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あるところに全能の神がいました。
「あ〜あ、最近暇なんだよな……箱庭でも創ろうかな?」
神は七日間で世界を創り、少し経つと生命が産まれてきました。
まさに神憑り的な確率です。
更に少し経つと、モノを作る生命まで産まれてきました。
これには寝ていた神も大喜び。
「おお、上手く行ったね! じゃあこの箱庭には名前をつけないとね」
十秒にも及ぶ熟考の末、神は世界をアースという名前に決めました。
「う〜ん、発展しなさそうだし神でもおいてみようかな?」
神は幾千もの神を世界に送り込み、仕事を与えます。
ですが、早くも仕事に飽きてしまった神がいました。
魂を裁く神、ユースティティアです。
「あ〜あ、最近暇なんだよね〜……箱庭でも作ろうかなぁ?」
彼女が作ったのはただの箱庭でした。
二年も経たずに箱庭を放り散らかした彼女には、良いアイデアが思い浮かびました。
「ゼウス様、私も世界を創ってみても、良いでしょうか?」
「そんなことを言ってくるのは君が初めてだよ! 是が非でもやってみてくれ!」
全能の神はお気楽で寛容でした。
なんやかんやで世界を創り始めましたが、彼女の足元には五世紀の成果、大量の岩の塊。
既に大きな壁にぶつかってしまったのです。
「ゼウス様は適当に練ってれば出来るって言ってたけどな〜……」
中々産まれない命に痺れを切らした彼女は、自分の欠片を何気なく落としてみました。
何と結果は大成功!
数カ月もせずに草が生えてき、大はしゃぎでお昼寝を始めました。
彼女が昼寝から起きて世界を覗くと、モノを作る生命──アースで言うニンゲンが産まれていました。
ニンゲンは集落を一つ作り、草を食べて生活を始めます。
「私ってば天才! この世界は私の初めての成功作だから、アースティティアだね!」
最初の人類が少し小さかったり、髪や眼がツートンだったりしましたが彼女は気にしませんでした。
アースの肉や魚を思い出し、牛っぽいものや魚っぽいものを産み出すと、ニンゲンは地面から出た岩を投げて肉や魚を食べ始めました。
作り方が悪かったのかニンゲンがバタバタと死んでいき、彼女は少し落ち込みました。
「わからないなら持ってきてこっちで増やした方がいいのかな?」
早速彼女はアースから色々持ち出して、ニンゲンから離れたところに纏めて放り込みました。
何種類かは絶滅しましたが、生態系は整いました。
徐々に生息域を広げたニンゲンは、何故か牛や魚を見て逃げてしまいます。
彼女にはニンゲンがわからぬ。彼女は、魂を裁く神である。
「あれ、食べないのかな? 今度のは美味しいと思うんだけど……」
トラウマのあるニンゲン達は、近くに死体を置いても土をかけて埋めるだけです。
ですが、少し考えると彼女でもわかりました。
そこで彼女は降臨することにしました。
「え〜っと、ここから行けば降りられそうかな? おっ」
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「おい、見ろよあれ!」
「何だ! またアレか?」
「違う! あれは……まて、あの光は……」
「嘘……だろ」
「始祖様の御降臨だ!! お前ら早く供物を用意するんだ!」
彼女は自分が始祖として崇められているのを知らず、阿鼻叫喚の世界に少し腰が引けていました。
「えっと……えっへん! 私はこの世界の神、断罪のユースティティア様であるぞ!」
「やっぱりだ……」
「おい! 供物はまだか! 足りないぞ!」
「早く集落の者を全員集めろ!」
「ちょ、ちょっと……」
余りのパニックに、神は少しの間放置されてしまいました。
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「で、私はお話に来たのです!」
「お、お話というのは、何の事でしょうか」
少し怒った神は、集落の長と一対一で話すことにしました。
「まず、供物はいらないのです。神は食べ物などは必要としません」
「わ、わかりました。では他の何かを」
「大丈夫なのです。いいのでお話をさせてください」
「は、はぁ。始祖様がそう仰られるのであれば」
「私はこの世界を作り、見ていたのです。そして、食料を送ったことがあります」
「そ、そうなのでしょうか」
「ですが私が未熟な為に、多くの人々が死んでしまいました」
「……」
集落の長は苦虫を噛み潰したかのように俯いてしまいました。
「そして最近、別の生物を少し離れた位置に送り込んだのです」
「も、もしや?!」
凄い勢いで首を振り上げた集落の長の首からは、ゴキっという音が鳴り、集落の長はまたしても俯いてしまいました。
「その通りなのです。今この世界にいる生物はしっかりとした物なので、滅ぼさない程度に食べてください」
「は、はい……」
「私からの今回の神託は以上です。お疲れ様でした」
神は不相応なまでに優雅なお辞儀をし、天へ昇りました。
この時から集落の長は神子と呼ばれ、事ある毎に持ち上げられるようになりました。
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「敬語しっかり出来たかなぁ……? 尊厳を保つ為に必要だって聞いたけどな〜」
彼女は神なのであまり考えなくても良いことを考えていました。
一人反省会をしている内に、肉を取るニンゲン、魚を取るニンゲン、草を取るニンゲンなどにどんどん別れていき、集落の数は増えていきます。
服は毛皮に、武器は牙や爪で、どんどん発展していきました。
一人反省会を終えて世界を覗くと、ニンゲンの行動域が広がっていて彼女は喜びました。
しかし、少ししてまた壁にぶつかります。
「何か全然発展しないなぁ……?」
神を送って発展させた全能の神と違い、彼女に神は作れません。
自分が一度降臨してしまったこともあり、降りずに上手くやる方法が思いつきません。
そこで彼女は、自分の欠片をもう一度世界に落としました。