第22話 ヒロインメドレー②
錬金課に辿り着いた僕は窓口に向かう。今の時間帯は比較的空いている。当然ながら学生探索者たちはダンジョンに潜っている頃だ。端末に腕のリングを当てると受付予約が出来るのだが、少しの間をおいてリングが鳴る。どうやら順番待ちする必要はなさそうだ。
学園最大の規模を誇る巨大な施設。一口に錬金と言っても、その内容は多岐にわたる。鍛冶、各種薬剤の調合、魔道具の開発・調整・修理、魔物素材の活用研究、鑑定など。何棟もの建物が軒を連ね、素人が足を踏み入れれば遭難すること必至だろう。一般の生徒は窓口とよく利用する場所以外の全容を知ることなく卒業する。ある意味、地上のダンジョン。職人たちの魔窟。錬金課って呼び名、雑に纏め過ぎじゃない…?
「武器の返却と新たにレンタルの申請を。…それと鑑定って今日出来ます?」
「承りました。…鑑定でしたら、今のところ予約はございません。これからの予約でよろしいですか?」
「はい。それでお願いします。」
もう手慣れた感じで手続きを進めていくが、ついつい錬金課の人と伝手があればと思ってしまう。個人と契約すると窓口を通さなくても済み、利便性が向上する。リクエストし放題なんだって。まあ、僕はレンタル品で十分だけど…。ただ、ポーションを作れる人と…とは思う。薬草の売値は安いし、ポーションの種類と数は常に確保しておきたいしね。でも、契約関係を結べる者は一握りの存在だけだ。個人間の依頼は損益が発生する。勿論のこと損はしたくない。ならば、対象は限られてくる。優秀な者、または将来有望な者。求められるのは、あらゆる益を与えてくれる相手なのだ。
「随分、派手に壊したなぁ…。」
「そりゃあ、ドラゴンに挑んだんですから、こんなショボい武器じゃこうなりますよ。」
「ショボくて悪かったな!」
鍛冶部門を訪れ、先輩と会話する。この人、いつも受付してるけど武器打ってんのかな…?このあとの予定があるので一言二言で終わらし、返却とレンタルを完了する。
カシャン、カシャン………
鑑定室に向かおうと通路を歩いていると金属が奏でる勇壮な響きが近付いて来る。そこには全身を騎士甲冑で覆う人物がいた。こんな奇抜な格好をしているのは学園で一人しかいない。今年の新入生で一番目立ってたんじゃないかな。好奇心からいろんな人が彼女に声を掛けたが、強い拒絶を見せた。まあ、事情を考えれば自然な反応なんだけどね。180㎝を優に超える全身鎧は僕よりも高い為、否応なく迫力を感じる。
霧里瑠唯
呪いにより全身鎧を身に付けることを余儀なくされた少女。男性不信だが、人間不信に拡大しかけている。原因が呪いとは言え、トラウマを植え付けるには十分だった。その為、攻略難易度は非常に高い。信頼を築き、呪いを解くことを決意し、一緒に奔走する物語となる。
ちらりと見るが、今日は大剣を持っていないようだ。彼女は物理攻撃に特化していて、随一のパワーを発揮した大剣は断ち切れない物などないと思わせる程だ。おそらく、鎧の手入れをする為に個室を借りたのだろう。ここは道具が揃っているからね。
♢♢♢
「失礼しまぁす。―――」
続く言葉は鑑定室から聞こえて来た会話に止められた。先客はいないはずだから飛び込みだろうか?困るなぁ。こっちはちゃんと予約して来てるんだぞ。まあ、今の僕は時間に余裕がある。時間の余裕は心のゆとりだからね。少しくらいなら待ってあげようじゃないか。そうと決めた僕は待合スペースの椅子にどっしり構える。…中にいる人を見て厄介だと思ったわけではないよ。
「なあ、いいだろ?俺とパートナー契約してくれ。」
「今のところ私にはなんのメリットもないのだが、理解しているのかい?」
「本題はこっからさ。―――俺と組めば『星原結晶』が手に入るぜ。」
「ッ!!………ほお。少し時間をくれ。どうやら私の客が来たようだしな。」
えぇ…、なんか空気ピリついているんですけど…。ていうか、主人公とヒロインの対面シーンが物々しいのはなんで?東雲先輩、僕が来た時ちらっと確認してたよね?話を切り上げる出しに使うの止めてくれません?
