会長の手料理?
まさか、日間ランキングに入っていたとは……。
「うぅ…」
勇也はスマホのアラームで目を覚ます。
「知らない天井……。って、そういえば引っ越したんだった」
勇也は寝惚けて一瞬ここは何処だと、戸惑ったが昨日引っ越した事を思い出す。
現在は6:00だ。
この時間に起きた理由は勿論朝御飯を用意するためだ。
先ずは事前に買っておいた食パンをトーストし、その間に軽くおかずを作る。
勿論勇也は料理もある程度は出来るため失敗はしない。
「よし、完成か」
勇也は席に着いて朝食を食べ始める。
テレビなど必要な物は事前に置いていた為ある。
なのでテレビでニュースを確認しながらパクパク食べる。
「にしてもテレビのデカさ合ってないな……」
テレビや日用機器は親に頼んで用意してもらったのだが、テレビは150インチとかいう絶対に部屋に合わないサイズを壁にかけて、冷蔵庫もわざわざ最新型の冷蔵庫を両親に購入して貰った。
勇也は断りたかったが、両親の思いを無下に出来なかった。
しかし、家にあるものは何故か全て最新機器で高スペックの物ばかり。
これらを見るたびに改めて両親の感覚の異常さ、つまり金持ちの感覚の異常さを実感する。
(まぁ自分も前までその金持ちだったんだが……)
しかし、今の勇也は一応普通の高校生という設定で、本来の正体をばらさないためにも、家には誰も入れるわけにはいかない。
「っと、もうこんな時間か」
時計を見ると既にかなりの時間が経過していた為、朝食を食べ終わると、食器洗いを済ませ身仕度をサッと整えると直ぐに家を出る。
勇也の家から学校まではバスで行くため乗り遅れる訳にはいかない。
少し早いペースで進むと、丁度バスが来ているのが見えた。
それにすぐ乗り込むと、バスは席がほとんど埋まっていたため、空いている後ろの席に座る。
そこには制服から同じ学校の生徒と思われる女子が座っていて、その隣に座る。
彼女は髪はショートで顔立ちも整っていて一目で美少女だとわかる。
しかし、彼女はスマホを見るのに必死になっているようで此方が隣に座っても見向きもしなかった。
学校までは時間が有るため、暇潰しにアプリを開く。
勿論やるのは《ドリーム・ファンタズム・オンライン》ファンたちの間ではドリファムと呼ばれるゲームだ。
勇也がアプリを開きログインすると、直ぐにフレンド専用の個別メッセージが送られてきた。
メッセージの主はエルさんで、そのスピードからもしかして、出待ちしてた? と勘違いしてしまうほどだ。
『おはようユウ君!』
『おはようございますエルさん』
勇也もメッセージを直ぐに返信する。
『ゴメンね、昨日ログイン出来なくて……』
『イエイエ、全然大丈夫ですよ。ゲームよりリアルを優先するのは当たり前ですし!』
どうやら、エルさんは昨日ログイン出来なくて謝っているようだ。
基本エルさんとは毎日のように一緒にプレイしているため、ログインしていない日があるとお互いに心配するのだが実際はこれはゲームの為、リアルの事情で出来なかったら仕方ないのだが、エルさんは、何かあったら毎回丁寧に謝ってくる。
『あ、そうだ。今からイベントクエスト行きませんか?』
『今やってるイベント? 良いね行こう行こう!』
この調子だといつも何度も謝ってくるため、話の話題を変え、クエストをすることにした。
エルさんとやると一人でやるよりサクサク進むし何より楽しく感じられた。
そうして、遊んでいる内に学校近くに着いたためバスを降りて学校へ向かう。
エルさんもこれから学校だろう。
どうやらエルさんは、勇也と同級生のようで、同じ高校一年で、女性らしい。
実際勇也にとっては性別や年齢など関係なくただエルさんとゲームが出来ればそれだけで楽しいと感じていたため、最初は驚きはしたがそれまでだった。
勇也は靴から上履きに履き替え、そのまま自分の教室へと向かう。
そして、1年A組の教室へと入る。すると、
何故か教室の女子達が此方を睨んでいる。
どうやらまだ昨日のが続いていたようだ。
この調子だと多分席が代わるまでこの調子、もしかするとこの学校での三年間ずっとこうなるかもしれない。
