第五七話 リーファーに戻る条件
「大丈夫か?」
「うん。ごめん。何か安心して……」
「そっか。心配かけた。その……今、あの人のところで厄介になってるのか?」
リーフは、うんと頷く。
シリルは、研究室の扉に目線を移す。
「ばあちゃんは?」
「……先日、亡くなった」
俯いて答えたリーフを優しくシリルは抱きしめた。
「一つ聞いていいか? ここで二人で暮らしてるのか?」
「実は……僕……」
「ぼく?」
チラッとリーフは、扉を見てから声を小さくして話す。
「……ばあちゃんに言われて男としてこの二年間過ごしていて、ばあちゃんが亡くなって魔術師証を取る時に男として取得したんだ。だから、アージェさんは、僕を男だと思っていて……」
「うん? 言ってる意味がわからない。だって、リーファーだとわかってるんだよな?」
うんと頷き、リーフは魔術師証を見せる。それを受け取ったシリルは、驚いて見つめた。
「マジで男って……」
「オルソさんは、経緯も知っていて僕が女だと知ってる。アージェさんは、それが男性になってるから、本当は男だったんだって思っているみたい。だから心配はいらないよ」
「いやでも、万が一、女だとばれたら……」
「ばれたら追い出されるだけだよ。アージェさん、筋金入りの女嫌いみたいなんだ」
「は? あの容姿で?」
シリルは、今の現状に頭がついて行かない。
リーフが男としてアージェと暮らしている。そして、アージェは女嫌い。
どんどんどん!
扉がノックされたと思ったら突然、玄関の扉が開いた。
「アージェ! シリルは居るか!」
「あ、オルソさん……」
「………」
中に入って来たのは、オルソとダミアンだ。
シリルを見ると、二人は安堵した顔をする。
「どうしました?」
研究室からアージェが出て来る。
「置手紙を残しておいただろ」
「勝手な外出はダメだと言っただろう」
「リーファーに会いに来ただけだ。言っても会わせてもらえないから……」
「やっぱり許可なく来たのですね」
「僕は、大丈夫だから、ね」
シリルは、不安そうにリーフを見る。
「リー……ファーの事は、私が責任を持って面倒をみます。だから抜け出す様な事はしないでください。リーファーの為にも」
「わかった。必ず、迎えに来るから」
アージェに言われて、シリルは悔しそうに言った。
「あ、そうでした! ちょうど分析が終わってお尋ねしようと思っていたのです」
アージェは、ダミアンを見てそう言うと、研究室の中に戻る。そして、結果を持って来て、ダミアンに手渡した。
「続けて研究をします」
「すまないな。宜しく頼む」
「はい」
研究とは、解毒作りだ。
◇ ◇ ◇
「リーフに、女性になっていただく」
アージェが解毒剤づくりを開始して一週間後。出来上がった解毒剤を持ってリーフとアージェの二人は、ダミアンの研究室に訪れていた。
研究室の隣の休憩室に来ていた王子のロイに、三人は話があると呼ばれロイの一言に皆驚いていた。
「あの……殿下? それは……」
ダミアンが、リーフがリーファーに、男から女に戻って生活していいという事かと聞こうとすると、スッと手を出しそれを止めた。
「まず、話を聞いてほしい」
ロイがそう言うと、三人は頷くもリーフは、気が気でなかった。
「アージェの報告で、私の方でも色々と調べてみた。隣国、エーグの噂を聞いた事があるか?」
「もしかして、ドラゴンが居るとかいないとかという噂の事でしょうか?」
「ドラゴン!?」
ロイの問いにダミアンが答えると、アージェが驚きの声を上げる。
だが、リーフはドラゴンが何かを知らなかった。
「あの……ドラゴンって?」
「知らないのですか? 確か、大きな空飛ぶトカゲの様な生き物です」
アージェの回答に、リーフは首を傾げる。さっぱりわからなかった。
「しかし、実在するとは言われていますが、それが隣国にいるのでしょうか?」
「それを調べに行く」
今度はダミアンの問いにロイが答えるも、三人はまた驚いた。
「私が聞いた話では、そのドラゴンとやらは犬ほどの大きさらしい。しかも見られるのが一年に二度だけ。少女が出迎える事になっている」
「出迎える? では、そこに住んでいるわけではないと?」
「いや。そのドラゴンは、一年に二度だけ人の姿に変わるらしい。まあ儀式みたいのがあるらしい。でだ、その儀式にリーフが参加してほしい」
「え!? 僕が!?」
いきなり話を振られたリーフは、声が裏返った。
しかも、全く温泉の件とは関係なさそうだ。
(何故僕が、そんな事をしなくちゃいけないんだ)
「お、お待ちください。もしバレたら……」
「バレる? 問題ないだろう?」
男だとばれたらとダミアンが言うも、本来は女性なのだから問題ないとロイは返す。ダミアンもそうだったと、何も返せない。
「ロイ王子。全然話が見えないのですが? 何故その様な儀式に女装をさせてリーフを参加させるのですか?」
アージェの問いに、もっともだとロイは頷く。
「アージェ、君が発見した草の名は、ドラゴン草というものだった。ドラゴンを飼育する草だ。儀式は三日間後。今回、その儀式で何か起こる様な気がしないか?」
「だとしてもリーフを参加させずとも……」
ダミアンの言葉にロイは、首を軽く横に振る。
「いや、向こうの条件なのだ。見学をしたいと申し出たら一人儀式の娘を連れて行くという事で許可をもらった」
「まさかと思いますが、相手に今回の件をお話になったのですか?」
「襲われた事は言ってはいない。だが、温泉の事については語った。その為に、そちらの領域に入らせていただき、ドラゴン草を発見したと報告をした。そのついでに、儀式の参加を申し出た」
つまり何者かがその儀式で何か起こす気かもしれないと、情報を渡した。見返りは、その儀式の参加。
隣国エーグは、ロイが報告した事が真実だと知り、条件付きで許可したのだ。
「その条件が厳しくてな。まあ15歳までの女性で、信用における者。勿論、魔術師証取得者という条件がついている。ので、リーファーとして作成した」
驚く事を言って、魔術師証をロイはリーフに手渡す。リーフは、ジッとその魔術師証を食い入る様に見つめる。
「一応、私の妻の候補だと言っておいた。断れないだろう?」
「何を言っております! 陛下はご存知なのですか!?」
「お待ちください! リーフは、まともに飛ぶ事すら出来ません! そんな嘘はすぐにばれます!」
リーフだけ、何も言えなかった。あまりにも言われた事が衝撃的だったからだ。
もし万が一、リーファーに戻れたとしてもロイの婚約者としてかもしれないからだった。




