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 ある暗い空の下、一つの命が二つに千切れた。

二つに増えた命はお互いに役割を決めた。

一度として分たれることが無い様に、支え合わなければ生きていけないように。

──小さき方の命は、力を一つ隠して。




 ある明るい部屋の中、男女の双子が生まれた。

それはこの(・・)時代になっても珍しいことであった。

だが、珍しい以上のことは無い筈だった。

新生児検査によりこの双子は、脳を共有している(・・・・・・・・)──特変種なる人間であることがわかってしまった。




■□■□■□■□■□




 「お兄ちゃん、ただいまあぁー!」


 元気な妹の声が、玄関から聞こえる。

すぐに走るような音がして、居間への扉が激し目に開かれる。


 「ああ、お帰り」


 扉のことを注意しようかとも思ったが、いつものことだし意味は無いだろう。

ソファに向かって飛び込んできた妹を抱き止めつつマグカップを置く。


 「今日は何の授業だったんだ?」


 「絵を見て何を感じるかってやつだったよ!」


 今日は共感覚(シナスタジア)の授業だったようだ。

稀にある危険が伴うものではなく安心だ。


 「お兄ちゃんまたカルのこと子供扱いしてるでしょ! 全部聞こえてるからね!」


 ……そんなつもりは毛頭なかったのだが。

この念話のようなものを使い慣れていないせいで、良く頭の中を覗かれてしまう。

最も、これを使うことによってカルの声を聴きにくくなるなら、使う気はない。


 「仕方ないだろう。カルには怪我をして欲しくない」


 「怪我なんてしないよ! お兄ちゃんよりは動けるんだからね!」


 「っ確かにそうだが……」


 「だから大丈夫、このお話終わり! 今日のご飯は?」


 何とも腑に落ちないが……

冷蔵庫には卵とベーコン、チーズもいくつかあったはずだ。


 「今日はカルボナーラにしよう」


 「やったぁ! お兄ちゃん大好き!」


 随分と現金な妹だ。カルの好物だし仕方ないかも知れないが。


 早速キッチンへ向かい、麺を茹でる。

ソースを作っていると、待ちきれなかった子猫がカウンターから身を乗り出してきた。

麺が茹で上がる前にソースを作っていたフライパンに加えると、子猫は既に食器類を用意していた。


 「珍しいな、カウンターで食べるか?」


 「……うん。久しぶりのカルボナーラだしね」


 謎の間にカルの目が少し落ち込んだ様に見えた。

ここ最近作っていなかったからか? 落ち込む程では無いと思うが……


 「カル、出来たぞ。皿をくれ」


 「はい、先にお兄ちゃんの分ね。良い匂い……」


 料理に情愛を抱いていそうなカルを尻目に、二人分を装い切る。

食べる前に器具を片付けてしまおうか……いや、カルは食べてろと言っても待っていそうだし、先に食べてしまおう。


 「別に片付け先でも良いんだよ?」


 「冷めると味が落ちてしまうからな。先に食べよう」


 「ふふ〜ん♪ じゃあ、いただきます!」


 「召し上がれ」


 カルは上品なままに異様な速度で口に運んでいく。

体の中に掃除機でもあるかの様だ。

いつも美味しそうに食べてくれるカルの横顔を見ていると、時を忘れてしまいそうだ。

さて、カルに取られない内に胃に収めてしまおうではないか。




■□■□■□■□■□




 「ごちそうさまっ!」


 「一品料理だったが足りたか?」


 「うん! お腹いっぱいだよ!」


 「それは良かった」


 ピン、ポーン。

間を図ったかの様に、インターホンが鳴る。

顔を青くして立ち上がろうとした妹を止め、モニターを見る。


 ──特変種収容部隊が、映っていた。


 「ははっ、幾ら何でも急な事だな」


 思わず乾いた笑いが出る。


 「行かないでお兄ちゃんっ!!」


 「出来る事ならそうしたいさ」


