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龍神さまのいるところ  作者: 岡智みみか
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第12話

「元気でね。もう二度と会えないかもしれないけど、私はずっと忘れない。空の上から見守ってて。私はちゃんと、元気にしてるって」


 舞香の腕の中で、小さな女の子は息を飲む。


覚悟を決めたように、それを吐き出した。


「……分かった。私も舞香のことは忘れない」


 光りの中で、ハクの体は女の子から龍へと変化する。


その力には、何人たりとも逆らえない。


「たとえ遠く離れても、永久にこの身を分かつとも、そなたのことは決して忘れぬ。また会おう、いつの日か。そなたと交わした約束を、我が違えることはない」


 ハクの体は、ゆっくりと光りの中で宙に浮き上がった。


「……私にとって……大切なヒトが、天上からいなくなったんだ。いわれのない罪を着せられ、それと分かっているのに、誰もそれを止めなかった。そのヒトは自ら地へ落ちた」


 ハクは俺の手にある宝玉を見下ろす。


「だが私は、信じている。また会える日を。たとえこの身が、ままならぬものと成り果てても……。舞香! そなたの記憶と共に、残しておく!」


 ハクの体が、ゆっくりと天に昇ってゆく。


それはきっと、舞香へ向けて発せられた言葉だったんだろうけど、俺にはまた別のヒトに向けられた思いにも聞こえた。


「これもだ、ハク……」


 荒木さんの掲げた手から、光りの中で宝玉が浮かび上がる。


龍となったハクは、荒木さんをじっと見つめている。


「迎えに……来たんだ」


「お前が持って帰れ」


 それはハクを連れ、天上へ消えゆく光りの柱を追うように浮き上がった。


しかしそのスピードに追いつくことなく、ポトリと落ちる。


荒木さんの手に転がりこんだ。


「ハクー!」


 舞香は叫ぶ。


光りの柱は加速してゆく。


そこにハクを取り込んだまま、宝玉を地上に残し、あっという間に上空へ吸い込まれてゆく。


「ハク……」


 強い光の消え去ったあとの森は、すぐにそれまでの静けさを取り戻した。


目が慣れてきたころには、少しは周囲が見えるようになってくる。


俺はハクのかぶっていた帽子を拾うと、泣くじゃくる彼女に手渡した。


舞香はそれをぐしゃりと胸に抱きかかえる。


「帰ろう。ハクも帰ったよ。俺たちも帰ろう」


「うん」


「待て」


 荒木さんは俺を呼び止めた。


「これはどうする」


 その手には、すっかり輝きを失った宝玉が握られていた。


「どうするって……」


「お前に預ける」


「え?」


 ポンと放り投げられたそれは、空中で一瞬光ったかと思うと、ふわふわと宙に浮かんだまま、こっちに漂ってくる。


「え? えぇっ!」


 この世界の全てを透かしたような透明な玉は、俺の胸にスッと吸い込まれた。


荒木さんはニヤリと笑う。


「所詮短い命だ。一瞬の間、お前に預けるよ」


 フェンスの向こうで、ざわざわとしたどよめきが聞こえる。


突然現れた光りの柱に、生徒たちがざわついていた。


「さぁ、帰ろう。俺たちの日常が待ってる」


 歩き出した荒木さんの後ろを、舞香は歩き始めた。


俺もその後ろをついてゆく。


彼女の胸には、ハクの残した濃紺の帽子が握られたままだ。


俺は古代から姿を変えない、太古の森を振り返った。


そこには空っぽになった祠が残されている。


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