表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/9

本当の愛を探すため

この話までが短編の内容です。


「ここか……」


 勇也は、これから通うことになる高校。


 《私立南風高等学校》


 その校門の前にいた。


(これから、ここで夢の高校生活が始まる)


 それを噛み締めながら校門の前に立っていると。


「あの……」


 突然、勇也の後ろから声が聞こえた。

 急いで勇也が振り替えると、そこには、腰まで伸びたサラサラな黒髪を風に靡かせながら、此方を心配そうに見つめる女子生徒がいた。


「あ、はい。何か用ですか?」


 勇也は、此方を見詰める生徒に訊ねる。


「あ、いえ。貴方がずっとそこで立って何かしているようだったから、大丈夫かなって…」


 どうやら、ずっと校門前で考え事をしたりしている勇也が色々心配になって話し掛けてきたようだ。


「あ、すみません、ちょっと緊張しちゃって」


 勇也は適当な理由で誤魔化す。

 勿論、勇也はこんなことでは緊張したりしない。


 何度も、家のパーティに招いた会社の社長等に挨拶をしているのに、こんなもので緊張するわけがない。


「あ、それ分かる! 入学して初日の日って本当に緊張するよね!」


 なんとか、勇也の嘘を信じてくれた女子生徒は、話を聞いていて、勇也は活発な子なんだと認識した。


「あ、そういえば自己紹介してなかったね」


 言われてみれば、勇也はずっと校門の前で名前も知らない女子生徒と話していた。

 そんなことを勇也は全く気付いていなかった。


 無意識のうちに女子生徒のペースに呑まれ、話に聞き入っていた。


「私はね──」


 女子生徒が言い掛けたその時、丁度同じタイミングで学校のチャイムが鳴った。


「あ、早く行かないと遅刻だよ」


 女子生徒は、先に行くねと、言い、行ってしまった。


「ッと、俺も行かないと」


 勇也も急いで教室へ向かった。



 教室に向かうと、まだ先生は来ていなかった。


 これで入学早々遅刻して先生に怒られるということは無さそうだ。


「えっと、俺の席は……」


 勇也は自分の席を探す。


「あった」


 どうやら、勇也の席は窓際の一番後ろらしい。


 最初の席は、出席番号順になっている為、勇也が出席番号の一番最後ということになるだろう。


 勇也は、急いで自分の席に着く。


「あ、おはよう」


 席に着くと、隣に座る男子生徒が話し掛けてきた。


「俺は、霧野きりの まさる。これから一年よろしく」


 勝と名乗る男子生徒は、隣の勇也に握手を求めてくる。


「あ、ああ。よ、よろしく…」


 勇也は、明らかに人見知りそうな雰囲気で握手した。勿論、これも学校でのイメージを守るための演技だ。


 霧野 勝という男子生徒の印象は、簡単に言うと、優しい雰囲気を纏ったイケメン。


 勿論、勇也には全然及ばないが、勇也を省くとこのクラス内では一番だろう。


 その、勝と勇也が話していると、前方の扉がガラガラと開き、担任の先生と思われる人物が入ってきた。


 先生が入ってくる。

 担任は、女性の先生のようで、先生が入ってくると、周りで話していた生徒も静かになる。


「はい、この度は入学おめでとうございます。私は、担任の加賀美かがみ 陽子ようこです。これから一年よろしくね」


 加賀美と名乗る先生は、それから少し話をして、クラス内で自己紹介をすることになった。


 主席番号順に何人かの自己紹介が終わり、次に出てきたのは、勇也が校門の前で出会った女子生徒だった。 


「私は、桜井さくらい 友理奈ゆりなです。部活はテニスをしたいと思ってます! よろしくお願いします!」


 友理奈が挨拶をすると、クラスから「おー」という声が溢れる。

 主に男子から。


 友理奈は確かに誰が見ても美少女だろう。

 それに元気で活発な子だから、学校では男女共に好かれそうな感じでもある。


 それから、何人もの生徒が自己紹介をしていく。

 勝の自己紹介時には女子はほとんど勝の方に熱い視線を向けていた。


 そうして、最後に勇也の順番が回ってくる。


 勇也は席を立つ。


「え、えっと、()() 勇也です。その…、よろしくお願いします」


 完全に他からは、緊張で震えているように見えるが、勿論それも演技である。

 母親が女優だということもあり、演技に興味を持ってやっていた時期もあったため、ほとんどの人は見破れないだろう。


