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空想バックパッカー タイにいく

作者: がなは

街はジメジメしていて、少し刺激臭が漂っている。喧騒とした街は、もう夜の12時を過ぎているというのに、まだまだ静まる気配すら感じない。初めての経験に、わくわくと緊張が入り乱れながらも、僕は一歩ネオン街へと踏み出すのであった。


プロローグ

街はお正月シーズンもおわり、少し落ち着きを取り戻してきた。友人Aと遊びに行く約束をしていたのだが、少し早く駅についてしまった。友人Aとの待ち合わせまで、まだ少し時間があるので、本屋で時間を潰すことにする。たまたま、立ち寄った旅行本コーナーで、ふと同じような色の背帯をした本が並んでいるのを見つけた。地球の歩き方だ。るるぶやトリップなど、旅行本は色々な種類があるが、地球の歩き方はバックパッカーのバイブルだと聞いたことがある。待ち合わせ時間まで、まだ15分あったので、目の前にあったタイの歩き方を手にとって、読んでみると、観光スポットだけでなく、文化や情勢まで事細かに情報が書かれている。情報量の多さに驚きを感じるとともに、この本があればどこにでもいける気がした。


旅立ち

授業の始業を告げるチャイムがなる。今日は終日、退屈な講座が続く。ノートをとる必要もないなと判断した僕は、この間買った地球の歩き方を開いて、ひとり妄想で旅に出ることにした。


入国

友人Aは少し緊張しているように見えたが、無事に通関を通ることができた。空港を出るとそこは異世界であった。空港出口にはタクシードライバーやツアー旅行会社がわんさか待ち構えている。人が良さそうなドライバーを探そうとする友人Aをそっと静止する。ここで捕まってしまっては法外な値段を要求される場合があると地球の歩き方に書いていたのだ。まるで旅行上級者のような振る舞いで、勝手にバッグをタクシーに積もうとしてくるタイ人をおしわけて、空港を出る僕をAはたくましく思ったことだろう。

空港をでて、ローカルのタクシーを探しているときらびやかに光るバイクタクシーの群れををみつけた。夢にまでみたトゥクトゥクだ。はやる気持ちを飲み込んでまず行うべきことがあるのだが、それは海外旅行ではおなじみの値段交渉だ。地球の歩き方には目安の金額も記載されていられるので、それをベースに試みるが、いかんせん目的地までの距離がわからない。とりあえずタクシードライバーの言い値を聞き、その半額でどうだと交渉してみる。ドライバーは少し考え込んだが、マイペンライとニコニコしながら承諾してくれた。初めての外人との値段交渉、やってみればなんとかなるものだ。


バックパッカーの聖地 カオサンストリート

トゥクトゥクに乗り込んで向かう先は、もちろんカオサンストリートだ。カオサンストリートはバックパッカーの聖地とも言われており、世界中のバックパッカーが集まっていて、安宿も多い。トゥクトゥクから降り立つと、ネオンがサンサンと輝いていて夜中だというのにまるでクラブの中にいるかのように音楽がドンドン鳴り響いている。街は様々な人種の旅行者であふれ、みな思い思いに夜を楽しんでいる。これこそ、イメージしていたタイだとうかれる僕に、友人Aはまずは宿探しだろとビール片手にクラブミュージックのリズムに合わせて右手をハンズアップさせながら、街に飛び込んでいくのだった。


初めてのホテル

カオサン通りの東、郵便局の近くにあるゲストハウスをめざす。ここは日本人バックパッカーがよく利用するホテルということで、安心して泊まることができ、価格も300バーツほどとお財布にもやさしいからだ。それらしき宿を見つけたが、日本人っぽい人は全く見当たらないし、宿の人も無愛想だった。おそらく宿を間違えてしまったようだが長期滞在するわけではなく安かったので、そのまま部屋を取ることにした。エアコンが付いていないボロ宿だったが、初めての海外で体が疲れていたので、一日目の夜はそのまま眠りにつくことにした。しかし、東南アジアの熱帯夜は想像以上に暑く、寝れない。さらには、停電で扇風機までとまってしまったのだ。旅行にトラブルはつきものだというが、初日から散々だなと思いながらも、カオサンのメイン通りからはクラブミュージックがガンガン聞こえてくる。なぜここだけ停電が起こってしまうのか、不条理に感じたが、どうやら安宿ではこれが日常のようだ。仕方がない。

