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第29話 心情x信条x真情

 物事とは、いつも思い通りには進まない。一人の人間には手に余る。更に、他人が関わってくれば尚のことだ。時間の調整、目的意識の設定などをしてやらないと集団として機能しない。集団生活を主とする人類だが、行動指針は一人ひとりバラバラだ。時の指導者はそんな有象無象をカリスマ、または暴力で纏めてきたんだろうなぁ…。


 大袈裟で益体もないことを考えているのはウチの野郎共の所為なんだよね。夏期休暇も1週間を切ったとはいえ、無駄にしたくない。東雲先輩との約束を早めに果たしたいのだ。そこで、仲間に連絡を取ったが…、男共は全滅した。え?課題やってるんじゃないかって?無論、やってるはずがない。期間を設けたのは僕の気遣いである。自己責任なんだよ。どうせ暇してるだろうからと、もう1日だけダンジョンに行きたいと言ったのだけど断られた。無理だって。何やらこそこそとやっている様子。…怪しいな。あっ、ちなみにジュアンは期待してない。一応、メッセージを送ったけど既読すら付いていない。予想が正しければ、魔法()漬けになっていることだろう。たとえ話が出来たとしても受け答えが酷く困難になるんだよね。


 「ん~。この際、臨時で組んじゃおうかな。」


 管理棟。ダンジョン入り口の延長線に存在する建物。現界と異界の狭間。活気に満ちており、魔物素材の買取や掲示板にはダンジョンの情報が所狭しと溢れている。その他に依頼や臨時メンバーの募集など様々だ。…ふむ。悪くないかもしれない。情報収集に来ていた僕は掲示板を眺めながら閃きを得る。しかしながら、誰でもいい訳ではない。僕の切り札の実証とあの東雲先輩が同行するからには、信頼できる人物に限らねばならないのだ。さて、僕の知り合いで組んでくれそうな人は、と…。


 「こんにちは。美音くん。」


 声を掛けたのは誰であろう我らが委員長、識さんだ。委員長職とは全く関係ないけどね。頭に浮かべた人物リストには載っていなかったので、一瞬虚を衝かれてしまった。識さんとは同学年ながら会話は数えるほど。内容も事務的な物になる。まさか、彼女から声を掛けられるとは思わなかったよ。


 「…あ、こんにちは。識さん。」

 「今、時間あるかしら。少し話したいと思ってたのよ。」


 スラっとした肢体に姿勢も良く所作が指先、否、爪先まで完璧。キリっとした目元と相俟ってクールな面持ちな麗人。髪を耳に掻き上げる動作すら美しく、完成された芸術のようだ。彼女が頭を下げている姿態は一枚の絵画を鑑賞している気分にさせる。………ヤバっ!!あまりにも流麗過ぎて反応が一拍遅れてしまったよ。謝罪する識さんに見惚れてどうするっ!


 「ちょっ、頭を上げてよ。謝罪ならもう大丈夫だからっ。朝日さんからちゃんと聞いてるからっ!」

 「…そう。ならこれは私の我が儘だと思ってちょうだい。」


 パチンとウインク。


 事件の話から流れるような謝罪だったので、慌てて止めに入る。元々、識さんに責任はない。管理責任とか言い出したら、そもそもリーダーが問題を起こしてるんだよね。逆に被害者だと言ってあげたい。まあ、納得しないだろうから言わないけど。…それにしても、頭を上げさせるのが少し遅かったか。あんな完璧な謝罪を傍から観れば、僕が謝らしている悪者に映っても可笑しくない。ほら~。僕にチラチラ視線を飛ばして、ざわついてるじゃん。でも、気にしない。クール美人かと思ってたけど、茶目っ気もあるんですね、識さん。


 「天園さんがどうしても、と言うから任せたけど、随分と仲良くなったみたいね。」

 「普通だと思うよ?たまにメッセージのやり取りするだけだし…。」

 「そうなの?」


 そういえば、朝日さんの名前を出した時に僅かだけど反応したんだよね。名前で呼んでいるから勘違いさせたみたいだけど、僕と朝日さんの関係は驚くほど進展していない。あっ、先日、桜子さんとお茶した時、朝日さんも家に居たから一緒に楽しんだんだよね。でも、朝日さんは何故か終始そわそわしてて…、どうしたんだろ?