 あと、当たり前だが、名前も変えている。

 変えているのは名字だけだが、流石に下の名前まで変えるといつかボロを出しかねないからだ。


 あと何故か女子達が此方を睨んでいた。

 多分、勝の隣にいることが羨ましいのだろうが、流石に出席番号はどうすることも出来ない


 そこで自己紹介等が終わり、昼休みに入った。


 すると、早々に女子達がこちらにやってくる。


 いや、勇也の隣の勝の方へ集まってきた。


「ねぇ、霧野君ってどんな料理が好きなの?」

「彼女居るの?」

「付き合って!!」


 隣は、まさに質問の嵐。



 勝を囲んでいる女子から時折、此方を睨む視線があり落ち着けない為、後ろから、屋上へと向かった。






「本当、ああいうのって迷惑だな…」


 ここに、中学時代の友達が居たら「お前はそれ以上にヤバかったぞ」と突っ込んでいただろう。実際、昼休みに入ると他校の生徒が校舎内に入り込もうとして大変だったらしい。


 勇也は、持ってきた弁当を取り出す。

 この弁当は、勇也の妹。柚奈ゆずなが作ったもので、実は柚奈は勇也が独り暮らしをすることに反対していた。勇也のことが心配だったらしい。

 別に小学生じゃないから大丈夫と言ったら「そういう意味じゃない!」と怒られてしまい、じゃあ最後にこれを食べてと渡されたのがこの弁当。


「うん。旨いな」


 柚奈は料理も完璧にこなし、最近はフランス料理を習っているらしい。

 勇也は、弁当を一人無言で食べ終わると、スマホを取り出し、あるアプリを開く。


 《ドリーム・ファンタズム・オンライン》


 というアプリゲームだ。


 勇也はこれを、中学2年の時に配信してすぐに始めたゲームで、今でも続けている。


「エルさん居るかな?」


 勇也が『エルさん』と呼んでいるのは、ゲームを開始してすぐに仲良くなったフレンドで、いつも一緒にイベントをしたり、チャットをしたりしている。


 エルさんは、勇也と同じ年のようで、話も合う。

 だから、勇也はエルさんを本当の友達のように感じている。


「あ、今日は居ないな」


 フレンドリストを確認するが、どうやらエルさんはログインしていないようだ。


 勇也は、今日は一人でイベントをやることにした。


「うーん。やっぱりエルさんがいないとなぁ」


 イベントは一人でも出来るのだが、やはりエルさんが居ると居ないでは、効率も大分変わってくる。


 勇也がそんな愚痴を溢しながらプレイしていると


「なにやってるの?」


「うん? ゲームだよ…」


 突然、正面から女子に話し掛けられ、ゲームに集中している勇也は普通に返す。


(って、ん?)


 今更にして、違和感に気づく。

 どうして、こんな誰もいない屋上で声が聞こえるのか、と。


 勇也は恐る恐る、顔を上げる。


 そこには、不思議そうに此方を見詰める友理奈の顔があった。


「う、うわぁぁ!?」


「え、え?」


 突然目の前に顔が現れたことで驚く勇也と、驚かれたことに困惑する友理奈。


「ああ、ごめんなさい。 別に驚かせるつもりは無かったんだけど…」


「いや、こっちこそ、ごめん。それよりいつの間にここに?」


 「さっき普通に屋上の扉から入ってきたよ」と、友理奈は不思議そうに答える。


 どうやら、勇也がゲームに夢中で気付かなかっただけのようだ。


「でもどうして屋上に?」


「え? それは、君を探してたんだよ」


「え?」


 何故か勇也は友理奈に探されていた様だ。


「で、俺に何か用?」


「うん。今朝、名前教えるの忘れてたから教えようと思って」


 はい? この人は何を言っているのだろうか?と、勇也の頭のなかはハテナで埋め尽くされた。


「いや、自己紹介をしたから大丈夫だよ?」


「あ……」


 友理奈は完全に忘れていたようだ。

 多分彼女は少し抜けているのだろう。



 結局、暇なので昼休み終了まで話し、教室に戻った。




 教室に戻ると、授業中も含め、女子からの視線が痛い。

 たまに、殺気を帯びた視線も浴びせられる。


 その原因は、多分勝だ。

 彼の隣が勇也見たいな冴えない陰キャなのが許せないのだろう。

 女子達は皆「自分が隣だったら」と考えていることだろうが、こればかりは、出席番号で決まるため仕方ない。



 そして、放課後。

 やっとあの視線から解放されたことで、勇也は何故かスッキリした気持ちになっていた。


(でも、これがずっと続くのはキツいな………)


