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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第2話

 体育館のステージを練習場としている演劇部が、そこからはみ出して外に出てきていた。


黒髪の、誰よりも一段と背の高いあの人は、すぐに分かる。


「荒木さん、いますよ」


「え? あ、本当だ」


 さっきまでこっちを向いていた希先輩のレンズは、もうその人に向けられた。


「いい写真、撮れました?」


 先輩は、ショートボブの短い髪を耳にかけ直す。


「今ね、同じクラスなんだ。1年の時に一緒だったの。2年は違ったんだけど。今はまた同じクラスなの」


「そうだったんですね……」


 その横顔が静かに微笑んだ。


「実は私、一度あの人にモデルを頼んで、断られたことがあるんだ」


「そうなんですか」


 なんだかそれは、知っていたような気がする。


校庭の隅で泣いている先輩を、一度だけ見かけたことがある。


「だから、今回うちに頼みに来たのかなって。私にモデルするからって言えば、演劇部に協力してくれるかなって、思って来たのかなって……」


 その荒木さんは、ここからは遠い体育館外のエリアで、演技指導をしている。


じゃあ、断ればよかったじゃないか。


「じゃあ、モデル頼まないと損じゃないですか」


「はは。それはなんか、私のプライドが許さないからダメ」


 彼女はニッと微笑んで、俺を見上げた。


「で、舞香ちゃんとは?」


「は? 何言ってるんですか……」


「聞いたよー。昼休み、二人でずっとしゃべってたって」


「……。は? そ、それは!」


「なになに? 照れてんの? かわいー。なんだかんだで、ちゃんと頑張ってるんだ」


 きっとその誤解は簡単に解けないだろうし、俺の気持ちも永遠に伝わることはない。


「ねぇ、一緒に行こうよ」


 先輩の手が、俺の制服の袖を引いた。


「いいですけど、俺は写真撮りに行くだけですからね!」


「はいはい」


 うれしそうに駆け出す先輩は、本当は自分がそうしたいだけなんだって、知ってる。


だけどそんな顔でそんなことを言われたら、もう立ち上がるしかないじゃないか。


遠くに見えていた、体育館横へ向かう。


コンクリートで固めた地面に、使われていない机と椅子をいくつか並べていた。


これを大道具の代わりに見立てて、練習しているらしい。


「こんにちはー。ちょっとお邪魔しますね」


 そう言った先輩の後ろで、俺はペコリと頭を下げる。


すぐに快い返事が返ってくるのは、協力関係が成立しているから。


他の運動部とかだと嫌がられることも多いのに、これは写真部にとって、本当にありがたい話しなんだ。


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