 識さんは、自身が認めた人物には協力を惜しまないが、その分、見切りをつけるのは早い。ゲームでは最後までヒロインを何かとサポートしていた。そのことからも朝日さんを気に掛けていることが、短い会話ながら窺い知ることが出来る。いい人。


 「ところで美音くん、あなたも情報収集?」

 「うん。もう1日潜りたかったんだけど、メンバーの都合が悪くてね。いっそのこと臨時で組もうかと考えてたとこ。」

 「そう。…よかったらで構わないのだけれど、私をパーティーに加えてくれないかしら。」


 お詫びじゃないけれど、と識さん。ふむ、悪くないんじゃない?いや、かなりアリでしょ!何より識さんには<生命の星球>を見られているし、常識的かつ理知的な彼女なら信頼できる。東雲先輩との関係に不和を招くことはないだろう。


 それに、聞いたところによると彼女たちのクランは分裂寸前の憂き目。識さんも大変なのに噯にも見せず、誠意を以て行動を示してくれる。今までクラン全体の能力向上に尽力してきた識さんには固定パーティーがない。高い指揮能力を生かして仲間の指導をしてきたが、今となっては裏目に出てしまった。端的に言えば、上司と部下の関係を彷彿とさせる。常に行動を共にするには精神的圧迫、窮屈さを与えるかもしれない関係。ダンジョンにおいて、それは致命的。更に、冷ややかな態度に捉えられてしまうのも重なり、メンバーとしては敬遠されているらしい。


 しかしっ!僕にとってはチャンスではないだろうか。これを機に正式に加入してくれてもいいんですよ?僕の代わりに指揮を執るも良し、得意の魔法弓を用いて遊撃手をすれば、持ち前の判断力で成果を出すこと間違いなし。引き抜きチャンスである。なんてね。


 「僕としてはありがたい申し出だし、是非お願いしたいところだよ。仲間に確認取るから返事は―――」

 「役立たず共がっ!」


 特別大きくないはずの怒声は、本来なら管理棟の喧噪に吞み込まれただろう。だが、現在は彼、彼らを中心に波が広がるように静まり返り、引き波に乗った視線が向かう先は―――1人の男子生徒。そして、彼の前で一糸乱れぬ整列と共に、深々と最敬礼を崩さない少女たち。


 彼は本郷くん。名前は忘れたけど、1年生の有名人。いわゆる御曹司で、性格に難ありとのこと。まあ、一目この光景を見れば明らかだけどね。今も小言が続いているし。そのため、パーティーを組んでくれる人がいなかったらしい。噂では取り巻きがいるとか…?ソロで活動する人もいるので、組めないのは別に問題ではない。だが、この学園には抜け道が存在する。俗称は傭兵制度。外部生として登録することで学生のサポートが許されるのだ。つまり、外部生の功績は雇った学生に反映される。だとすれば、外部生で溢れてると思われるかもしれないが、当然高い壁が聳え立つ。何かと言えば、ズバリ皆大好きなお金である。登録料が馬鹿げた額だとか。汚い!金持ち、汚いっ!その証拠に彼女らは学園の制服を着ていない。注目を浴びる原因にもなっている彼女たちの装いは、そう―――メイド服なのだ。


 「申し訳ございません。」


 感情を殺しに殺し切った声。探索帰りなのだろう。ダンジョンに面した門の近く、管理棟に戻って来て直ぐの叱責。至る所に奔る傷跡。ちなみに本郷くんに傷は皆無の模様。かなり疲弊しているだろうに、ふらつくのさえ命を削る思いで耐え忍んでいる。状況が違えばメイドの鑑と称賛していただろう。でも、これは余りにもあんまりだ。憤り、哀れみ。彼女たちに向ければ余計辱める感情が僕の胸中に渦巻く。


