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第六一話 早まった儀式

 順調に馬車は進み、リーフ達は予定時刻にエーグ国に着いた。


 「よく。参られた」


 出迎えたのは、国の代表ビダンダだ。

 この国の代表は世襲制ではなく指名制で、何故か数年で代表が変わる事もある。

 ビダンダは、腰に剣を差し代表と言うより剣士の出で立ち。その横には、その妻、リンラが立っている。

 こちらは、赤い髪を結い豪勢な赤いドレスで着飾っている。

 そして、一歩下がった所で控えている灰色の髪の20代男。彼は、魔術師だろう。腰に剣を下げていない。


 「ドルドン。案内を」

 「はっ」


 控えていた男――ドルドンは軽く頭を下げ返事を返す。


 「申し訳ないが、私と同じ建物になります」


 ビダンダは、建物を振り返り髪と同じ藍色の瞳で見つめ言った。

 建物は、切り立った岩山の麓に建てられている。

 国の代表はここに住む事になっており、ラパラル王国とは雲泥の差だ。

 それもそのはず。このエーグ国は、王都グラディナと変わらぬ面積しかない小国なのだ。

 それでもこの国は、繁栄していた。


 「いえ。ありがとうございます」


 ロイがそう言うと、全員でぞろぞろと建物へと入って行く。

 目の前に大きな階段があり、踊り場から左右に分かれている。


 「こちらになります」


 ドルドンは、リーフ達の前を歩き三階の奥の大部屋へと案内する。


 「申し訳ありませんが、一室になります」

 「せめて、女性は別になりませんか?」


 ドルドンにロイが言うと、聞いてまいりますとその場を去っていった。

 四人は部屋に入って待つことにする。

 部屋は、窓が一つにテーブルが一つ。イスが四つ。ベットが四つ。

 一応、カーテンでベットと区切れるようにはなっていた。


 「来賓用のお部屋はないのでしょうか」


 辺りを見渡して、驚いてアージェが言う。


 「ないんだろうな」


 ロイは、答えながら椅子に腰を下ろし足を組む。


 「じゃ、お客が来ないと言う事なんでしょうか? まあ、俺もこの国に来たのは初めてですが……」


 テッドは、仕事でこの国の上を飛ぶ事があっても、下りた事は一度もなかった。


 「観光名所もないし、馬車が通過するぐらいだろう。隣が我が国だからな。どうせなら温泉宿に泊まるのではないか?」

 「そうですね」


 リーフは、三人の会話に混ざる気になれなかった。もし、四人でここに泊まるとなると、皆の前で着替えなくてはならなくなる。

 ロイはリーフが女性だと知っているが、本当に結婚しようと思っているならそのまま暴露されるかもしれない。


 (そうなったらアージェさん、怒るだろうな……)


 リーフは、アージェに嫌われたくないと思っていた。

 言い方はきついが、相手の事を思って言っている。女性に対しては、違うが……。


 はぁ。

 リーフは、窓辺に行って外を覗く。もう夕暮れだ。


 (うん? これって……)


