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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第3話

「あ、行こっか」


 カメラを持った彼女は走り出した。


俺はすぐにその後を追いかける。


肩までの髪が目の前で揺れ、シャンプーの匂いがわずかに漂う。


張り付いた舞台下で、役者に向かって構えたレンズの、その映し出す画面を見るフリをしながら、ずっと彼女の横顔を見ていた。


彼女はしゃべり始めた主役を撮ることに夢中で、レンズの位置がおかしくなっていることに気づかない。


声を出してしまったら、それが録音されてしまうから、俺はカメラを持つ彼女の細い手に触れないよう、そっとその角度を変えた。


目線だけで彼女は見上げる。


「うん」とだけうなずいて、俺は画面を指さした。


すぐに彼女も気づいて、小さくうなずく。


再び撮影に集中する彼女の横で、俺は満足していた。


床につく手が痛いとか、ずっとしゃがんで動き回っている膝がおかしいとか、そんなことすらどうだっていい。


体育館での、1日目の撮影が終わった。


「この後どうする?」


「ゴメン、私はミーティングがあるから……」


「俺たちも出た方がいいのかな」


「あ、それは大丈夫だと思う。何か連絡があったら、私からするし」


「そっか」


「ね、夜にオンラインで、いま撮った動画見ながら話し出来る?」


「あぁ、いいよ」


「じゃまた後で! メッセ入れるね」


 手を振ると、彼女は演劇部員のところへ駆け戻ってしまった。


そっか。そうだよね。


うん、そうだ。


俺たちは写真部だからな。


「じゃ、帰るか。部室寄ってく?」


「俺は川ちゃんのところへ行ってくる」


「川ちゃん?」


「1年の川崎さん」


 演劇部員が集まっている集団の方を指さす。


そのどこに『川崎さん』とやらがいるのか分からなかったが、もうそんなことはどうだっていい。


山本は嫌らしいほど細めた目で、俺を見た。


「夜のオンライン会議は、俺は欠席してやるよ。見たいテレビがあったからとでも、言っておいてくれ」


「どういうこと?」


「二人っきりにしてやる」


 なにが二人きりだ。


自分が面倒くさくて、やりたくないだけだろ。


「余計なお世話だ」


「俺は川崎さんだからな」


「勝手にしろ」


 俺は三脚を担ぐと、舞台に背を向けた。


山本は何のために、ここへ来て手伝ってんだか。


俺には不純な動機なんてないし、純粋に頼まれたからやってやってるだけだ。


本当は一刻も早く、コンクール用の作品を撮らないといけないってのに……。


 体育館から校舎の渡り廊下へ出る。


何かが通り過ぎたような気がした。


「ハク?」


 半透明のチビ龍を探して、周囲に目をこらしても、どこにもその姿は見当たらない。


「気のせいか……」


 そもそもそんなものが、しょっちゅう見えられても困る。


あんな、非現実的で厄介なもの……、面倒臭いだけだ。


そう。


俺の時間は俺だけのもので、他に使われることなんて許されない。

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