残酷 2
シリアス続きます。
文才がないのでうまくまとまっているか心配ですが・・・
「彼方、大丈夫か」
「・・・・・・」
「彼方、何か食べないといざというときに動けない」
「・・・・・・」
「かな───」
「うるっさいなぁっっ!ほっといてくれよっ!!」
うるさい。
うるさい。うるさい。
何も聞きたくない。
俺の心がそう訴える。
いや、嘘だ。
こんなことを言いたいわけじゃないのに。
本当は放っておいてほしくなんかない。
側にいて。
慰めて。
───一人にしないで。
乱暴に言い放ち再び膝に顔を埋めた俺に、隼人が何かを言おうとしてやめた気配がする。
俺が複雑に相反する感情に振り回されているのに気づいているのか、いないのか。
結局、隼人はそのまま何も言わずに立ち去ってしまった。
火事の一件から三日。
ダンジョンが現れてから三日。
俺は隼人の家に厄介になっていた。
元々家ぐるみで付き合いがあった事もあり、家族を、家をなくした俺を心配して、隼人の家族が声をかけてくれたのだ。
最初の一日は空元気で動けた。
でも、二日目からは何故か体が動かなくなった。
隼人の部屋に布団をひかせてもらっていたが、そこから動こうにも体が思うように動かない。
おばさんはストレスと疲労だろうと言ってゆっくりさせてくれた。
おじさんは俺が好きなプリンを買ってきてくれた。
隼人は口には出さないものの、ずっと俺を心配しているのを感じる。
優しい人たちだ。
でも俺はそんな佐久間家の人たちに何も返せない。
こんなひどい言葉でしか返せない。
俺は嫌なやつだ。
たまに罪悪感に押しつぶされそうになる。
何で俺だけが生き残ってしまったんだろう。
俺よりも明るくて優しい妹が死んで、俺だけが生き残った。
いつも笑顔で俺たち兄弟を見守ってくれていた両親が死んで、俺だけ生き残った。
優しさにも乱暴な言葉でしか返せない、俺だけが生き残ってしまった。
何で俺だけ生きてるんだ。
振り払っても振り払っても溢れ出る。
苦しくて苦しくて、耐えても耐えても終わらない。
息ができなくなる。
葬式で何度もかけられた言葉。
「生きていればいいことがあるさ」
そんな無責任な言葉で俺は救われない。
生きている間、この抜け出せない地獄を俺は永遠に背負っていかなくてはいけないのか?
そんなの無理だ。
耐えられない。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。いやだ。いやだ。いやだ。
───しにたい。
ガチャリと開いた扉の音で急激に思考が現実へと戻ってくる。
開いた扉の先に立っているのは隼人だ。
部屋を見渡すと既に真っ暗になっていた。
いつの間にか夜になっていたらしい。
「彼方」
「・・・・・・」
「白帆駅の方には行くなよ。今あそこは危険だ」
「・・・・・・」
そんなに俺がフラフラとどこかに行くように思われているのだろうか。
何も答えずにいると、隼人は再び扉の奥へと消えていった。
わざわざ伝えに来るとは俺の親友は心配性だ。
暗闇で膝を抱えてじっとする。
段々目が慣れてきたのか辺りがよく見えるようになってきた。
机。椅子。ベッド。ゴミ箱。
何度も来ているからもうどこに何があるのか、手に取るようにわかる。
ぐるりと視線を動かしていると、ふとある物に目が止まった。
ペン立て。
シャープペンシル、黒ボールペン、赤ボールペン、五色ボールペン、コンパス、定規、消しゴム、───カッター。
俺が以前忘れていった蛍光ペンも立っていた。
数時間ぶりに立ち上がり、ペン立てのある机に近づく。
暗闇の中、カッターの刃が鈍く光ったように感じた。
文房具にしては少しごつめのプラスチックの持ち手を触る。
これを使えば死ねるのだろうか。
ペン立てから静かに抜き取り、カチカチと音を鳴らしながら刃を出す。
ゆっくりとそのまま左手首に当てた。
あははははっ!
「───っ!」
突然聞こえた笑い声に、思わずカッターを取り落とす。
心臓がドクドクと音を鳴らしていた。
慌ててカッターを拾い直し、刃をしまう。
よく耳を澄ませると、階下からのテレビの音のようだ。
今、俺は死のうとしていた。
なのに何故こんなに声が聞こえただけで焦ったんだ。
自分でもよくわからない。
だが、今の笑い声のおかげで冷静になることができた。
ここは隼人の家だ。
ここで死んでは迷惑が掛かる。
外へ出よう。
───いったい何処へ?
『白帆駅の方には行くなよ。今あそこは危険だ』
そう言った隼人の言葉を思い出す。
治安でも悪くなっているのだろうか。
でも死に場所にはうってつけかもしれない。
俺はそう考えてこっそり部屋を出た。
階段を音を立てないように降り、生活音のするリビングの横を早足で通り抜ける。
細心の注意を払って玄関のドアを開けた。
きっと見つかれば隼人は確実に追ってくるだろう。
あいつはきっと俺が自殺することをよしとしないから。
二日も食事をとっていない体の何処にそんな元気があったのか、俺は白帆駅に向かって走り出した。
人生の中で最も軽やかに走れている気がする。
俺を苦しめている罪悪感や孤独感が後ろへ流れる風とともに、うっすらと消えていく気がした。