 そんなことを思いながら、帰宅していると、後ろから違和感を覚える。


 咄嗟に勇也は振り向くが、そこには誰も居らず、ここら辺には似つかわしくない黒い高級車が止まっているだけ。


(気のせいか? 多分、今日は色々あって疲れてるんだろう)


 そうして、勇也は自宅のアパートへと帰宅した。








「逃げられませんわよ。愛しの王子様…」


 少女は車のなかで、勇也を見詰めながら、そう呟いた。



~~~~~~~~~~


 勇也は、独り暮らしをするにあたって、両親にあるお願いをしていた。

 生活費を自分で働いて貯めたいと。


 勿論、両親は過保護過ぎるため、反対したが、なんとか、自分が自由に使えるお金だけを貯めるということで、アルバイトを許可された。


 多分、あの両親のことだから、普通以上の量の仕送りをしてくる筈なので、そこは最低限のことしか使わず、返金しようと思うが。



 そして、勇也のアルバイト初日。

 学校の生徒にアルバイトをしていることを隠すため、前髪を上げ、眼鏡とマスクを外して働くことにしている。


 勇也は、自分のアルバイト先である、コンビニへと向かった。


「今日から、ここで働くことになりました。水原 勇也です」


 コンビニで、アルバイト用の服へ着替え、従業員の人に挨拶をする。


 このコンビニは、勇也の父親の企業が経営するコンビニで、店長にも、一応事情は伝えてある。


「それじゃ、水原君に誰かレジ打ちを教え──」


 店長が言い終える前に「はい!」と、誰かの手が上がった。


「わ、私が彼に教えます!」


「待ってください、私が教えます!」


「いいえ、私が!」


 女性達が、我も我もと、名乗りを上げる。

 しかし、その反応も当たり前。


 何故なら、彼女たちの目の前には、イケメン以上のイケメンがいるのだから、これを機にお近づきになりたいと思うのは当然である。


「えっと、じゃあ、最初に手を上げた方にお願いします…」


 女性従業員内で争いが起きているなから、勇也がそれに終止符を打つ。


「はい! じゃあ、ちょっと着いてきて!」


 女性は嬉しそうに勇也をレジの方へと案内する。

 後ろからは、「悔しい!」等と、妬みの声が聞こえてくる。


「えっと、じゃあお願いします」


 勇也は、目の前の女性に頭を軽く下げる。


「うん!」


~~~~~~~~~~


 私の目の前には、絶世の美少年がいる。

 透き通った肌に、全てを包み込む優しさを感じさせる目。


 私は、一瞬で恋に落ちた。


 近くの大学に通う私は、友達はいるが、恋人はいない。

 そもそも出会いが無いのだ。

 バイト先のコンビニにも、男は何故かほとんどいない。

 居るとしても、中年おっさんの店長くらいだ。


 しかし、ある時、私に転機が訪れた。


 彼と出会ってしまったのだ。水原 勇也と。


 彼の教育にすぐに名乗り出たが、周りの女達がそれを許さなかった。


 だけど、彼は私を選んでくれた。


「このチャンス。逃すわけにはいかない!」


 勇也の隣で女性従業員は決意を固めるのだった。


「ん? どうかしました?」


「い、いえ。何でもないわ」



~~~~~~~~~~


「ただいま~」


 誰も居ない筈なので声がするはずもない。


「はぁ~疲れたなあ~」


 勇也は、今日の出来事を振り返りながら呟く。


 これからも、ずっとこれが続く。


 だが、本来の目的『本当の愛を見つける』を達成するためにも、頑張らなければならない。





 明日もまた、学校だ。



 これから本当の愛を見つけ、そして



 『幸せになる』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