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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第4話

「で、どこで撮影すんの」


 どうせなら誰もいないところで、一度ゆっくり話しがしたい。


「じゃあ、教室で」


 人気の消えた放課後の廊下を進む。


周囲から生徒たちの声だけは聞こえてくるのに、校舎の中はひんやりとして誰もいない。


冷房をつけっぱなしにしたままの、教室の窓を開いた。


「そんなことして、怒られない?」


 そう言って荒木さんは笑ったけど、俺はその姿にレンズを向けた。


「そのまま、窓の外を見ていてください」


 彼は整った顔でクスリと笑うと、窓枠に肘をついて俺に背を向けた。


「撮すのは背中でいいの?」


「こっちで勝手に動くので。必要なら指示を出します」


 いまの正直な気持ちを言うと、こんな撮影をさせてくれることがありがたい。


モデルを独占できるなんてことは、滅多にないことだ。


俺は机を避けながら、何度もシャッターを切る。


彼は窓枠に背をあずけたまま、ふいに教室の中を振り返った。


「退屈しのぎに、ひとつ面白い話しをしてやろう。俺がこんなことを話すのも、お前が目にするのも、この生涯でいま一度だけだと、肝に銘じておけ」


「え……」


 カメラ越しに見る荒木さんの輪郭が、ぐにゃりと歪んだ。


構えていたレンズを下ろす。


白いカーテンが、大きく風に巻き上げられた。


それが元に戻ったとき、窓際にたたずむ彼の姿は、白銀の鱗を輝かす美しい龍の姿に変化していた。


「まさか自ら、この姿を人に晒すことになるとは、思わなかったな」


 3メートルはあるだろう巨大な体が、机の下に沈む。


そこから立ち上がった時には、もう元の人間の姿に戻っていた。


「アレは本当に俺の妹だ。罪を負い地上に降ろされた俺を探して、こんなところまで来てしまった。顔を合わさず正体も知られないまま、天上に戻したい。助けてはくれないか」


 教室の中に妙なキラキラが光っているのは、きっと気のせいなんかじゃない。


「は? な、なんだよそれ……。か、勝手なこというなよ。大体、そ、そんなこと言ったって、もうハクとは接触してるんじゃ……」


「あぁ、そうだ。そのおかげで、俺は自分の記憶まで取り戻してしまった。死んではまた生まれ変わるという輪廻の苦しみに、己を消し去っていたのに」


 荒木さんは、穏やかな笑みを浮かべた。


俺はその不思議な魔力を持つ姿に、息をのむ。


「これ以上罪を重ねたくない。アレが宝玉を地上に落としたせいで、俺は引き寄せられたんだ、この場所に。近頃はこの付近ばかりで、繰り返し生まれ変わっている」


 彼は椅子を引くと、そこに腰を下ろした。


ほおづえをつき静かに目を閉じる。

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