第14話 朝日の受難
「―――――言いたいことはあるけど、とにかくお母さんが無事で良かったよ~。」
お母さんから事故に遭いそうになった時の話を聞き終わった私は安堵の息を吐きながら無事だったことを喜んだ。正直、帰って来た時に事故現場を見た際は肝を冷やした。だって、お母さんは車に轢かれそうになった程度の軽い調子で話すんだもの。でも、そんな生易しい物ではなかった。塀は10mにも亘って罅割れ、削り取られていたし、電柱は鉄筋が剝き出しになっており、衝突の激しさを物語っていた。それもそのはずよね。だって、ブレーキ痕がなかったのよ!つまり、減速しないで突っ込んで来て、電柱にぶつかって止まったってことよね?電柱は折れ曲がり、今にも倒れそうだったけど、よく倒れずに済んだわ。電柱って凄いのね…。
事故現場を見た私は血の気が引き、震え出してしまった。そのまま覚束ない足取りで家路に着く。お母さんが無事なのは電話で話したので知っている。声の調子で大したケガもしてないことも分かっている。でも、この目で直接見ないと安心出来ないよ…。お母さんまでいなくなったら、私は………。
「お帰りなさい。朝日。」
「…ただいま。」
ああ…、お母さんだ。いつものように出迎えてくれた姿を見て、ホッとした。すると冷えていた体に熱が巡り出す。私の様子に気付いたお母さんが「心配させて、ごめんね。」と言いながら優しく抱き締めてくれた。温かくて気持ちいい。ああ、ほんとにほんっとぉーに良かったよぉ~~。お母さんの生きてる証に触れて、やっと私の心と体は落ち着いたわ。それからゆっくりお茶を飲みながら事故のことを聞いたんだけど………。
「トラックに轢かれそうになったんだけどね、助けてくれたのよ!―――――」
え?それだけ?事故に関しては一言で説明終了だった。それからは助けてくれた人がどれだけ素敵だったかを永遠と聞かされた。お母さんには今まで苦労を掛けたから、新しい恋に生きるのなら応援するつもりだけど…、その人、同級生じゃない⁉嘘でしょ⁉流石に応援しにくいわよ!!危機的状況を助けられ、落ち着くまで傍に寄り添い、優しく声を掛け続けてくれた。なるほど、いい人ね。でも~、ちょっとお母さん、チョロ過ぎじゃないかしら…。
「朝日の同級生だなんてビックリよね。―――この人なんだけど。」
「う~ん。私もまだ全員の顔は知らないのよね。」
ちゃっかり撮っていたツーショット写真を見せられた。中性的とも言えなくもない男の子。この人が義父に…。いやいや、まだそう決まった訳じゃないからっ!でも、やっぱり知らないわね。1学年だけでも相当な人数がいるんだもの。今度、学園で調べてみようかな。
「この前、お茶はしたんだけど夕飯は断られちゃったのよね…。ご飯は流石に早すぎたかしら。」
「へ、へぇー。その人も予定があるだろうし、急に誘われても迷惑だったんじゃないかな?」
「それもそうね。次のお茶の約束もしたし、徐々に行きましょう!」
お母さん…、早速胃袋を掴みに行ってたのね。行動が速過ぎじゃないかしら?速過ぎよ!え?これはかなり本気なのかなぁ?分からないわ。どうしよう。私はどうすればいいのかしら…。誰か教えて!!
この思いが天に届いた訳ではないけど、メッセージが来たことを着信音が教えてくれた。でも、それは新たな問題が起きるだろうお知らせに思えて仕方なかった。
「クラン総員による、遠征と連携演習の実施―――ね。」
次から次へと…。私はもうキャパオーバーよ。レインボーマンのこと。お母さんのこと。峰君のこと。
この時の私には気付けるはずもないけど、点と思っていたことが線で繋がり始めていたのだった。
♢♢♢
「皆、準備はいいね?今日は予定通りサラマンダーを狩りに行くよ。」
「よっしゃー!俺が全部蹴散らしてやるぜっ!!」
「うん。モモは少し落ち着こうね。じゃあ、華夜ちゃんお願い。」
「はーい。<沈黙>」
パーティーメンバーに最終確認をする。これから僕達はダンジョンに潜る。塔タイプだけど潜る。今回の標的はサラマンダーだ。計画を立て、装備を整えて万全の状態で今日を迎えることが出来た。いい天気だ。快晴だね。…関係ないけど。やっぱり、強くなるには挑戦あるのみだよね。それに素材としての価値もあるから是非とも集めたい。装備を強化するも良し。資金に換えるも良しだ。僕はどっちかと言うと後者かな。
まだダンジョンに入ってないのにモモが興奮し出している。バーサーカーめ。声が大きくなってるぞ。まあ、戦闘中が1番煩いけどね。モモの声には威圧の効果があるから弱い魔物だったら逃げてくれる。でも、逆に魔物を呼び寄せる場合もあるので迷惑極まりない。そこで登場するのが華夜ちゃんの沈黙の魔法。モモを物理的に黙らせるのは無理だからね。こいつ、防御面が突出しているんだけど、物理だけでなく魔法耐性もあるんだよ。デバフが掛かりにくい。でも、華夜ちゃんには関係ないけどね!流石、華夜ちゃん。頼りになるぅ~。
さて、騒がしい奴もいなくなったことだし、―――行こうか!




