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第27話 回想?いいえ、走馬灯です

 霧里瑠唯は早熟だった。中学1年の後半には170㎝に迫り、女性らしさを強調し出した身体付きに視線を注がれることが常となる。思春期真っ盛りで女体に興味津々のお年頃男子により、時に遠巻きから、時に盗み見るようにチラチラと。晒される視線にストレスを募らせる反面、瑠唯自身も自分の体が可笑しいのではと気にしていた。瑠唯もまだ13才の子供に過ぎなかった。体の成長に心が追い付いていなかったのである。


 「霧里ってエロい体してるよな。何カップかな?」

 「ぼ、僕には分からないよ…。」

 「お前、聞いて来てくれ!」


 男子生徒が集まればくだらない話で盛り上がる。だが、様子は真剣そのもの。女体の神秘は思春期における真理なのだ。賑わっていた談義に一つ重い声音が差し込まれ、発言者に視線が集中する。


 「―――皆、聞いてくれ。俺は気付いてしまった。…霧里は呪いに掛かっている。」

 「う、噓でしょ⁉どういうこと?」

 「前から可笑しいと思っていたんだが、霧里を見てると………股間がビンビンに反応するんだ。おそらく淫魔の呪いだな。」

 「さ、流石、エロ伝道師みっちゃん。ダイレクトな物言い…、大胆だぜ!」


 そして、一同は察する。ああ、瑠唯のことが好きなんだなぁ、と。これから言わんとするのは好きな女の子にちょっかいを掛けたいから協力してくれということだろう。


 「そこで俺は、先生に解呪を依頼した。」

 「先生…?」


 みっちゃんの視線の先を追うと窓際前方の席で何やら作業をしている男子生徒。


 「くくく。闇が…、深淵なる闇が我を誘っている…。」


 窓から差し込む斜光が教室を明暗で分ける中、ぽかぽか陽気に当たる男子がなんか言ってる。高く昇りつつある太陽が生温かく見詰め、包み込む。どうやら彼は、早くも中二に進級していたようだ。


 「先生は『解呪⁉考えたことないから面白そう。やるやるっ!!』と快諾してくれた。そして!作戦実行は放課後だ。」

 「黒魔術なんて大掛かりじゃないか。それで?」

 「ああ、空き教室に呼び出して、儀式を行うだけだが呼び出すのが一番の難題だろう。そこで、だ。………『最近、木村君なんかいい感じじゃな~い。』と女子に言われているらしい貴様にやってもらいたい。」

 「フッ。その役目、引き受けようじゃないか。」


 嫉妬、殺意の視線を浴びるも涼し気に躱す木村。やれやれ、モテる男は辛いよとばかりの態度が鼻に付く。だが、見事に役目を果たすことに成功する。というよりも回りの女子がはしゃぎ、本人の同意なく勝手に返事をしてしまったのが真相だ。完全に蚊帳の外。瑠唯自身は戸惑いしかなかった。恋愛に憧れはあれど、人の目を気にするあまり彼女は臆病になっていたのだから。


♢♢♢


 「もおー。散々からかっといて誰も付き添ってくれないって、どういうこと⁉」


 指定場所に向かっている瑠唯は愚痴を溢す。さっきまで姦しく騒いでいた友達は潮が引くように離れていった。どこか隠れて覗き見ているのだろうか?近くにそのような気配はないが、一つの可能性に思い至る。


 「もしかして…、ドッキリじゃないよね?」


 一抹の不安が足枷となり歩みを遅くする。正直に言えば、帰りたい。だが、その選択肢は初めから持ち合わせていない。勝手に決められた約束とはいえ、反故には出来ない性分なのだ。一歩一歩は確実に目的地まで運び、やがて空き教室の前へと辿り着く。


 「……………うん。用事できたから帰ろう。」


 普段はガラス窓越しに教室内を確認出来るはずだが、今は内側に黒い幕が降りていて、中の様子は遮られている。明らかに準備されたもの。仕掛けがあると分かっている教室に入るには勇気がいる。恐る恐る取っ手に指を掛け―――絶望への扉を開く。


 カーテンがされた教室は薄暗く、部屋の角4点に置かれたライトが光の柱を演出する。本当は雰囲気作りに蝋燭を使いたかったが、怒られる訳にはいかないのだ。教壇をあたかも祭壇に見立て、供物…給食で出た牛乳やパン等が適当に置かれていた。


