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残酷 1

 



 赤、赤、赤、あか。


 視界いっぱいが赤に埋め尽くされる。


 近くで聞こえるはずのサイレンも怒号も悲鳴すらも遙か遠くに聞こえ、自分の鼓動だけがよく響いた。


 誰かが俺の肩を揺さぶって、何かを言っている気がする。

 ゆっくりとその人の方を向くが何を言っているのか理解ができない。



「・・・ぁ」



 何か言葉を返そうとしても、俺の口から出るのはかすれた声だけだった。



 風が吹く。


 ますます大きくなった赤は、俺のよく知っている大切な居場所を飲み込み、また大きくなる。


 何で、何で、何で。


 やめてくれよ。


 目の前の光景に目がくらみ、俺はその場にうずくまった。












 □□□□□□□











 葬儀は厳かに執り行われた。


 悲しみに涙する人。

 無言でうつむく人。

 可哀想にと同情する人。


 ただ一つ普通ではなかったのは、多くのマスコミが背後で押し合いながらこの葬式の写真や映像を撮っていることだった。

 大方、明日の新聞の一面にこういう記事が載るのだろう。



『史上初の能力犯罪?!発火能力者か』



 笑えない。全く笑えない。


 何で俺の家族なんだ。

 一昨日から永遠と繰り返すその言葉を俺は再び噛みしめた。


 思い返すのは隼人と別れた後のこと。

 いつも聞き流していた消防車と救急車のサイレンがやけに近くに聞こえたのをよく覚えている。

 真っ暗なはずの空を見上げれば、真っ昼間のように明るかった。


 いやな予感がした。

 必死に当たらないでくれと祈った。


 でも、神様はそんなに優しくない。


 いやな予感ほど当たるとはよく言ったもので、俺の予感は見事に的中した。



 真っ赤に染まり、燃え上がっているのは───俺の家だった。


 何も言えなかった。

 ふらふらと引き寄せられるように家の前まで行くと、大勢の野次馬と消防士が立っている。

 誰か俺のことを覚えている人がいたのか、近づけば自然と通る道が空いた。


 呆然と歩く俺を見つめる視線は、同情。


 俺に気づいた消防士に名前を聞かれ何とか声を絞り出して答えると、その人は眉を下げ、悲しげな顔をした。




 ただいま全力で消火中ですが、なにぶん火の勢いが強く隊員が建物内に入っていけません。


 俺の家族は・・・。


 今何とか火の勢いを弱めています。

 中には入れなければ、何ともいえません。




 そのとき。

 家の柱が燃え切ってしまったのか、ガラガラと音を立てて家が崩れ始めた。


 画面越しの世界がそこにはあった。


 炎の熱も、消防隊員の声も、全身で感じているのに、頭だけがそれを理解しようとしなかった。




 っ・・・!下がってください!




 焦ったように俺を後退させようとする隊員の焦った顔がとてもゆっくりに見えた。

 そこで気づくのは、どうやら俺の腰は抜けているということ。


 再び視線を前へと戻すと、そこにあるのは瓦礫と化し燃え続ける我が家だったもの。


 その光景に耐えられず、顔を覆って蹲る。



「・・・あぁ・・・ああぁ、あああああ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁーーーーっ」



 喉から血の味がした。

 それでも俺は叫び続けた。


 そうせずにはいられなかった。





 後から聞いたのは、家が燃えたのは放火が原因であるということだ。

 それもただの放火じゃない。


 ───発火の能力による放火だ。


 放火犯は何を考えたのか、俺の家に火をつけた後、そのまま立ち尽くしていたらしいのだ。

 その為すぐに警察に捕まった。


 警察の取り調べによると、能力というのが本当に使えるのか試してみたかった、なんとなく近くにあった家で試した、と自供したらしい。


 それを聞いたとき、俺は怒る気すらわかなかった。

 余りにも軽い理由で家族は殺されたんだなと思わず笑ってしまったぐらいだ。


 急に笑いだした俺を警察の人はぎょっとした顔で見ていたと思う。



 俺は絶望を知った。







 □□□□□□□







 西暦二〇XX年十一月五日。



『迷宮』が現れてから僅か三時間。


 俺の家族は全員、能力による火災で命を落とした。


 日本最速の能力犯罪という最悪な称号とともに。









 迷宮の出現によって俺の人生は変わった。


 ・・・変えられてしまったのだ。







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