悪魔の儀式
こちらは百物語四十七話になります。
山ン本怪談百物語↓
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アメリカへ留学した時に、ホームステイ先の息子さんから聞いたお話です。
私がホームステイ先に選んだ町は、とても信心深い人たちが集まるところとして有名な場所でした。
町の中央には大きくて綺麗な教会があり、友達と一緒によく見に行ったものです。
話をしてくれた息子さんによると、この町には昔「ハワード」という青年が住んでいたそうです。彼は神を信じており、家族思いの優しい青年だったそうです。毎日教会へ通ったり、聖歌を歌うことも好きだったみたい。
ある時、彼の身に最悪の事件が起こりました。
「末期がんです。余命は…半年でしょうか…」
彼は医者から末期がんを宣告されてしまったのです。状況は最悪で、命も残りあとわずかということでした。
「あぁ、神様…何でもします…どうか僕を助けてください…!」
薄暗い小さな病室で、彼は毎日神に向かって祈り続けました。もう神に頼るしか方法がなかったのです。
「お願いします!どうか、どうか…!」
彼が祈り続けてから数日後の夜、不思議な出来事が起こりました。
深夜遅く、ベッドの上で金縛りに襲われた彼が目を覚ますと、目の前に赤ちゃんを抱えたおばあさんが立っていました。
「だ、誰だ!」
彼はおばあさんへ呼びかけましたが、返事はありません。おばあさんは彼に向かって優しそうな笑顔を見せると、どこからか大きなナイフを取り出した。そして…
「うわぁあああああああああっ!!」
おばあさんは彼の腹をナイフで思いっきり切り開いたのです。そして抱えていた赤ちゃんを、彼の腹の中へ押し込んだそうです。病室の中に赤ちゃんの泣き声が響き渡る中、彼はそのまま気を失いました。
翌朝、彼はパジャマを汗でびしょびしょにした状態で目を覚ましました。自分の腹を確認してみたところ、傷跡や何かをされたような形跡はない。昨日のことは夢だったようです。彼は安心した様子で、朝の治療へ向かいました。
「し、信じられん!どういうことだ、これは!?」
治療中、とんでもないことが起こりました。調子がよくなった彼の身体を医師が確認してみると、末期がんが治っていたのです!
「あぁ、神様…ありがとうございます!」
どういうわけか、彼の末期がんは綺麗に消えて無くなっていたそうです。彼は退院すると、すぐに町の教会へ向かいました。そこにいた神父様へ今まであったことをすべて伝えたそうです。
「病気が治ったのは、神様のおかげです。神様を信じてよかった…」
彼は神父様に向かって、病院での体験を嬉しそうに話しました。しかし、神父様の顔色は何故か少しずつ青ざめていきます。そして…
「なんということだ…君は大変なことをしてしまったね…」
神父様は彼に向かってそう言い放ちました。驚いた彼が理由を聞いてみると、恐ろしいことがわかったのです。
「君が生き残った理由は『悪魔』と契約を結んでしまったからだ」
あの日の夜、彼の前に現れたおばあさんは、悪魔の使いだったそうです。彼は助かりたいと考えているうちに、無意識に悪魔と契約を結んでしまったのです。
「明日悪魔払いをするから、必ず教会へ来るように…!」
翌日、彼が教会に顔を出すことはありませんでした。
神父様が彼の母親に理由を聞いてみると、教会へ行こうとすると吐き気や頭痛が止まらなくなったとか…
数日後、彼は行方不明になりました。
彼の部屋のゴミ箱には、バラバラに切り裂かれた聖書と神様の肖像画が捨てられていたそうです。
彼はどこへ消えてしまったのでしょうか。
行方はまだわかっていません。