 「よく来てくれた、霧里。これから儀式を始める。…お前のためなんだ。分かってくれ…。」

 「ごめんね。みっちゃんが満足するのに付き合わせちゃって。ああ、いてくれるだけで大丈夫だよ。何もしないから。」

 「うむ。では始めてくれ、井田。」


 どうやら、男子たちの悪ふざけに巻き込まれたらしい。先程までの不安はそのまま不満に変換され、胸の内に燻る。本来なら一言文句でもと思うが、ここは(おくび)にも出さず静観することに決めたようだ。


 井田が呪文を唱えて2分は経つ頃だろうか、床に光が走る。瑠唯を中心にしてみるみるうちに幾何学模様が描かれ、円を結び陣と成す。本格的な演出に男子は思わず声が上げる。まさか、ここまで準備がされていたとは想像もしてなかったからだ。…1人、冷や汗が止まらない者がいるが。


 「おお!すごいじゃないか、井田!」

 「…え?あ、うん。………ぇ?」


 赤の線を引く魔法陣に変化が起こる。静電気のようにパチパチと弾ける音から始まり、次第にバチバチと大きな音を立て、スパークが目に見える明らかな現象となって現れる。


 「………うっ。」


 瑠唯が呻きを上げる。一瞬のことだった。一瞬、首を絞められる痛みを感じた。手を当ててみるも異変は特になさそうだ。だが、気付かないのも当然と言える。瑠唯の首に黒い帯が刻まれていることは傍から指摘される必要があるだろう。魔法陣の輝きは役目を終え、消え失せる。違和感が拭えず未だに(さす)り、小首を傾げる瑠唯には気付く余地がなかった。男子たちの目に不穏な気配が宿り、雰囲気が変わったことに…。


 「そうだ…。淫紋…確認、しないと…。」

 「…あぁ、…その通り、だね。」


 うわ言のようにぼそぼそと溢す言葉に意味が理解出来ないでいると、虚ろを背負う男子が動き出してあっという間に囲まれてしまう。訳が分からず身を竦めていると両腕を掴まれ拘束される。成長が早いとはいえ、女子。男子と人数の前では必死の抵抗も空しかった。ブラウスに手が伸び、鷲掴みにされると裾がスカートからじりじりと引き上げられる。恐怖から顔を背け、現実をこれ以上直視していられず閉じていた瞼に更に力が入る。眦に伝う涙。一粒の雫となり床へ落ちる。


 「イ、イヤぁーーー!!」


 最後の抵抗とばかりに悲鳴と共に勇気を振りしぼり、震える手足に力をもう一度込める。どこかでブチブチと何かが切れる嫌な音がしたが、気になるのは別のこと。腕が動いたのだ。それは即ち、拘束が解けたことを意味する。同時に体が妙に軽く感じるが今は問題じゃない。恐る恐る目を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。


 瑠唯が目撃したものは―――宙を舞い散っている男子たちだった。


 恐怖と混乱で極限状態に至った瑠唯は逃げた。自宅までどのような道順を辿ったのかすら朧である。だが、何故だろう。景色の流れ方が車の中から眺めるスピード感と似ていたような…。どうやら、精神的に大分参っているらしい。


 自室に着くことでようやく落ち着きを取り戻す。しかし、瑠唯にとって落ち着きを取り戻すことは決して良いことではなかった。ついさっきまでの出来事を思い出してしまい、感情が蘇る。不安・恐怖・怒り・悲しみ。様々な感情が暴れ、瑠唯の心の許容を軽々と超え溢れ出す。気持ち悪いほどの感情の激流に吞まれそうになる。だから、瑠唯は大声を上げ、泣いた。


♢♢♢


 「瑠唯、入っていいかな?」


 コンコンとノックがされ、心配を滲ませる声がドアの向こうから聞こえた。瑠唯の父だ。いつの間にか帰って来ており、泣き止むのをずっと部屋の前で待っていたようだ。窓からは茜が差し込み始め、直に日が落ちるのを教えてくれる。大好きな父にギュッと抱きしめてほしい、頭を撫でてほしい、とにかく慰めてほしい。そうすれば、この心の傷も少しは癒えるかもしれない。


 「…パパ。わたし…。」

 「瑠唯!心配したよ。何があったか話してくれるかい?」


 招き入れたはいいが今まで泣いていたので、目は腫れ、鼻を啜りと顔面ぐちゃぐちゃな状態だと思い至り恥ずかしさで俯いた顔を上げられなかった。躊躇していると心安らぐ温かみにふと包まれる。上を向けばそこには慈愛の表情を浮かべた父の姿。瑠唯は、ぽつぽつと話し出す。


