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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第9話

「じゃあね」


 微笑んだ彼女が背を向けた。


このまま行かせてしまったら、きっともう会うこともない。


同じ学校、同じ校舎にいながら、すれ違っても話しかけることすらしなくなるんだ。


拳を握りしめる。


「……。モデルを、頼みたいんだ」


 俺はなにを言っているんだ! 


もう関わりたくないって、面倒くさいって、散々思ってたじゃないか!

 

これでもう希先輩や写真部の連中に、からかわれることもなくなるっていうのに! 


彼女は振り返った。


「も、もちろん、嫌なら断ってもらっても……全然、いいし。ほら、もう荒木さんにもやってもらってるから、演劇部としての義務は果たしてるワケだし……」


 そうだ、そうだった。


彼女がもう、俺に付き合う義理はない。


「……。無理にってことでも……、ないし……」


 なにやってんだ。


本気で挙動不審だ。


自分でも自分が気持ち悪すぎて、吐きそうだ。


「さ、さっき……、このベンチで撮った写真がよくて……。その、よかったら……」


 ヤバい。帰ろう。


どのみち俺には、縁のない出来事だった。


こんなこと、不思議な生き物も恋も冒険も、所詮俺には無関係なんだ。


似合わないしあり得ない。


もうちょっとで勘違いするところだった。


早く正気に戻ろう。


頭を冷やさないといけないのは、こっちの方だ。


「あ、ゴメン。やっぱ……」


「いいよ。だけど、私もお願いがあるの」


「お、お願い?」


「やっぱり、どうしても人手が足りないから、撮影を手伝ってほしいの。出来れば編集まで……」


 あぁ、やっぱり彼女にとっては、大事なのはそこなんだな。


「だ、だから、大会が終わってからだったら……いいよ。写真部のコンクールには、間に合うと思うから。……。ダメ?」


「分かった」


 胸の動悸が激しい。


言いたいこととか、言っておいた方がいいんだろうなーって思うこととかは、沢山あるけど、それが具体的な言葉になって出てこない。


それはどうやら、彼女も同じみたいだ。


「じゃあ、また今度……、ね」


「うん」


 心臓が止まりそう。


彼女の姿が見えなくなって、ようやく息を吐き出す。


全身からどっと汗が噴き出した。


「あぁ、とんでもねぇな……。俺……」


 今さら顔が赤くなる。


恥ずかしくて死にそうだ。


よくやるよ。


なんてことを口走ったんだ、自分。


よくオッケーしてくれたよな。


そうじゃなかったら、今度こそ本当に学校にこれなかったかも。


「……。命拾いした……」


 そうだ。


俺は彼女に対して、大変迷惑で申し訳ないことを言い出したんだ。


こんなこと、誰かに押しつけていいような感情じゃない。


彼女には迷惑をかけないよう、心して撮影に臨もう。


一人で帰る坂道に、固く誓った。

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