暑くて寝れないでいると、無愛想な店主もさすがにあわれに思ったのか、宿の軒先にハンモックを作ってくれて、そこで寝てもよいといって、ろうそくを置いて部屋にもどっていった。友人Aも寝れなかったようで、2人ビールを飲みながら話していると、暗闇からムシャムシャ咀嚼音を立てながら、ハンモックに座ってくる男が突然現れた。暗闇で顔は全く見えなかったが、どうやら焼きトウモロコシを食べているようだ。彼は自分はフランスからきたバックパッカーだと名乗ったが、それ以降はひたすらにトウモロコシを食べている。友人Aがコミュニケーションをとろうとなぜ焼きトウモロコシをこの時間に食べているのかときくのだが、時々食べかけのトウモロコシをお前も食うかと聞いてくるようなジェスチャーをしてくるのだが、いっさい言葉は発しない。暗闇で顔もわからない男が持っているモノなど食べるわけないのだが、タイはゲイの国であることをふと思いだした。それと同時に全身から冷や汗があふれ出した。フランス人は暗闇に棒状のもの(焼きトウモロコシ)をもっており、僕とフランス人はハンモックに2人腰掛けているのだ。面白がっている友人Aを横目に僕は部屋に戻ろうとつげ、部屋に駆け込んで、焼きトウモロコシの隠語を調べる。調べたかぎり焼きトウモロコシに特別な意味はないようなのだが、もしものことを考えると冷や汗はとまらない。今もこのフランス人が何者だったのかよくわからないが、くしくも、この体験のおかげで、蒸し暑い熱帯夜を、ひんやり過ごすことができた。


微笑みの国 タイ

蒸し暑く小汚い部屋だったが2人ともよく寝れた。気が付くと昼前になっていたので、街中の屋台でラーメンを食べながら、今日の予定を話し合う。タイの観光といえばムエタイ観戦で、格闘技をみるのが好きな僕はムエタイを推したが、友人Aはあまりスポーツ観戦が好きではないので乗り気ではなく、色々と体験したいという。話し合いの結果、折衷案としてムエタイ体験教室があるのを見つけて向かうことにした。


ムエタイ教室の場所は分かりづらい。観光地ではないので、住所をいってもわからないのではと思いながらもトゥクトゥクのドライバーに尋ねてみると、マイペンライと即答してくる。マイペンライとはタイ語で大丈夫だよという意味で、よく使われる言葉の一つだ。

トゥクトゥクのドライバーは若くてノリの良い青年で、片言の英語でタイの文化を教えてくれた。彼がいうにはタイにはマイペンライの精神が根付いていて、嫌なとことがあってもマイペンライ、マイペンライとポジティブな気持ちを持つそうだ。これもかいあって、タイは微笑みの国だといわれている。話はかなり盛り上がった。「何をされても怒らないの?」ときくと、「マイペンライ」と答えてくる。じゃあ、「お金を払わずに逃げても怒らない?」ときくと、苦笑いしながら「マイペンライ」という。バンコクの渋滞に巻き込まれがら、初めての異文化交流にワクワクしているとき、トゥクトゥクが少し揺れるのを感じた。振り返ると渋滞に耐えきれず車線変更しようとしたタクシーが僕たちが乗るトゥクトゥクにぶしかってしまったようだ。その瞬間、さっきまでの好青年は豹変することになる。タクシードライバーを車から引きずりおろし、胸ぐらをつかみながら、タイ語で罵倒しはじめたのだ。その間、僕たちは渋滞の真ん中に取り残されていたので、逃げることも出来ず、その場を見守ることしか出来ないのだが、渋滞中の接触なので、元々ボロボロのトゥクトゥクは、どこが傷ついたのかわからない。おそらくタクシードライバーも同じことを思っていたようでらどこが傷なのかで、もめているようだ。10分の話し合いのあと、ようやく決着したようで、豹変したトゥクトゥクドライバーは帰ってきた。彼は、まだイライラしているようにみえたが、大きなため息をついたあと、ニコニコしながらふりかえってこういったのだ。

「マイペンライ」

いや、うそつけぃ!