 「ちゃんと仕事しろよな。サボんなよ。」


 言いたいことを終えたのか、そそくさと管理棟から出て行く。メイドさんを残して。場の支配者が去ったことで限界を超えたのか、糸が切れた人形のように崩れ落ちる少女。周りの第三者たちも徐々に散り散りになる。中には憐憫の念を向ける者もいたが、多くは興味をなくしたように日常へと戻って行く。


 結局、最後まで見ていることしか出来なかった。いや、無闇に割って入れば、彼女たちの立場が只々悪くなることは目に見えている。それでも、と考えることを止める資格は誰にもない筈だ。…どうやら、体は正直らしい。僕の足は自然と動き、気付けば彼女たちに近づくと各種魔法を掛けていた。清潔・手当・魔力譲渡・体力回復を一通り。無断で施したけど、許してほしい。微々たるものだけど、彼女たちの一助になれば幸いだ。まあ、僕がしゃしゃり出たことに驚いているのが現実だけどね。目を見開いたり、瞬きを繰り返しているが、表情の硬さは顕著。僕は女の子の笑顔が見たいのさ。


 まあ、栄養ドリンク程度の効果じゃ、気休めもいいところでしょ。ユウトリン1.0g注入。え?………キモイ…だと⁉自己評価の低い冗談はさておき、僕の治療も限度がある。これは蓄積した分もあるかもしれないな。本職に任せるべきだね。


 ちなみに、パーティーで治癒魔法を使えるのは僕だけ。そんな僕が、いの一番にリタイヤするなんて、しっかりしろよと言われても反論できない。面目ない。それにしても、あのレッドドラゴン、ヒーラーを先に潰すなんて戦術というものを理解してやがる。なんてね。


 「簡単な処置はしたけど、しっかり治療してもらった方がいいよ。」

 「それなら、私に任せてくれるかしら。」


 どうやら識さんも付いて来てくれたようだ。療養棟に連れて行く運びとなったが、かなり渋られてしまった。なんでも、自分たちの勝手は禁じられている為、療養棟へは行けない、と。あ~、学生じゃないから治療費が発生しちゃうんだよね。なんだよ、それっ!!


 「友人に話を通すから、心配はいらないわ。」


 安心しなさいとばかりに眼鏡をくいっと押し上げる識さん。頼もしいね。説得の甲斐あって、どうにか納得してくれたメイドさんは僕に感謝の言葉を口にする。


 「あの、えっと………、お心遣いありがとうございます。」


 気にしなくていいよと手を振る。戸惑いながらも気持ちを表してくれたんだけど、その様子から確信を得るには十分だった。彼女たちは余りにも他人からの優しさに慣れていない。環境が原因なのは明白だろう。それでも、僕の想いはきっと届いたと信じている。最後には、はにかんでくれたのだから。


 “紳士たれ”


 僕の信条。女の子には無条件で優しくする。可愛い娘なら尚更だよね。勿論、そこに下心を含んでいることを隠すつもりはない。そもそも、紳士って上辺を取り繕って振る舞うことでしょ。あわよくばとか期待しちゃう訳だよ。僕は本心を隠さないだけ。結局のところ、紳士面した良い人に見せてモテたいだけの小さい男なんだろうね。だけど、今回のことに後悔はない。僕は僕の信条に従った。ふっ、やっぱり女の子の笑顔は最高だね。ちなみに大人で紳士的な人は目指していない。


 「そうそう。一つ気になっていたことがあるのよ、美音くん。」


 別れ際、識さんが思い出したとばかりに振り返り、ふと尋ねる。


 「あの子、ずっと貴方の傍にいたけど、知り合いかしら?」

6月落としてしまった………。

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