勇也は自分の席に着くと深いため息をついた。
「コレが続くのはキツいな……」
女子達に直接何かをされるわけでもなく無事に昼休みに入る。
勇也はまた昨日のように裏から抜けようとしたところで後ろから声を掛けられた。
「えっと、何かな? 霧野君…」
勇也を呼び止めたのは、勇也が屋上へ行かないといけない原因の台風の目こと霧野 勝だった。
「いや、隣同士だし一緒に昼飯でもどうかなって」
勝のその言葉に女子達が反応し、勇也を鋭く睨み付ける。
所々呪いの呪文が聞こえてくるのは絶対気のせいではない。
「いや、遠慮しとく──」
勇也はこれ以上厄介事に巻き込まれたくないため拒否しようとするが
「そう固いこと言うなよ! ほら早く座れよ!」
勝は勇也の言葉を遮り笑顔で返してくる。
多分勝は別に良かれと思ってやっているのだろうが、そのせいでまた女子側からの圧がました。
結局、勝は有無を言わせずに勇也を座らせる。
「──でさ──の奴がさぁ」
勇也は朝作った弁当を食べながら勝の話を聞いてるが、実際は女子の圧で食事も喉を通らず、話も耳に入ってこない。
ただ早くこの地獄から解放されたいと勇也は願った。
そんなことも有り、勇也は学校に体感でまる二日も居たような感覚でやっと学校が終わったことで涙が出そうになる。
「さてと、帰りにスーパーに寄ってかないとな」
今日は、バイトが無いためスーパーで食材や必要な物を買うために学校から直接向かう。
「ん?」
その道中、昨日と同じ此処等に似つかわしくない高級車が止まっていた。
(なんなんだアレ?)
とりあえず、偶々だろうと結論付けてそのまま勇也はスーパーへと向かった。
《スーパーマルマサ》
それがここのスーパーの名前で、このスーパーの売りは何と言っても安いと言うことだ。
安いということは、勇也にとってもかなり助かる為ここには何度もお世話になることだろう。
「えーと、今日は何にしようかな~」
食材の値段を見ながら献立を考えていると、ある商品を見付けた。
「特売セールのお惣菜だと……!?」
勇也の目の前に現れたのは特売というシールが貼ってあるお惣菜だった。しかも最後の一パック。
これは買わないわけにはいかないと、勇也が手を伸ばしたその時。
「「あ」」
丁度、もう一人取ろうとしていた人が居たらしく、手が触れ合った。
勇也が顔をあげるとソコに居たのは
「せ、生徒会長!?」
生徒会長の天上寺 乙葉先輩だった。
生徒会長は校内に知らぬ人がいないほど有名人で、勿論生徒会長だからというのもあるのだが、人に優しく文武両道、容姿端麗、その堂々とした態度から女子にも好かれる程で、男子からも美形ということで人気が高い。
何故そんな生徒会長様が何故ここにいるのか勇也は理解が追い付かなかった。
「ど、どうして会長がここに?」
「いや、今晩の夕飯の為に食材を買いに来ただけだが…」
どうやら、生徒会長は家では自分で料理を作っているらしくいつもここで食材を買っているらしい。
「所で君は?」
「あ、1年の山原 勇也です」
「山原君か…。あ、所でこのお惣菜だが君に譲るよ」
「え? いやいや、そんな悪いですし会長がどうぞ」
「いやいや、ここで譲らないと先輩として恥ずかしいからな……」
長い間譲合いが続き、結局押しまくり会長に譲ることに成功した。
「いや~すまないね。今度お詫びに家で夕飯をご馳走するよ」
「え!?」
スーパーからの帰り道一緒に帰っていると、会長がとんでもないことを口走った。
もしここに第三者が居たとすれば、勇也はここで路地裏に連れていかれてもおかしくないレベルだろう。
(そもそも、お惣菜を譲っただけで家に呼ぶなんて……。まぁ冗談だろうな)
「い、いやいや、会長がご馳走するなんて恐れ多いですよ……」
あまりに凄すぎることで恐縮な為、冗談だとしても一応断っておく。
「そうか? まぁ君がそう言うなら別にいいが」
こちらの遠慮が伝わったのかは分からないが断ることに成功した勇也は途中で会長と別れ自宅へと向かった。
「でも、会長の料理食べてみたかったな~」
誰に聞こえるはずもない言葉を一人呟く勇也だった。