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夏日—君へ送る、手向けの言葉

久しぶり、元気だった?なんて、こんなこと、死んでる人に聞くのも変だよね。

来るのが遅くなってごめんね。私の中で、整理したいことが沢山あって、なかなか来られなかったの。そうこうしているうちに、君が死んでから一年も経っちゃった。申し訳ないって思ってるよ。ほんとだよ。

……あのね、私。沢山考えたんだ。君の最期の告白のこと。君が何を思って、こうして死を選んだのか。いっぱい、いっぱい、考えた。

いっぱい考えたけど、やっぱり答えはひとつだった。

私はきっと、どんな形で君に告白されても、君の想いには応えられなかったと思うんだ。

私にとって君は友人以外の何者でもないんだよ。

君のことはもちろん好きだよ。大好き。だけど、君の「好き」と私の「好き」って、きっと全く別物だと思うんだ。

私は「友達」としてしか、君を愛せない。

だけどきっと、君は違ったんだね。

ごめんね。君のそんな気持ちに、最後まで気付けなくて。

でも、それなら、ちゃんと言って欲しかったな。

私、君からの告白、嫌じゃなかったよ。嫌じゃなかった。気持ちに応えることはできないけれど、嫌、って思うことは、なかったんだよ。

だからさ、言って欲しかったなぁ。こうやって死んじゃう前に、言って欲しかったよ。

君が私と離れたくないなら、君がこんなふうに死んじゃうくらいなら、私、君とずっと一緒に居たってよかったんだよ。あの部屋から、出て行ったりしなかったよ。

それがきっと、私の後悔。

君の気持ちに気付けなかったこと。結果的に、君を殺してしまったこと。

私は一生、それを悔やみながら生きていくよ。

これが、今の私の正直な気持ち。

今日はそれを、君に伝えに来たんだ。本当に、いつまで思い悩んでるんだってかんじだよね。

会いに来るのが遅くなって、本当にごめん。

……さて、いい時間だし、私、そろそろ帰るね。

また来年も、きっと君に会いに来るよ。

じゃあね。



**


ふ、と目を開けた。

目の前には、綺麗に整えられた墓石が立っている。物言わないそれは、生前のあの子とは似ても似つかなくて、やっぱり悲しいなぁ、なんて、そんなことを思った。

やっと言えた。やっと伝えに来れた、私の本心。

それに返事はないけど。あるはずもないのだけど。私の気持ちは、きっとあの子に届いたと、そう、信じている。

ぱしゃり、と柄杓で水をかけてやってから、私は彼女に背を向けた。茹だるような暑さの中を、ゆっくりと、時間をかけて歩いていく。

五月蝿い程に鳴り響く蝉の声に混じって「ありがとう」という、懐かしい声が聞こえた気がした。


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