第23話 おっちょこちょい≠ドジ
日が昇り朝が来たら起きる。人類が誕生して、そうして来たように僕も倣い1日の活動を始める。カーテンを開けると一瞬にして陽光が部屋に満ち、薄暗い世界を塗り替えるように明るく染め上げる。少し眩しさを感じ、目を細めながら空を見上げる。憎らしい程の晴天。今日は1日中、快晴だろう。…と昨日の夜、天気予報で聞いた。さてと、食事当番だから準備に掛かろうか。
「おはよ、しーちゃん。」
「………」
ドアを開けて部屋を出ると妹の紫瑛璃と出会す。コクリと頷いて、それを朝の挨拶とされる。紫瑛璃とは生活リズムが同じなのか、朝のバッタリ率は驚異のほぼ100%なのだ。そして、僕が先行してリビングへ向かう。以前、朝食が出来たら呼ぶよ、と言ったのだが、首を振り断られてしまった。もしかしたら…、見たいテレビでもあるのかもしれないね。
僕らは無言の為、調理音とテレビの賑やかな音が鮮明に流れる。いつからだったか忘れたけど、紫瑛璃は僕と話してくれなくなった。最後に声を聞いたのは何年前になるだろうか。でも、だからと言って嫌われていないことをなんとなしに感じる。実際、今でも気まずいとか嫌な感じは全くこれっぽっちもない。
調理が仕上がる頃になるといつの間にか紫瑛璃が食卓に並べるのを手伝ってくれる。
「後は僕がやるから、座っててよ。」
「………」
向き合って座り、いただきますと食べ始める。…ふむ、普通の味だ。僕の戦闘能力と同じように、料理も卒なく熟せるのだが、あらゆる工夫をしても何故か普通の味になってしまう。不思議だよね。おっと、醤油はどこかな。探そうと視線を動かそうとしてやめる。目の前にコトンと置かれたからだ。紫瑛璃は気配りが出来る素晴らしい娘だ。…いや、出来過ぎじゃない?
「ありがとう、しーちゃん。―――そういえば、昨日、学園で見掛けたけど楽しそうだったね。」
「………」
何を隠そう、昨日ヒロインの玖条さんと双璧をなしていたのがウチの妹なのだ。紫瑛璃は僕に対して無口なだけで、無表情という訳ではない。寧ろ感情は豊かな方だ。今もはにかんで頬を赤くしている。だから、ついつい話し掛けてしまうんだよね。ヒロインに負けず劣らないスペック、名前に込められた思いの通りに育ち、両親も鼻が高いことだろう。…もし、紫瑛璃がヒロインだったら、今頃は主人公の息の根をなんとしてでも止めることに躍起になっていただろうね。
この前なんか、僕と紫瑛璃の洗濯物を分けて洗濯したんだけど、「なんで一緒に洗濯しないの?」って、母さんが紫瑛璃の真似?をしながら間接的に怒られてしまった。それを見て、いろんな意味で微笑ましくなったよ。でもさ、「気持ち悪いから、一緒に洗濯しないで。」とか言われたらショックじゃん?だから、紫瑛璃の学園入学を機に別々でしようとしただけなんだよ。おそらくエコ精神を忘れない、意識の高さ故だと僕は見た。今日の時世、資源・エネルギー・環境問題は解決されている。使い過ぎていい理由にはならないけど、技術も発展していて、水の消費量・汚染具合は圧倒的に少ない。2回に分けた程度なら、何ら問題はない筈だ。そこまで気にしなくてもいいんだよ?
ふう。お腹の満足感から息を一つ吐き出す。まったりした空気が流れる。食後の小休憩をしている時に1日の簡単なスケジュールを口頭で伝える。紫瑛璃からはメッセージで送られて来るのだが、入浴時間は書かなくていいんだよ。…はっ!これは間違っても風呂場に入って来るなという意味かっ!!
