第16話 ダンジョンは出会いの場②
ダンジョンで人が魔物に追い掛けられています。君ならどうする?―――――ふむふむ。勿論、助ける。美少女なら尚更、とね。………素晴らしい!君へ主人公の称号を贈りたいと思うよ。あっ、ちなみに僕の答えは“見捨てる”になるんだけどね。冷たい言い方になっちゃったけど、別にこれは薄情だとか、人の命なんてどうでもいいとか思っている訳じゃないんだ。当然、探索者同士の助け合いは大事だよ。それでも、出来る範囲というのは限られている。ソロだったら勝手にしてもいいけど、僕達はパーティーだ。パーティーに迷惑、または危険に晒してまで他の人を助ける道理はない、と僕は思っている。やはり、僕にはヒーローの素質はないのだろう。一応、この判断に至るまで悩んで悩んで、何か方法はないか考えて、それでも最終的には見捨てるの一言に尽きるだけなんだよ。既に何回か経験しているし、僕の知らないところで同じことが起きているだろう。同学年だけで30人近くは死んでいるのだから…。
そもそも、状況を正確に掴めていないのに助けるとか言い出す奴はバカなんじゃないだろうか。よく主人公は熱い正義心で「助けたいんだ!」と訴えて、「へっ、お前には敵わないぜ!」とか仲間が主人公の意見に同調する空気になることがある。でも、中には「いやいや、何言ってんの⁉お前っ!」って、思っている人が一人くらいいるんじゃないかな?いや、いないと可笑しいでしょ!それにね、主人公さん。貴方が熱い展開をしている傍らで救助対象は死に掛けているからね。魔物は待ってくれないんだよ。判断は迅速に!まあ、なんやかんやで全員無事に助かっちゃうから質が悪いんだよね。
主人公は否が応でも周りの人達を振り回す存在なのかもしれない。それなら僕は主人公になりたくないね。平穏無事な生活に、ちょっぴりの刺激、一握りの幸福を感じ、程々の贅沢をする人生がベストかな。
「おや…?」
見通しのいいところを歩いていると逃げてる人達の距離が近付いたこともあり、ギリギリ視認することが出来たのだが…。男4人組のパーティーが魔物を気にしながら必死に走っていた。そして、その先頭を走っているのが―――
(主人公ォーーー。何やってんの⁉⁉)
心の中で絶叫してしまった。いや、本当に何で主人公が助けられる側になってんの⁉その事実に動揺していると不意に―――――ゾクっ!!
酷い寒気がする。かなり距離があるはずなのに僕と彼の視線が合った気がした。そんな彼は口の端を吊り上げ、三日月状に笑う。主人公らしからぬ凶相を浮かべていた。すると彼は右手を掲げて、まるで助けを求めるような仕草をしたが………僕は直感で否定する。
ヒュ~~~~~、バンッ!
花火を思わせる音がして、誰もが視線を寄せる。それは彼の手から放たれた魔力弾だった。空へと勢い良く直線に飛んで行き、空中で炸裂したのだ。これに何の意味があるのか。いや、効果は確かにあった。誰もが見ていたのだ。そう、誰もが。―――彼らを追っていた魔物すらも。彼は僕達と魔物の焦点で魔力弾を炸裂させることによって、僕達の存在を認識させることに成功したのだ。
「くっ、…気付かれた。………って、おいおいおい!嘘だろっ!!」
恨みを込めて一睨みしてやろうと彼らに目線を戻すと―――空気に溶けるように姿が消えてしまった。おそらく<幻影>を使ったのだろう。見つかっただけなら、まだ問題はなかった。魔物のターゲットは彼らなのだから逃げるだけの時間はあったはずだ。しかし、忽然と彼らは消えてしまった。実際、魔物はその場で滞空して何かを探す素振りをしている。どうやら彼らの隠蔽能力が優れていたようで、見つけることは出来なかったみたいだ。その後はどうなるかというと………。
(は、はは、あはは…。イヤーーーーー、こっち見てるーーー!)
地上に下ろしていた視線をゆっくりと上げ、僕達を確と収める。完全にターゲットが僕達に変わったことを察する。不味いぞ。戦闘は必須となったがここでは立地が悪い。せめて予定していたポイントまで急ごう。
「皆、走るよ!」
僕の切羽詰まった発言の意図に気付き、全員が頷きで返す。走り出したと同時に魔物も動き出した。カウントダウンが刻々と進む音が聞こえるようだ。もしくは僕の心臓の鼓動なのかもしれない。暫く走ると木の切れ目から目的地が見えた。どうやら間に合ったようだと安堵するのも束の間。開けた場所に出ると同時にドンッという重い音がして地面が揺れた気がした。目の前に魔物が降り立ったのだ。
「わ、わぁ~。僕、こんな間近でドラゴン見たの初めてだよ…。」
「オイラもでやんす。…しかも、こいつ成体でやんす。」
ふっ、終わったな…。この火山エリアにおける天空の覇者たるレッドドラゴン。何故主人公らを見捨てる判断をしたのかはこのエリアで堂々と上空を飛ぶ魔物など、このレッドドラゴンしかいないからなんだよね。3mに及ぶ巨体を仰ぎながら、その威容に圧倒されて身動きが出来なくなる。真っ赤なカラーリングが素敵ですね。高級感溢れるそのお肌に触れてもよろしいでしょうか?
「グオォォォォォーーー」
…はい。断られてしまいました。さて、どうしたものかな…。このパーティーでドラゴンを倒すのは厳しい。勿論、全員無事で、という条件が付くけど。犠牲を払えばなんとか倒せるはずだが、その犠牲の中に僕が入ることになる。仲間の為に死ぬのは厭わないけど、無駄死には勘弁してほしいな。となると―――
「アレをやるからサポートお願い!…失敗したら…僕がやられている内に逃げてね。」
「ハル君…。」
皆は僕のことを心配そうに見詰めていたが、直ぐに覚悟の決まった顔つきになる。…あっ、モモはこっちを振り向きもしないや。でも、僕は分かってるよ。一人で突っ込めば仲間を危険に晒すからね。普段の狂暴性を理性で捩じ伏せているのを感じる。流石、僕の頼れる仲間たちだね。―――――それじゃあ、行こうか!




