第28話 見た目は赤くない専用機
「こんにちは、東雲先輩。お邪魔していいですか?」
「やあ、悠翔。いらっしゃい。お茶を用意するから座っててくれ。」
ふわりと微笑んで出迎えてくれる東雲先輩。僕は今、彼女の研究室を訪れている。以前、調査の進捗状況を報告する約束をしていたのだが、それが今日というわけ。言われた通り椅子に座り、待ってる間に回りをキョロキョロ見てしまう。失礼な行為かもしれないけど、好奇心と警戒心が本能的な行動へ移してしまう。それにしても、東雲先輩の研究室は綺麗に整理整頓されているなぁ。研究者って資料を積み上げて、物がごちゃごちゃしているイメージが強いよね。
「私は客を招くことがないから、そわそわした気分になるよ。」
戻って来た東雲先輩が恥ずかし気に告げながら、お盆に乗っていた物を僕の前に置く。………試験管。そうそう、研究者って試験管でお茶飲んでることあるよね。あれ?東雲先輩は普通のグラスだぞ?偏見を挿みつつ、目の前の茶色い液体を観察する。まあ、ぶっちゃけ麦茶なんだけどね。でも、試験管に入っているだけで、なんでこんなにも危険に感じるのだろう。劇薬かな。氷がカランと心地よい音色を立て、結露した水滴が硝子ビンの表面を僕の代わりに冷や汗を流す。
「すまない。グラスが私の物しかないことを失念していたよ。新品だから問題ないと思うが、不安なら私の物と交換するかい?」
まるで試すような、…いや、揶揄っているだけだね。交換するにしても既に東雲先輩はグラスに口を付けているじゃないですか。それなら、僕の答えは決まっている。じゃあ、是非!
「あっ、大丈夫ですよ。いただきますね。」
くっ…、日和ってしまった。弄ばれた気分だよ。東雲先輩も楽しそうに微笑まないで下さい。ふう、麦茶おいしい~。ちょっと落ち着いたところで東雲先輩のさっきの言葉を思い出す。実際、彼女は1人だ。研究室は学園が優秀と認めた人物に貸し出している。だけど、1人で使う者はまずいない。必ずと言ってもいいくらいチームを組む。資金の関係だね。与えておきながら予算が出ないとか…。そんな中、1人で研究室を維持している東雲先輩は流石の一言に尽きる。
「では、報告を始めようか。…ああ、その前に聞いておきたいことがあったんだ。悠翔。君の魔力弾の名称をね。」
「ッ…、ゴホッ!」
てっきり報告後の余談でするのかと思いきや、始めにその話題を切り出されて咽てしまったよ。僕の魔力弾は全くの別物だから、今日までに技名を決めるように言われていたのだ。名称は付けた者勝ちとは東雲先輩の言。元々調べていたのは唯の悪足掻きを大いに含んでいる。…その、…恥ずかしいじゃん。………オリジナルの技名って。僕は名前を付けるの得意じゃないんだよ。昨日はアクシデントがあって、それどころじゃなかったし。だけど、時間は待ってくれないようだ。よしっ!ここは腹を決めようじゃないか。
―――<生命の星球>
言の葉に乗せた名は確固たる力として誕生する。
「ふむ、いいじゃないか。………それにしても…いや、まだ…。」
「東雲先輩?」
褒められたはいいけど、何やら思考に没頭し始めた模様。どうしたんだろね。
「おっと、すまない。少し思うところがあってね。それじゃあ、本題に移ろうか。―――」
球体は3つから構成されている。まず、外殻についてだが解析不可能とのこと。全く以て未知の物質らしい。次に2/3を占める部分、揺らめく炎からはドラゴンの生体波長を検知した。恐らく、僕達が対峙したレッドドラゴンであると推察される。そして、驚くべきことに生きていることが判明した。いや、語弊である。生物として生きているわけではないのだ。ドラゴンという存在をそのまま物質化させたと言えば分かるだろうか。以前、灯火を魂の揺らめきと例えたけど、あながち間違いではないのかもしれない。そのことから球体をドラゴンコア、または単純に核と呼ぶことになった。最後の1つは既に聞いているけど、僕の魔力だ。とまあ、自分なりに纏めると以上が報告の内容となる。
「構造としては一応分かりましたけど、結局のところ使い道はあるんですか?」
「よくぞ聞いてくれた!外殻は破壊するつもりで試したが、傷すら付かずサンプルが少ないのが悩みだったが、利用方法については面白い物を用意したよ。」
