第7話 存在を確認するには観測が必要
それは運命の出会いだった。…なんてね。ただ、入学式の日に声を掛けて、そのまま仲良くなっただけのこと。でも、今思い返してみれば不可思議な邂逅だった気がするのは何故だろう。
オリエンテーションの為、大講堂に移動している時だった。普段の僕なら気にはするけど、声を掛けるなんてことするはずがなかった。その娘は壁を背にし、過ぎ去る生徒をただ眺めていた。いや、眺めていたという表現は正しくないかもしれない。彼女はまるで幽鬼のように佇み、時々存在がぼやける様には何度、目を疑ったことか。しかし、神聖さすら感じさせる穢れを一切寄せ付けない純白の髪に魔性を放つ赤い瞳に見入ってしまった。魅了されたと言ってもいいかもしれない。その人間らしからぬさに。灯に近付く羽虫の如く、自然と彼女の元へと足を進める。火傷しなかったのは奇跡だった。そして、気付かない内に口を開いていた。
「ねぇ。こんなところで何やってるの?誰か待ってるの?遅れちゃうよ?」
「………」
話し掛けてみたけど、反応はなかった。無視されているというよりも本当に気付いていない感じだ。僕はもう少し近付き、目と目が合うようにしてみた。すると彼女の焦点が次第に僕に合わさるのが分かった。変化は劇的に起きる。目に精気が宿るどころか、今この瞬間一個の生命体として誕生したんじゃないかと思えるほどの存在感があった。いや、それ以上かもしれない。彼女はまるで、地上に舞い降りた女神のような美しさだった。さっきまでのあやふやさとは大違いだ。そんな彼女は何故か混乱していた。
「え?…これは一体………えっと、どうなってるの?」
「お、落ち着いて。―――僕の名前は美音悠翔。君の名前は?」
ぶつぶつと呟いていた彼女が僕を見た。ちょっ、近い近い、近いって!いつの間にか鼻と鼻がぶつかりそうな距離にいた。唇が少し遠いのがもどかしい。どうやら僕の目を覗き込んでいたようだ。その瞳は僕の目を通して、僕の内側を暴いているんじゃないかと思えるほど神秘に煌々としていた。正直言って目が離せないし、瞬きすら忘れてしまった。それにしても、さっきから僕はどうしてしまったんだろう?目の前のころころと印象が変わる女の子に情報を処理しきれず困惑を禁じ得ない。よし!一旦落ち着こう。名残惜しさを覚えつつ、瞼を閉じる。最初のイメージを思い出すんだ。小柄で素朴ながら可愛らしい女の子。白い髪に赤い瞳。うむ、隠れ巨乳に違いない!ぐへへ。最後に欲望が漏れてしまったけど、イメージは固まった。目を開けると思い描いた通りの女の子がそこにいた。すると今までの困惑が嘘のように消えていた。
「あっ、ごめんなさい。…えっと、私の名前は………華夜。神宮華夜。」
「よろしくね。神宮さん。」
僕から一歩下がり挨拶を終える。その後は一緒に大講堂に移動した。神宮さんはこれまで各地を転々としていたらしく、その土地の話や昔のことも詳しくて聞いてるだけでも楽しかった。特に昔話なんて、まるで見て来たかのように話すもんだから質問ばかりしてしまったよ。
それ以来、神宮さんとは一緒に行動することが多くなった。勿論、最初にパーティーを組んだのは彼女だ。1番仲のいい女の子と言ったら神宮さんと断言してもいい。そんなある日、神宮さんから提案された。
「ねぇ、ハル君って呼んでいい?」
「ハル君?」
どこからハルが来たかなど分かっている。悠から捩ったのだろう。だとしても、ユウトなりユウでも良かったのでは?と思い、聞き返していた。
「うん。美音君は特別なんだよ。だから、他の人とは違う呼び方がしたいの…。」
「そっか、ありがとう。―――うん、いいよ。じゃあ、僕も華夜ちゃんって呼ぶね。」
「…うん。」
華夜ちゃんは恥ずかしそうにモジモジしていた。そういう僕も照れ臭くてしょうがない。何これ?まるで、付き合い始めの恋人同士みたいじゃないか!なんてね。でも、華夜ちゃんがこんなことを言い出した理由はなんとなく察している。この頃になると峰勇人が頭角を現して来たのだ。僕は勝手に比較して意識していた。自意識過剰全盛期の僕には華夜ちゃんの言葉はとても響いた。僕と峰勇人は別人だ。そんな当たり前のことに気付くことが出来て、心も体も楽になれた。何よりも、華夜ちゃんが僕を見ててくれると思えることが1番の励みになる。そう、華夜ちゃんは気遣いが出来る、とってもいい娘なのだ。
♢♢♢
「よしっ、皆揃ったね。それじゃあ行こうか。」
「いや、待てよ!竜胆が来てないだろ?」
「何言ってんのさ。最初からいるじゃないか。」
僕の背後に視線で示しながら言う。最後のパーティーメンバー竜胆綾女。
「うおっ!気配がないからビックリするじゃねぇか、竜胆。やっぱりお前、忍者だろ。」
「………忍者じゃないと言ってるだろうが。殺すぞ…。」