「いいだろう。だが、返事は早くしてくれよな。」
ここに用はもうないとばかりに去っていく主人公。待っていた僕には興味の欠片もない様子だった。昨日の今日だから少し身構えていたけど、嵐は過ぎたのだ。………あれ?僕が文句を言うのは当たり前の権利だけど、主人公から何か言われる筋合いはないじゃないか!どうやら、変に緊張していたらしい。弱いって何かと侵害されるね。
東雲楓莉
錬金全般に精通している才媛。3年生。特に戦闘面のサポートに多大な貢献をしてくれる。ただし、パートナー契約出来ればの話。彼女の探究心を満たせるかが鍵となるだろう。また、独自の研究をしており、『星原結晶』と名付けた物質を探し出し、証明することを目標としている。
結局のところ、『星原結晶』は見つからなかったはずだけど、流石、主人公。優れた情報網を持っているらしい。これも人徳ってやつかね。ちなみに彼女の探究心はエロシーンでも止まることを知らない。彼女に開発されるか、開発するかはキミ次第だっ!!
…ん?あれ~?この時点で『星原結晶』ってワードが出てくるのは可笑しくないか?…まあ、いっか。もうよく分からないし!
「待たせたね。それに、何やら悪いことをしたようだ。君は彼にイジメられているのかい?」
「真正面からイジメとか言わない方がいいですよ。昨日、殺され掛けただけです。」
彼女は人の機微に聡いから、ここは正直に事情を説明することにした。これは僕の復讐だ!主人公の評価を下げてくれるわ!!なんてね。ドラゴンの話をしといた方がスムーズな気がする。
「それに、悪漢から女の子を助けたと思えば、なんてことはない。安い物ですよ。」
「はっはっは。この私をそこらのか弱い女と扱うか。変人呼ばわりされることはあれど、女の子など久方振りだぞ。君はなかなか愉快な性格をしているな。」
「初対面で、変人と呼ぶことはないかと…。」
ツボに入ったようで、腹を抱えて笑っている。まあ、貴女が弱い女性でないのは知っているけど、僕のユーモアが受けたようで何よりだ。
「はっはっは。―――すまない。君ともっと話してみたくなったが仕事に掛かろうか。」
「はい。よろしくお願いします。」
そして、取り出すのはビー玉より少し大きな球。まさに血の色の如き猩々緋。外殻は水晶のように透き通っており、猩々緋に透明感を与えてくれる。不思議なことに中には灯火が小さく灯っている。まるで魂の揺らめきのような。それを閉じ込めたような。
「では、始めよう。」
スチャっとモノクルを掛ける様は非常に格好良く、似合っていた。あれは鑑定をする魔道具だろう。何が見えているのか気になる。そのせいで、彼女の顔を見過ぎたようだ。
「ふっ。そんなに見つめないでくれ。」
「あっ、ご、ごめんなさい。」
「冗談だ。…しかし、これはもっと詳しく調べてみる必要があるな。」
モノクルの解析によると3つのエネルギー反応しか分からないとのことだった。魔力、魔物、そして未知のエネルギー。この物体が何なのか、残念ながら今の時点では知ることは出来なかった。彼女は興味を持ったようで、必ず解析してみせるから是非、預からせてくれと申し出た。その有無を言わせない笑顔はやめて下さい。元より、用途不明品を持っていても仕方がない。ここは彼女に任せるべきだろう。
「それは、こちらからお願いしたいくらいですよ。」
「任せたまえ。―――ところで、自己紹介がまだだったな。私は東雲楓莉だ。」
「僕は美音悠翔です。よろしくお願いします。東雲先輩。」
「よろしく、悠翔。息抜きで引き受けた仕事だが、どうやら私は運がいいらしい。」
―――僕と東雲先輩は握手を交わすのだった。
緋色って鮮やかな赤ってイメージあるけど、全然違った。
まあ、見え方は人それぞれだけどね。




