第3話 物語は始まる前から始まっている
おはようございます。僕は今、倉庫のような場所で埃が溜まった薄汚れた床に手足をロープで縛られて転がされています。周りは物が乱雑に積まれていて、ここからでは状況がよく分かりません。それに、こんな特別待遇は初めてですよ。感動のあまり涙が溢れそうになりました。どうやら僕も連れ去られたみたいです。
少し混乱していたけど、落ち着きを取り戻したところで、彼女のことを思い出してみよう。
天園朝日
家庭の事情で学園に連なる養成機関に所属していたが、この1年間で才能が開花する。魔力適正が軒並みに高く、攻撃・防御の両面で活躍が期待出来る。そして、彼女を特別たらしめるのは複合魔法の発動に成功したことだ。複合魔法の使い手はかなり少ない。実績を評価され、指導のために学園に特待生として招かれたのだ。
幼い頃から苦労が多かった彼女だが、健気で前向きな性格だ。くりっとした大きな瞳は希望が溢れているかのように輝いている。前を向く彼女の顔にはそんな苦労や影を全く感じさせない。健康的な肢体に白い肌が眩しいぜ。少女から大人へ羽化しようとしている有様は目が離せない魅力を感じることだろう。スリーサイズは………おっと!これは必要ない情報だったね。
おや?天園さんの紹介をし終えたら、なんだか騒がしくなってきたぞ。何やら口論しているのが聞こえる。
「司祭様が来られた。喜べ!これから儀式を執り行って頂けるのだからな。」
「…儀式?何をするつもりなの?」
「貴様が知る必要はない。ただ受け入れるのみだ。」
「こんなの犯罪よ!許されることじゃないわ!警察だって直ぐに―――」
「―――感じます。魔神様の力をあなたから感じます。私はあなたが羨ましい。魔神様から加護を受け、力を育む役目を賜ったことが。ですが、同時に嬉しく思います。あなたの力を魔神様に御返しする時が来たのです。勿論、その使命を私が担えるのですからね。」
男が滔々と話している間に、僕は全体が見える物の隙間を探して発見に成功した。それにしても、説明ありがとうございました。なるほど、奴らは魔神教団の一員のようだ。ちなみに魔神教団は総称であり、3つのグループに分けられる。世界に恩恵を与える魔神を崇め、感謝を捧げる魔神信仰の信徒。魔神への拝謁を至上の目標に掲げ、戦闘面に特化した狂信者。そして、大多数を占める社会のゴミ屑。魔神の名を騙り、信仰を建前に犯罪を正当化する頭のイカれた連中だ。『魔神♡くえすと』において、このゴミ屑らとの戦闘が頻繁に発生する。司祭なんて雑魚キャラどころか、経験値と好感度を貢いでくれる嬉しい存在だ。………主人公にとってはね。でも、僕は違う。取り巻きの奴らですら、僕よりも強いことをお腹が覚えているのだから。
しかし、変だな。天園さんが事件に遭遇していたなんて、ゲーム内では全く触れていなかった。自力で解決―――は無理そうだし、警察が助けに―――来る気配はない。どうなってるんだ?こういう時こそ主人公の出番だろ?…ん?思い…出した!天園さんが主人公への恋心を確信する時に言ったセリフが印象的だったのだ。
”キミだったんだね。”
僕は察してしまったよ。しかし、流石はヒーロー。助けたことを黙っているなんて、格好よすぎるんじゃないだろうか。でも、これで一安心だね。主人公が来るのを待っていればいいんだから。天園さんのピンチを救ってくれ。ついでに、僕の膀胱も助けてほしい!
「男の方はどうしますか?」
「ん~?男は処分…魔神様への供物として捧げればいいんじゃね?」
今まで聖職者然とした雰囲気で話していた、黒のキャソックを着た男が興味なさげに適当さを感じる声音で、そんなことを言った。
は、早く助けに来てくれーーーーー!
「ですが、儀式が先です。男は放って置きなさい。」
最早、嫌らしさを隠しもせず、天園さんを舐め回すように見る。身の危険を感じた天園さんは自然と後退るが、男達に囲まれていて逃げ場がない。
パァーン!!
炸裂音が響き渡る。音の発生源に目を向けると司祭が鞭を握っており、どうやら試し振りをしたようだ。天園さんが苦い表情と共に冷や汗を流す。
「では、始めましょうか。…ああ、そうそう、抵抗しないことをお薦めしますよ。魔法は使えないのですから。」
「くっ…。可笑しいと思ったのよ。どうやら、薬を盛られたみたいね。」
正に、絶体絶命のピンチ。果たして彼女の運命や如何に―――――