 建物自体に施された結界。

 リーフは、窓に触れてそれに気が付いた。

 これには、高度な結界のスキルが必要だ。

 結界に穴を開ける事ができても、リーフにはこの結界は張れない。それを魔術師の国ではないこの場所にあるのだ。


 「ロイ王子! この建物……」

 「うん? どうした?」


 ロイは、リーフの立つ場所へ向かう。アージェもテッドもその後ろをついて行く。


 「これは……」


 ペタッと壁に手を付けてロイは呟く。


 「テッド。壁に触れてみろ」

 「はい……」


 テッドもペタッと壁に触る。


 「どうだ?」

 「えっと……」

 「わからないか……。リーファー、教えてやれ」

 「え? 僕? えっと、この建物自体に結界が施されています。鍵を掛けられれば、魔術師でもこの部屋から出るのは難しいと思います」

 「え? ちょっと待てよ。リーフには、結界が張ってあるのがわかるのか?」

 「何を言っている。発見したのは、リーファーだろう」


 驚いて言うテッドに、ロイが返す。

 アージェも驚いていた。

 やはり、魔術は長けている。ただし、自分を守る術として。


 「閉じ込められたという事でしょうか?」

 「いや。ここまでする意味がない。それより、これを施せる魔術師がこの国にいるのが驚きだ。ここまで出来れば、魔術師団に勧誘しているからな」

 「さっきのドルドンって男でしょうか?」

 「かもな。隣国が魔術師の国なのだからここで働こうと思う者も少ないだろう。この国の出身なのかもしれないな。だったら別に魔術師証を取得せずとも働けるのだから」


 テッドが言ったドルドンという人物以外まだ、魔術師らしき人物は目にしていない。

 そして、ロイの言う通り、元から魔術師としてこの国で働くのなら証明となる魔術師証を取得せずともよい。

 また、他国でも魔術師証を発行している国は多々ある。だが、隣国で取得出来るというのに、遠くの国まで取りにはいかないだろう。取得していないと見た方が自然だ。


 「この国も謎が多いからな。ドラゴンの件ですら噂でしかなく、今回は了承を得られて驚いている」

 「もしかして、何かが起こるとわかっているから私達に対処させようとしているとかはありませんか?」

 「なくはないが、私が狙われない限り、積極的に対処しようとしないと相手もわかっているだろう。目的があったとしても見当がつかない」

 「ドラゴンか……」


 アージェとロイの対話を聞いて、テッドがポツリと言った。

 テッドには、このエーグ国にお呼ばれしたとしか伝えていない。やっと何の催しなのか、テッドはわかったのだ。


 トントントン。

 ノックの音で、全員扉に振り向く。

 アージェが、扉を開けた。立っていたのは、ドルドン。


 「確認をしたところ、すぐに儀式を致しますという事です」

 「いや、私は部屋を別にと……」

 「はい。ですので、儀式を終わらせるという事です」

 「………」


 つまりは、儀式が終わればここにいる必要がないだから気に入らないなら出て行けという事だ。


 「マジか……」

 「凄い扱いですね」


 テッドもアージェも驚いて呟いた。

 リーフは、ホッと安堵する。もしかしたらこのまま帰れるかもしれないからだ。こんな扱いを受ければ、儀式が終われば帰るだろう。


 歩き出したドルドンに、四人はついて行く。彼は、更に一つ上の階の四階へと進む。そして建物の中央で、崖に面した部屋の大きな扉を開けた。

 そこは、部屋というよりただのスペースだ。家具は一切ない。

 そこに、ビダンダとリンラ。それに、三人の女性が立っていた。


 女性達は、皆同じ黒い衣装を着ている。儀式の衣装なのかもしれない。だが、彼女達は、どう見ても20代に見える。


 「もしかして、彼女達が儀式をする者達ですか?」

 「そうだが」

 「どう見ても15歳以上に見えるのですが……」

 「もちろん15歳以上だ。儀式は、15歳以上の女性が行うからな」

 「話が違う! 15歳以下という話だった!」


 ビダンダの言葉に驚いて、ロイは強めに返してしまう。


 「おや? 連絡ミスですな。で、そちらの婚約者はおいくつで?」

 「15歳だが……」

 「それはよかった」


 何がよかっただとロイは思うも口には出さない。

 ビダンダは、最初から儀式に参加させる気などなかったのだろう。言い間違った事にする為、15歳以上を15歳以下と伝えた。

 幸いにリーフが、15歳だっただけなのだ。

 儀式を早めた理由はここにあった。ここで、15歳未満ならお引き取り下さいと返すつもりだったのだろう。


 「では、そちらで、衣装にお着替え下さい」


 ビダンダがそう言うと、リーフの前に女性達が来て引っ張っていく。


 「え! ちょっと……」

 「やばくないか?」


 ボソッと、テッドが呟いた。

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