…破壊しようとしたことをさらっと言われてしまった。ビックリだよ。まあ、好きにやっちゃってと僕から頼んだことだしね。東雲先輩のことだから何か考えあってのことでしょ。
「これは…魔道具ですか?」
テーブルに置かれたシルバーの指輪は装飾がない簡素な物だった。摘まみ上げ観察すると1か所宝石が嵌まっていた。…うん?これ、核じゃん!加工は出来ないって話だから指輪自体に空間収納が付与されているのか。それでいて、空間を完全に閉じていないから宝石が嵌まっているように見えるんだ。技術の高さと洗練さが際立っているなぁ。しかし、使い方の見当が今一つ不明だ。降参とばかりに東雲先輩へ視線を送る。
「うむ。武器形成装置だ。予め武器情報を入力することで、瞬時に望む物を具現化してくれる。悠翔にピッタリだと思わないかい。それに、力の源は核だ。ドラゴンの権能の一端を振るうことが出来るんだよ。」
え⁉すごっ!宝箱と称したブリキ缶に収められたビー玉という遊び道具から一級品の魔道具へと昇格してしまった。…なんか、例えから昭和臭がするんですけどぉー!兎にも角にも、これは僕にしか使えないらしい。僕専用。いい響きだね。なんでも、核に含まれた僕の魔力が個人認証の役目を果たしているそうな。僕が魔力を籠めることにより、核が起動し、パスが通るのだ。しかもしかも!核自体も成長するとかで、愛着が湧くこと必至。手放せなくなること間違いなし。ワクワクが止まらないね!
「ふふっ、気に入ったようだね。」
「ありがとうございます!」
「気にしなくていいさ。私も心躍っているよ。実に興味深い。」
新しい玩具を与えられた子供のように、目をキラキラさせているであろう僕の様子を慈愛の表情を浮かべて見守ってらっしゃる東雲先輩。しかし、目の奥に鷹のような鋭い気配を感じ取ることが出来る。まさにロックオン状態。オッケー、カモン。何時でも僕の全てを曝け出しましょう。なんてね。
そんな中、僕は別のことが頭を過ぎる。新必殺技然り、ニューウェポン然り、思わせぶりや出し渋りをした方が良かったんじゃないの?ここぞという場面での登場は、やはり格好いいと思うんだよ。
「次話、激闘開始と思いきや、回想だったりすると萎えるからね。先に出してしまおうという魂胆ではないかな?」
「そもそも、熱い展開に持って行ける才能があるとも思えないですしね。」
東雲先輩は当たり前のように心を読まないで下さい。思わず同意して、余計なことを言ってしまった。作者だって、頑張ってるんですよ?………たぶん。
「さて、君の魔力弾…いや、<生命の星球>だったね。データを取りたいと思っている。ダンジョンに同行したいのだが、どうだろう?」
「多分、大丈夫です。あとで仲間に伝えておきますね。」
「どうやら、足手纏いとは認識されていないようで安心したよ。」
「寧ろ、僕より強いも有り得ると思ってます。」
実際のところ、東雲先輩の方が強いんじゃないかな?…まあ、これからだし。僕の躍進は始まったばかりだしっ!東雲先輩にサポートされてる奴が何を言ってんだって?…うっさいし!!
僕達は研究の協力を約束をして、「よろしく」と固い握手をした。その後は他愛もない雑談を交えて友好を育んだ。僕的に友達くらいにはなれたんじゃないかと思うんだけど、東雲先輩はどう思っているのかな?うーん、興味は持たれているけど、研究対象として見られてたら嫌だなぁ。まあ、彼女と仲良くなる切っ掛けとしては正しいんだろうけど…。おっと、そろそろお暇しよう。―――としたところで、通知音が鳴る。
「どうしたんですか?」
「…いや、ネズミを発見したようだ。逃げられたがね。」
デバイスで確認していた東雲先輩が渋い表情になったので、思わず尋ねてしまった。ネズミって…そういう意味だよね。戦場はダンジョンだけじゃないみたいだ。しかし、残念ながら僕に出来ることはない。せめて邪魔をしないことだろう。そんな訳で今度こそ退室することにした。
「では、あとで連絡します。」
「ああ、楽しみにしているよ。」
♢♢♢
「………あの女ァ、俺を殺す気かよっ!クソが!!」
多言語の組み合わせには突っ込まないで下さい。
ユニーク累計1万超えました。感謝感謝。
月1話とかヤバイ更新スピードですが、お付き合いありがとうございます。