 「ごめんなさい、今日はずっと嫌な予感がしてて、お兄ちゃんに言おうかと思ったんだけど、」


 「わかっている。カルが謝ることじゃない」


 「でも、今からじゃ……」


 「大丈夫、二人ならきっと逃げられる」


 「大丈夫じゃないんだよっ!! 奴らは、お兄ちゃんが、奴らに……」


 カルが泣きながら激昂すると共に、再びインターホンが鳴る。

覚悟だ。唯一の味方であるカルの、唯一の肉親である妹の、未来を救う為に──殺す覚悟を。


 キッチンからまだ脂で汚れているナイフを持ってくる。

逆手にそれを握り背中に回す。

ゆっくりと玄関に近づいていき、左手で鍵を開けた瞬間に扉を蹴り飛ばした。


 読めていたのかどうかは分からないが、インターホンから見えた部隊長(・・・)には当たらなかった。代わりに控えていた一人に直撃、そのまま扉は全開になった。


 敵は一人と三名。仮にも部隊長はエリート。部隊長は今でないと二度と攻撃するチャンスはないだろう。

蹴り飛ばした姿勢から右に回り部隊長の首へナイフを立てた。

まさかこんなに上手く行くとは。

部隊長からナイフを引き抜くと、目を丸くしたまま後ろに倒れ、辺りが血の海になった。


 殺した。殺してやった。

こいつらはカルを実験台にする組織の犬、そう考えれば憎しみ以外の情など湧いてこなかった。


 色めき立っている隊員は武装をしているが、逃走経路は既に頭にある。

残り三人であれば余裕を持って突破できる。

追われることを考えると今ここで殺すべきだが、無謀だ。


 カルの手を取り走りだす。近づいてきた一人を軽くいなし、縫う様に間をすり抜ける。

どこか、遠くへ。カルと共に平和な地へ。それしか頭になかった。

家の敷地を抜け、もう三人(・・・・)の隊員に道を塞がれた。


 初めて失敗をした。計算尽くで今まで生きてきて、冷静を欠いた事は一度として無かった。隊が四人しかいない等と、可能性を排除した考え方は今までしなかった。

理解した途端に、周りの声が聞こえてきた。


 「おい貴様止まれ! 部隊長殿が説明をしたはずだろう!」


 「あの四人は何をしているのだ!」


 「足音がする、戻ってきているようだぞ」


 放心状態で固まっていると、後ろから追いついた隊員に左腕を取られる。

カルは前の隊員に連れ去られようとしている。


 カルの腕を取った隊員が、ニヤつきながら抱き寄せようとした。

心の中で何かが切れる音がした。


 「カルに触れる事は許さんっ!!」


 無理矢理右足を踏み出して隊員の顎を蹴り上げた。

左腕を強く引かれるが踏ん張って抵抗する。カルを助けなければ。

もう一度踏み出してカルに近付き──


 「お兄ちゃん、落ち着いて?」


 常日頃から感情の塊の様なカルは、驚く程に落ち着いていた。

カルが顔を伸ばしてきて耳打ちする。


 「今からカルをお兄ちゃんに渡すから、カルをしっかり……殺してね?」


 ……は?

カルを、渡す?と思った瞬間に脳が割れんばかりに痛くなる。

感情の奔流に流されそうになるが、意識を保ちカルに視線を向けた。

カルはの目にはもう殆ど生気が無かった。

意味が、わからなかった。


 「何を、言っているんだ、カル」


 「ごめんね、これが最後のお願い。お兄ちゃん……いや、キナシ。苦しくしないでね」


 カルはもう、とっくに覚悟が決まっていたのか。いつの間にか遠くに行ってしまったかの様だ。

妹を死なせたくは無いが断る訳にはいかない。それが、最愛の妹との、約束だから。

左腕を強引に振りほどきカルの頭に抱きつく。

済まない、兄が不甲斐ないばかりに。

腕を思いっきり締め、カルの首を折った。


 「カル、また今度だ」


 僕は自分の首をナイフで掻き切った。


 薄れゆく意識の中、カルが微笑んでいるように見えた。

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