天然部長
ストーカー来た! って思ってた人は挙手しましょう。
昨日に続き今日も勇也は図書室に来ていた。
図書室が一人になれるため落ち着くという理由もあるが、あの時読みかけのまま終わってしまった本の続きを見るというのが目的だった。
現在、机で本を読んでいるのだが、勇也は顔を目の前の本から、横のカウンター側に向ける。
すると、明らかに此方を見ていたであろう図書委員がサッと顔を背け、まるでずっと本を読んでいたかのように顔を隠す。
(いや、バレバレだろ……)
誰がどう見てもあの反応はバレバレだ。
彼女は明らかに此方を見ていただろう。
(もしかして、昨日ここで寝てしまってたから怒ってるのか?)
勇也は、昨日図書室で寝てしまったことに彼女が腹を立てて、また寝ないように注意して見張っているのではと考えた。
しかし、勇也は今日は寝ることも無いだろう。
昨日の反省からエルさんとプレイしても、明日のことを考え早めにゲームを切り上げ寝たため、大丈夫だと勇也は考えていた。
(さてと……)
いつまでも彼女のことを気にしておくと時間がないので、すぐに顔を本に戻す。
(あと少しだな……)
あと少しでこの本も読み終わる。
時間的には結構余るが、読み終わったら屋上でゲームをすれば良いだろう。
そして、勇也が最後のページに差し掛かったとき、勢いよく図書室の扉が開かれた。
勇也は驚きそちらを見ると一人の女子が立っていた。
そして、その女子は此方の方へと歩いて来て、勇也の目の前で止まった。
「え、えっと~。何か用ですか?」
勇也は、いきなりのことに戸惑う演技をしながら問い掛けた。
「ずっと、君を探してたんだよ! やっと会えた!」
そう言うと、彼女は勇也を思い切り抱き締めた。
「え!?」
勇也はただ驚くことしか出来なかった。
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「いや~ゴメンね? ちょっと興奮しちゃって…」
それから5分くらい抱き締められた状態が続いたが、やっと気付いたのか彼女は離れてくれた。
「まぁ、大丈夫ですけど、そもそも貴女は誰ですか?」
「え、私? え~とね、私は十六夜 凉。二年でーす」
十六夜 凉は、学校でかなりの有名人だ。
この学校には、四天女王と呼ばれる人が居て、その学校で最も美しい見た目の四人がそう呼ばれていて、彼女はその内の一人だ。
そして、彼女は四天女王の中でも一番天然であるということで有名だ。
「で、十六夜先輩みたいな、有名人が俺みたいなのを探してたんですか?」
「えっと、それはね──」
それから長く、意味不明で、先輩が日本語を喋っているのか怪しいレベルの説明を聞いた。
纏めると、一応先輩は自分で作った部活の部長をやっているが、部員が居ないからその部員を探していた。
と言うことらしい。
「大体事情は把握しましたが、何故俺なんですか? 他にも部員になりたい人は沢山いるんじゃないですか?」
「まぁ確かに部員になりたいって言う人は居るんだけど……」
突然、先輩の顔がこわばる。
「ウチの部活ってね、自分の趣味をそれぞれ楽しもう! っていう部活なんだけど、入りたいって申し込んで来た人は全員、何故か趣味を持ってなかったんだ」
次の瞬間急に先輩の顔が明るくなり、此方を指差した。
「そんなとき昨日君を見掛けた!」
「え? 俺?」
「そう、君だ! 君はわざわざこんな人のいない図書室に来てまで本を読むのが好きなんだよね!」
何故か壮大に勘違いされてしまっているが、流石天然と言うべきなのだろうか。
「でさ、入らない? 『道楽部』に!」
先輩は勢いよく顔を近付けてくる。
(ち、近い……)
「まぁ、返事はまた今度で良いから」
先輩は顔を離すと「それじゃ!」と言って図書室から出ていった。
先輩が出ていった後の図書室はまるで嵐が去った後のような静けさだった。
「あ、時間だ!?」
時計を確認すると、昼休みの終わりが迫っていた。
勇也は本を直すと慌てて図書室を出た。
ギリギリ、時間に間に合い教室に入り席に着くと、隣の勝が話し掛けてきた。
「なぁ、さっきまで十六夜先輩と居ただろ?」
「え? まぁ……」
「何を話したんだ?」
勝の少し表情は強ばって見えた。
勇也はそんな勝に図書室であったことを簡潔に話した。
「そうか、あの十六夜先輩が部員を……」
それから授業が始まり、二人も前を向き授業を受けた。
しかし、この時、勝がある事を考えていたなんて、隣の勇也でさえも気付かなかった。
短いのは許して欲しい……。