 「…パパ。…何してるの?」


 話を聞き終えると慰めるように撫でていた父の手が次第に体を(まさぐ)るように這う。明らかにいつもと違う感触に戸惑いを隠せない。そうこうしているうちに腰を押さえられ、もう一方の手が瑠唯の青い果実に伸ばされる。


 「い、痛っ。痛いよぅ…。」


 無遠慮に握られ痛みが走る。手の収まりを確かめた後は馴染ませるかのように手が蠢き出す。信じられず頭が真っ白になりかけ、どこか他人事のように感じ始めていた。だからか、父の様子が男子生徒たちと同じことに気付いた。そして、次に何をしようとしているのか分かった。


 「それは、ダメっ!!」


 瑠唯の唇を奪おうと父の顔が近寄って来るが断固拒否する。いくら大好きな父だとしてもファーストキスはあげられない。死守すべく力の限り父の胸板を押し返す。―――つもりだったのだが…。


 まるで父は見えない紐で引っ張られたかのようにドアを突き破り、廊下の壁に人型の穴を開け、隣の部屋で物同士が衝突し崩れる大きな音をがなり立てる。あまりのことで、またしても瑠唯は混乱し、逃げ出した。


♢♢♢


 誰もいないところ、どこか一人になれるところを目指して走り回ると空き地に辿り着いた。それまでの間に何度呼び止められたことだろうか。うんざりする。瑠唯は全てを置き去りにして駆け抜けた。しかし、そこでも声を掛けられてしまう。


 「やあやあ。待ったよ、待ちくたびれたよ。おかげでコーヒー飲み過ぎてトイレ行きたくなってしまったよ。だから、ちょっと此処で待っててくれるかな。ハッハー。待ってた私が、待っててくれとはね。」


 そう言ってどこかへ行く20代後半に見える女性。化粧っ気がなくだぼだぼな服を着て一見だらしなく見えるが、スタイルがいいのかファッションにも見える。そこはかとなく素の良さが見て取れる。間違いなく美人なのだろう。胡散臭さは半端ないが…。女性がいた足元には確かに缶コーヒーが散乱していた。呆気に取られていたが、しばらくすると如何にもなハンカチで手を拭く仕草で戻って来た。


 「ふう。では、始めようか。―――やあやあ。待ったよ、待ちくたびれたよ。おや?そこからやり直すのかと思っているね?ハッハー。でも、想像してみなよ。途中でトイレ退場なんてミステリアスな雰囲気が台無しじゃないか。それに、初めからやり直したら前のはなかったことにするのがお約束だよ。」

 「…あっ、はい。」

 「よろしい。さて、迷える子猫ちゃん。私は趣味で占いをしている者だよ。副業とも言っていいね。そんな私が占った結果、今日この日、此処に迷える子猫ちゃんが来るのが見えたわけさ。これは私の出番だと張り切ってスタンバっていたけど、時間が分からなかったのは痛かったね。ああ、そうそう。君が今抱えている問題は呪いのせいだよ。偶然とは恐ろしいものだね。素人が施したから余計に厄介だ。実際に見て更に驚愕だよ。術式の複雑さ、呪いの強度。準備した対抗策を突き抜けて、軽く私に影響を及ぼしているのが分かるよ。結界に精神防御、おまじないに願掛け、ラッキーカラーに(げん)担ぎ、来る途中で買ったお守りがなかったら危なかったかもしれない。」

 「……………え?」


 捲し立てられ、直ぐには理解出来なかったが、言葉の中に信じがたい衝撃的な事実があった。呪いが掛かっていることもそうだが、この人は今日、瑠唯に呪いを掛けられること自体知っていたと自白しているに等しい。ならば、どうして―――


 「どうして助けてくれなかったのか、かい?ハッハー。私は慈善家ではないのさ。最初に言ったように、此処にいるのは趣味であり仕事だよ。君は呪いに掛かると同時に探索者としての才能に目覚めたのさ。なんの力も持たない一般人だったはずが、今や可能性の塊だ。私はそんな才能溢れる若者のスカウトを生業にしているのさ。それにしてもイっちゃってるねぇ。パワー特化でどこまで行くのか楽しみだよ。」

 「…わ、私は探索者になるとは…。」

 「君は探索者になる。ならざるを得ないと言い換えてもいい。君に掛けられた蠱惑の呪刻を解呪するには探索者になるしかないよ。それに今まで通りの生活が出来ないことは、もう分かっているんじゃないかい?そんな顔をしないでくれよ。なにもこんな話をするためだけに来たわけじゃないさ。呪いを解くことは出来ないけど、封じることは出来る。そう、臭い物に蓋をするってね。ああ、君はいい匂いがする可愛い女の子さ。勘違いしないでくれよ。ハッハー。」