後片付けを始めると当然のように手伝ってくれる紫瑛璃。いつも、ありがと。その後は部屋に戻り、課題に取り掛かる。午前を目一杯費やしなんとか終えるとちょうどいい時間になっていた。さてと学園に行こうか。
♢♢♢
「ごめん、待った?」
デートの待ち合わせみたいなセリフだけど、違うよ。目的地に着くと既にして、2人が待っていたのだ。そう!華夜ちゃんと綾女ちゃんだよ!
「ううん、大丈夫だよ。」
「…私も、今来たとこ。」
ここは学園の食堂。と言っても、殺風景に机が綺麗に並べられていることはなく、雰囲気は完全にレストランだね。また、第一、第二…と付く食堂が沢山ある。個室・大広間・テラス席などの多様性にも富んでいる。生徒はよく食堂でミーティングすることがあり、長時間居座ることも珍しくない。その為、拡大の一途を辿ったらしい。それに、当時の学園側も金に物を言わせて、テーマパークかよ!ってツッコミを入れたくなる施設を作り上げたとかどうとか…。
その例に漏れず、僕達はパーティーのミーティングをする為に集まった。まあ、ランチが先だけどね。え?僕のこと、女の子と食事を楽しんで、キャッキャウフフしてるクソ野郎だって?断じて否!否だよ!真のクソ野郎とは他の男共のことさ。最初の頃はちゃんと全員でミーティングしてたんだよ。いてもいなくても変わらないとしてもね。だからと言って、丸投げしていい理由にならないのだが…、あいつら「任せるわ!」の一言で途中から来なくなりやがった!クソがっ!!
「この前のはちょっと大変な目に合ったし、次は魔石集めにしない?」
「ノルマのことだよね。うん、早めに達成したいし、私はいいと思うよ。」
「…御意。」
生徒はタダで利用出来る。やはりと言うべきか、そこにはカラクリがある。魔石の徴収制度。魔石の大きさ・質によりポイント化され、規定のポイントがノルマとして要求される。期限は1年毎。学年が上がるとノルマも増える。もし、3年生で達成出来なかったら、借金をしたも同然の状態で卒業なんてことになりかねない。…学園、怖いとこだよ。まあ、普通に探索してれば余裕でクリア可能なんだけどね。ケガとかダンジョンに潜れない事態のことも想定するべきでしょ。
目的が決まれば後は簡単だ。探索エリアと何を標的にするかは効率を考えれば、自ずとプリセットを選択するようなものだ。あっ、そうだ!時間もあるから例の物について聞いてみよう。
「荷物の中に変な球が入っていたんだけど、2人は何か知らない?」
「う~ん。…私は分からないかな。」
「…え?あれは華夜が、入れてた―――むぐっ!」
綾女ちゃんの聞き捨てならない発言に、華夜ちゃんが慌てて、両手で口を封じに掛かる。
「しーっ!しーっ!―――もぉ…、誰も見てないと思ったのにぃ…。」
小声で注意する華夜ちゃん。悪戯がバレた幼子のように、尻窄みに小さくなるいい訳が可愛い。目の前で行われた慌てようと丸聞こえのセリフである程度は察した。理由までは分からないけども、秘密にしたいようだし、ここは気付いていないことにしよう。今こそ、難聴系主人公になる時!…主人公じゃないけどね。
「わっ!急に慌てだすからビックリしちゃったよ。どうしたの?」
「え⁉な、なんでもないよっ!!」
「そうなんだ。―――それにしても、2人とも知らないんだね。実は今、鑑定して貰っているんだ。」
「私達の物じゃないから、ハル君が好きに使っていいと思うよ。」
「………悠翔が…、無視した…。」
おっと、彼方を立てれば此方が立たず。ごめんね、綾女ちゃん。それはそれとして、華夜ちゃんから許可も得たので自由に使わせて貰いましょう。僕にとって価値がなくても、東雲先輩へ好感度アップのアイテムとして、そのままプレゼントしちゃってもいいしね。…これはパーティーの利益を考えての投資って意味だよ。え?僕のいい訳は可愛くない?…いや、それは当然でしょ。僕が可愛くある必要がない。まあ、とにかく結果待ちってことだね。
………あっ、しまった!連絡先交換してないじゃん。




