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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第13話

 この祠も、いずれは朽ち果ててしまうのだろうか。


そのご神体としての宝玉を失ったいま、この祠の残された意味はなんだろう。


誰にも知られずひっそりと、深い森の中でたたずむそれは、なにを思うのだろう。


 森から抜け出すと、荒木さんは通学路に飛び降りた。


すぐ後に続いていた舞香に手を差し伸べ、降りるのを手伝おうとしているのに、彼女はためらっている。


俺はそんな舞香より先に飛び降りると、彼女を見上げた。


「帽子はどうするの?」


 ハクの帽子を、舞香は自分の頭に乗せた。


俺と荒木さんから伸ばされた二本の手に、彼女は掴まる。


せーので無事に着地した彼女は、まるでハクみたいだった。


 山門をくぐると、池の周辺には十数人の生徒が群がっていて、その中には先生の姿もあった。


すぐに消えてしまった巨大な光の柱に、様々な憶測が飛んでいる。


「圭吾!」


 山本とみゆきが飛び出してきた。


「お前、どこにいたんだよ!」


「えぇっと……」


 後ろを振り返る。


荒木さんは体についた枯れ葉のくずを払っていて、舞香は泣きあとの残る顔を見られまいと、ハクの帽子でそれを隠していた。


「……あれ、もしかしてお前らか?」


「あ、あぁ……。うん。まぁ見たけど……」


 言葉に詰まる。


なんと答えていいのか、分からない。


山本の目が、真っ直ぐに俺を見つめた。


「なんかさ、俺には光りの中に龍みたいなのが……」


 ふいに、彼はその次の言葉を飲み込んだ。


「いや、何でもない! お前らが無事だったら、俺はそれだけでいいんだよ!」


 山本は笑っている。


みゆきは首にかけていたカメラを外すと、それを俺に押しつけた。


「フラッシュ! カメラのフラッシュが壊れたのよ! ね? そうでしょう?」


 みゆきの顔がグッと鼻先まで近寄る。


「それで騒ぎになっちゃったけど、もう撮影終わったし調子も戻ったって、そういうことよね」


 彼女からの『そういうことにしておけ』圧が凄い。


「そ、そうだよ……。だけどもう、直ったから大丈夫」


「はは……」


「ははは」


「あはははは……」


 群衆の中から、希先輩が姿を見せた。


荒木さんの姿を見つけると、そのまま飛びつく。


しがみつくようにその胸にすがる希先輩に、彼はため息をついた。


彼女のその肩を抱き寄せると、耳元でささやく。


希先輩はようやく顔をあげ、小さくうなずいた。


「俺たちも帰ろう」


 そんな風景にも、俺の胸はもう痛まない。


舞香を振り返る。


彼女は隅っこで小さくなったままだった。


ハクの残した帽子のつばを、ぎゅっと握りしめたまま、動けずにいる。


まだ震えている彼女の手に、俺は自分の手を添えた。

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