 愉快そうに笑い、物陰から何かを引っ張り出そうとするが、ガシャン!と思わず身を竦めてしまう程の騒音。そこにはバラバラに散らばった全身鎧と哀愁漂う女性。


 「あぁ…、昨日から準備した私の労力が…。とまあ、見ての通り全身鎧を用意したよ。包帯や着ぐるみも選択肢にあったが、今後のことを考慮してこれが最良だと判断した。なぁに、恥ずかしがることはないさ。外見からは君の要素は一切なくなるのだからね。それに、認識操作してくれるから変に絡まれることはないよ。心配いらないさ。成長に合わせて自動調整してくれるし、空調管理も完備してある私の力作だよ。なんなら、バストアップ効果も付けてあげようか?…むっ、必要なさそうだね。ハッハー。若いってのはそれだけで可能性に溢れていて羨ましいよ。」


 なるほど、鎧か。よく見てみれば1人でも装着し易いように加工してある。流石、魔法の力。しかし、思春期の少女にとって、恥ずかしいものは恥ずかしい。…慣れるしかないのだろう。女性の話を聞く限り、問題点はないように感じる。…いや、重大な問題が1つ残されていた。トイ―――


 「そうそう、トイレに関してだけど。………しちゃいなよ。内には<清潔(クリーン)>を施してあるから常に衛生的な環境が整っているよ。人前で放尿プレイ。ハッハー。新しい扉開こうぜ!私も幼気(いたいけ)な少女の性癖を歪めるつもりじゃあないんだよ。致し方ないんだ…。まあ、判断するのは君なんだけどね。」

 「……………ふぇっ!!」


 今日一のテンション。芝居じみた身振り手振り。この女は少女を辱めることに最大の喜びを覚えるのかもしれない。事実、素っ頓狂な声を上げ、真っ赤に染まった瑠唯をニヤニヤと笑いながら楽しんでいる。


 「さて、私が出来ることはもうない。ここからは君の頑張り次第だ。まあ、無責任かもしれないが応援しているよ。いつか君の運命の人が現れることを切に願っている。」


 じゃあね、と後ろ手を振りぽつぽつ街路灯が点き始めた道を用は済んだとばかり、軽快に歩く。明かりが彼女を照らすことはなかった。まるで夜闇を纏うようにして、気付いた頃には姿がなくなる。終始圧倒されていた瑠唯は最後の最後まで自分のペースを崩さない彼女に対して清々しい気分にさせられる。ふと女性がいた場所に目をやれば、空き缶はなく、綺麗に片付けられていた。怪しい女性だが、どうやら悪い人ではないらしい。そういうことにしておこう。


♢♢♢


……………

………

…ハッ!


 僕は逃げる術を思案していたはず…。それもこれも僕の背に回らされた霧里さんの腕のせいに違いない。コンマ秒毎に力が込められていくのを感じる。あと数秒もしたら僕は真っ二つになるだろう。風前の灯火だね。マジで危ないので脱出開始しまーす。


 まず、霧里さんの視界を潰すために<収納>に入っていたバスタオルを頭上から取り出す。それと同時に体を滑らせ、にゅるんと抜け出す。覚えててよかったエロ魔法<ローション>。ゆっくり、ゆっくりと後退り、踊り場の窓に手が届く。目線は彼女を捉えたまま窓を開け、避難路の確保に成功して一つ息をそっと吐く。


 (あっ。霧里さん、服がないじゃん。このままは可哀想だし…。)


 何かないかと<収納>を確認するとジャージがあったので足元に置いて、窓辺に腰を掛ける。前方よしっ!下方よしっ!お世話になりました。僕はシッティングバックロールエントリーの如く飛び込み、落ちていく。さっと壁に手を当て、すぐさま体勢を正し地面を見据える。着地の際は必要のない五点接地を決め、無傷で立ち上がる。僕はそそくさとその場を去り、ある程度の距離が取れてから、やっとのことで安堵する。


 ―――ふう~。ミッションクリア、ってね。

…2、3話分ってことで許して。


それにしても、この女、作者すら翻弄するとは…何奴!?


ちなみにエロ魔法<ローション>は、ただの水魔法です。

速乾性で、さらさらしているので気にならないでしょう。

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