エピローグ
その後――。王宮に足を移した。移りたくなかったが、無理やり連れてこられた。
「ったく、何でお前と一緒に一日中いなくちゃならねぇんだ!」
俺の隣にいるのは、無精ひげをすっかり剃り落とし、今やきれいさっぱりにスーツを着こなした三枚目のエバンだ。
「しゃーないやん。俺ら王子はんの護衛やねんから。それより、見てみ? 俺こないかっこいい服着せてもろたん初めてやわ。どう? 男前になった?」
だらしがない格好だったエバンが、俺よりスーツが似合っていて気に食わない。いや、嫉妬しているわけではない、たぶん。
「リード、リード? ちょっと聞いてる?」
もう一人厄介なのがいる。フラッドは王宮では今までの大人びたそぶりは見せず、我がままのし放題だ。宮殿は見るからに夢の国を思わせる。白馬もいるし、庭には数百の噴水。
天井画は天使が舞い、広間はシャンデリアの渦。赤いカーペットは誰でも憧れるところだ。そう、これらの雰囲気を、全てフラッドが台無しにしなければ。
俺は宮殿に来て、やはりフラッドを変人だと思うしかなかった。
「あ、そこ、気をつけてね。玄関に埋めた地雷のスイッチだから」
銃の手入れをしながら鼻歌まじりにやってきて、壁にもたれかかった俺をひやりとさせる。
「地雷なんか埋めてあるのか」
「だってー。危ないもん」
「お前の方が危険だ!」
「そうそう、第三十二番の部屋の鏡、汚れてたから磨いといてね」
人の話も聞かない。部屋に番号を振るのもどうかと思うが、言うことを聞かなければ給料が減らされてしまう。そもそも賞金は国王から奪い取ったので、俺がここに居座る理由はもうないはずだった。
だが、フラッドに従わなければこれまで犯してきた、罪(フラッドの銃の乱射に比べれば可愛いものだ)を国王にも警察にもばらされてしまう。ちくしょう。
しぶしぶ俺は三十二番の部屋に向かう。五階にあるこの部屋はフラッドの衣装ダンスがメインに収納されている部屋だが、服の合間にこっそり銃を隠すのはいただけない。
そして、極めつけは。鏡。部屋という部屋に一つ、大きな鏡がある。フラッドはときどき、鏡の中の自分を見つめているようだ。鼻歌を歌いながら。寒気がしてくる。
部屋の呼び出しベルが鳴ったので、鏡を拭き終わると全速力で走った。一日に何度も部屋を往復だ。これじゃあ、メイドさながらだ。
「じゃ、今日の任務を報告するね」
エバンと俺に手渡されたのは、エジプトの地図だった。極めつけにフラッドは例の妖艶な笑みを浮かべる。
「エジプトまで旅行するんだけど。僕の命を狙ってる連中がいるみたいなんだ。護衛よろしくね」
やれやれ、断るわけにもいかないだろう?