた女の子だ。


彼女の足が動く。


「ハク! ハクちゃん?」


 そう呼ぶと、ようやく彼女はうなずいた。


「あ、あっそ。……チビじゃなくて、ハクなのね」


 怒っているのか不満なのか、よく分からない目でじっと見てくる。


やっぱ面倒臭い。


「どっから出てきたんだよ」


 指さした藪をかき分ける。


鋼の芯が入っているはずのフェンスが、わずかに突き破られていた。


「もしかして、お前がやったの?」


 それに返事はない。


黙ったままじっと立っているその姿は、小生意気なチビ龍そのものだ。


「こんなところで何をしている」


 振り返った。


いまが一番忙しいはずの荒木さんが立っている。


その荒木さんが手を伸ばすと、ハクはとことことかけより、その手をぎゅっと握りしめた。



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