ムエタイ教室

ムエタイ教室はバンコクのはずれにある。300バーツで二時間のレッスンをうけることができる。ジムとは名ばかりで、高架下にリングがひとつと、筋トレ用品が並んでいる。がたいの良い欧米人達が体を鍛えているところに、小さい日本人が2人混ざって、トレーニングをするように指示される。何をすれば良いのかわからず、ウロウロしていると、欧米人の女性に縄跳びを渡された。どうやら、ウォームアップをするために縄跳びを跳べということのようだ。縄跳びは本当に縄でできていて非常に重たい。これだけでかなりの筋トレになるなと思っていると、リングに呼ばれる。リング上にはムチムチの女性トレーナーとムキムキの男性トレーナーがたっている。もちろん女性トレーナーに教えてもらいたい。そんな欲望からか2人とも女性トレーナーの方に向かうのだが、お前はこっちだと男性トレーナーに呼び止められる。男性トレーナーは指導経験が豊富なようで、老練のトレーナーのようだ。 がっかりしたもののさすが老練のトレーナー、教えるのが非常に上手く ムエタイの蹴り方について 丁寧に教えてくれる。 ムエタイの蹴りは空手の蹴りと違って ムチのようにしならせるのが特徴なのだ。 サッカーのボレーシュート 似ていたこともあり、スジが良いと褒められた。 ただ、お尻の使い方が 良くないようでトレーナーは丁寧にお尻を触りながら動かし方を教えてくれる。行き過ぎたサービスではと、かんじながら友人Aを見ると同じように、女性トレーナーにお尻を触られながら教えてもらっているのをみて、不愉快な気持ちになっていたところ、最後にもう一度サンドバッグに蹴りをするように指示される。 バシッと乾いた音が鳴り響かせることができた。トレーナーはおれの指導は凄いだろうと言わんばかりのドヤ顔をしているが、これは気持ちの問題で、苛立ちにより力が入って強く蹴りができたのだとおもう。なぜなら、彼は英語が全く話せないので、指導の内容を一つも理解できかったからだ。意味がないじゃないかと言う人もいるかもしれないが、大事なのはタイでムエタイ体験を行ったという事実であり 強くなることを目的としていたわけではない。パンパンにミミズ腫れした右足を引きずりながら 友人と満足げに帰っていくのだった。


誘惑のネオン街 パッポン通り

ホテルに戻った僕たちは日も暮れていたので、晩ご飯を求めて、夜の街に飛び込むことにした。屋台でパッタイを注文していると、向かいの通りが盛り上がっている。調べてみるとパッポン通りというところのようで、地球の歩き方にも乗っているタイの有名なナイトスポットだ。タイのナイトスポットといえば、ゴーゴーバーが有名で、パッポン通りには日本人がよく行くと言われているお店があるので、パッタイを流し込んで足早にむかうのだった。

パッポン通りに着くと これまでどこにいたんだと言わんばかりの日本人たちが通りを歩いているのを見つけた。年齢層は少し高めで ゴルフ終わりの親父たちが 若い女の子を連れて 街を闊歩している。ハンドバッグを脇にはさみ、オラつきなが歩いている男達をみて辟易したが、そんな自分もパッポン通りにいるのだから、何も言う権利はない。とりあえずキャッチに誘われるまま、ゴーゴーバーに入ることにした。

店内はまるで異世界だった。お立ち台と呼ばれる舞台に 綺麗な女性達がセクシーな踊りをおどっている。 男たちは お立ち台の周りに置かれているソファーに座り、ビールを飲みながら 女の子たちを見てニヤニヤしている。どうしたらいいのかよくわからない僕たちに 若い日本人の男が声をかけてきた。「お前たち、ゴーゴーバーは初めてか? 俺がゴーゴーバーの遊び方を教えてやるよ」彼はそう言うと、となりのソファーに座るように指示する。ソファーに座るとすぐに男はお立ち台にいる女性を呼びつけ、なにやら交渉を初めてすぐに席をたっていった。「おまえたちはお金がないんだろう。だったらそこで上を見ながらビールを飲んでるといい」かれはこういって、女性と店を出て行った。言われるがまま天井をみると2階はガラスの床になっていて、2階のダンサーは何やら裸の女性が踊っているようにみえた。はやる気持ちを抑えながら店員を呼び止め2階に移動させてもらうのだが、そこでタイにいることを痛感することになる。2階のダンサーはみなうっすらと無精髭が生えているのだ。なんともやるせない気持ちになってお金がない僕たちは店を後にするのだった。


旅の終わり

タイの有名な観光地といえば、アユタヤ遺跡だ。首長族で有名なチェンマイも捨てがたい。次の目的地を考えていると、授業の終業を告げるチャイムがなり、そっと地球の歩き方を閉じる。次はどこにいこうか、そんなことを考えながら、帰路につくことにした。

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