第五九話 ロイの告白
「お待ちしておりました」
ずらっと並んだ従業員とテオボルドさんが、地面に降り立ったリーフ達に、いや正確にはロイに頭を下げた。
今日の朝に王都を出て、ビュドー村に着いたのが太陽が沈む頃。
頭を上げたテオボルドが、ジッとリーフを見つめる。
今、リーフは、一応ウィッグを被り女性に変装? していた。空を飛ぶ為、スカートは履いてはいないが、上質で女性っぽい服装だ。
「婚約者とお聞きしましたので、ご一緒のお部屋をご用意致しましたが宜しいですか?」
「かまわん」
「え!?」
リーフは、驚いて小さく声を上げるも頷いた。声は聞こえなかったらしい。
二人の後ろにいたアージェは、顔には出さないが驚いていた。そして、アージェの横に護衛として一緒に来た人物、テッドは目の前の少女がリーフだとは知らない。
「テオボルドさん、またお世話になります」
「アージェさん。いえ、本当になんとお礼を言っていいのやら。では殿下、こちらです」
テオボルド自らロイを案内する。彼には、お忍びでロイが泊まると言ってある。なので、本来の目的は知らない。
テッドには、隣国に招待されてお忍びで伺うとだけ伝えてあった。
「こちらになります」
部屋は、一番広い部屋なのだろう。奥に一部屋あるようだ。
「奥の部屋寝室になっております。そちらは露天風呂です。いつもは、温泉の湯なのですが、今日は普通の湯です。お許し下さい」
「いや。その件もこちらの責任。きちんと、対処させる。しばし待ってほしい」
「ありがとうございます」
「では、お荷物はこちらで宜しいですか?」
アージェが持っていたトランクをリーフの側に置く。
リーフの荷物をアージェが運んでいた。一応、婚約者という事になっている為だ。中には、あのドレスが入っている。
「えっと。ありがとうございます……」
「変なヘマしないで下さいね」
ぼそっと、アージェに耳打ちされた。
「では、失礼します。アージェさん達は、こちらです」
アージェ達は、軽く会釈すると二人を残し出て行った。
ロイは、スタスタとソファーに行くと腰を下ろす。
「疲れたな。君は大丈夫か?」
「あ、はい……。僕だって、バレてないですか?」
テオボルドにジッと見つめられたリーフは不安になっていた。彼にバレタからと言って、作戦に支障がでるわけではないが心配になったのだ。
「同一人物だと思ったところで、口には出さないだろう。わざわざ変装して来ているのだからな。女性だったのかぐらいだろう」
「あの……女性に見えてますか?」
「面白い質問をするな。元々女性なのだろう?」
「そうですけど……」
リーフにしてみれば、二年間男として生活してばれなかったのだ。髪を伸ばしたぐらいで女性に見えるのだろうかと、不安になった。
「その大きな胸に長い髪。そして、私の婚約者。女に見えなくて何に見えると言うのだ。ところで君は、座らないのか?」
「え? 座っていいんですか?」
「当たり前だ。ずっとそこに突っ立っているつもりか?」
リーフは、まさか同じ部屋になるとは思ってもみなかったので、どうしていいかわからず突っ立っていた。
ロイが、隣に座れとジェスチャーするので、リーフは恐る恐る隣に座った。
「君は、好きな人がいるのか?」
「え? 好きな人?」
「恋をしている相手だ」
「え!? い、いませんけど」
驚くもリーフが素直に答えるも、ロイはニヤニヤとしている。
「本当に? アージェは? 彼の側にいて何もときめかないのか?」
「……えっと。特段……」
「君は本当に女か?」
「え!?」
さっきは、女性に見えると言ったのにと思うリーフだが、フッとロイが真顔になった。
「だったら。このまま、私の妻にならないか?」
「……え!?」
「本気で言っている。いい案だと思わないか? 君が女性になったとして、私の妻なら同一人物だとは思うわないだろう」
(本気なんだろうか? って、何で僕?)
リーフは、思考が停止した。
本気だとしたら逃げられない!
「あの……何故、僕なのでしょうか? えっと、一応犯罪者なのでは……」
「僕ではなく、私だろう? 魔術師証の件なら問題ない。元々君の紹介状だったのだからな。問題なのは、それによって色々と我々の秘密が露呈するかもしれないって事だ」
「あの、えっと……。どうして、ボク……私なんでしょうか?」
「好きか嫌いかで言えば好きだ。だが、それが恋愛感情かというと、ノーだ。君は、魔術師で召喚師。そして、私でも出来ない召喚が出来る。これからは、召喚師をオープンにする予定だ。なのに、父上も私も成功した事が無い」
「え!」
ロイは、15歳になった時、召喚を試みてはいるが成功はしなかった。知識としては色々持ってはいるが、今回初めて召喚も魔獣も目にしたのだ。
アージェは、成功した聞いていた。なので、ロイ達も一目置いていた。
そして、託された魔法陣を消滅させる為に選ばれた召喚師のリーフ。しかも、自分でも呼び出したのだ。
ロイ達にすれば、優秀な召喚師。
魔術師としても申し分ない。
浮遊は、自分自身にならそこら辺の魔術師より優秀だ。他の者に掛ける浮遊は、練習すればすぐに見に着くだろう。
この国に必要な水魔法にも長けている。
妻に迎えるには、申し分ない。
そして何より、この国の秘密を知っている。
一から説明しなくてもよいし、結婚すれば余計な心配もない。
「成功した事ないって……」
「あぁ。私が知っている成功者は三人だ」
三人とは、言うまでもなくリーフ、アージェ、フランクだ。
「考えてほしい」
「あの、でも……」
「すぐにでなくてもいいが、今頷くならすぐにでも父上に相談する」
ロイの独断だった。
「あの! やっぱり僕、違う部屋に泊まります!」
リーフはガバッと立ち上がると、トランクをガシッと持ち慌てて部屋を出て行く。それをロイは、止めずに眺めていた。
「意識をさせるのは、成功したようだな」
ロイは、ボソッと呟いた。




