第五六話 発見された毒草
パタン。
アージェがため息をついていると、テッドが戻って来た。
「戻って来たのですか?」
「そんな嫌そうな顔するなって」
テッドは、アージェ向かい側に腰を下ろす。あぐらをかき、右ひじをテーブルにつけて、頬杖でアージェをジッと見つめる。
「何です?」
「まだ吹っ切れないわけ?」
「ほっといてください」
「もう何年経つと思ってるんだよ。別に女じゃないんだし……」
「………」
「俺の初体験の話してやろうか?」
「いりません! もう、何なのです!」
がばっとアージェは、立ち上がった。
「お前もきっかけが欲しいんじゃないかなって」
「それはどうも。私も前に進む気にはなってますが、あなたが口を出す問題でもありません」
「そう? 何か協力出来る事があったら言えよな。協力するから」
「そうですか。では、お願いがあります。女性は連れ込まないで下さい! おやすみなさい」
「………」
アージェは、そう言うと布団に入って行く。
テッドは、大きなため息をついたのだった。
◇ ◇ ◇
「なあ、マジで行くわけ?」
「嫌ならそこで待っていればいいでしょう」
「お前なぁ。どうやって一人で行く気だよ!」
「山道を歩きます」
アージェの答えに、テッドはワザとらしくため息をつく。
二人は、温泉が滝の様に出ている裏側に行こうとしていた。そこは、隣国の領土。何かするわけではなければ、踏み入っても特段問題はない。
ただ、アージェ達を襲った者が、隣国の者なら鉢合わせする可能性があった。
山の裏側に回ると、アージェ達は洞窟を発見する。
「ちょうど真裏ぐらいですね。行ってみましょう」
「あぁ」
二人は洞窟に降り立つと、二人を熱風が出迎えた。
水分を含んだ熱。まるで、湯気の様だ。
「あつ! なんだここ」
「し! 誰かいたらどうするのです」
「あ、悪い……」
そう言いつつテッドは、手に明かりを灯す。
「どうせいたとしても、さっきので隠れただろう?」
睨み付けるアージェに、テッドは言い訳した。
明かりで照らされた洞窟の中は、濡れていて光にキラキラと反射している。
「いきましょう」
カツンカツンと二人の足音が、洞窟の中でこだまする。
奥に行くほど、熱で熱く視界が悪くなっていく。
「止まって!」
アージェがテッドを止めると屈んだ。
「やっぱり。ここから水、いえ湯ですね。まあここら辺はくるぶしぐらいの深さですけど」
「もしかして、源泉? って、ここに湧いていたのか!?」
テッドが更に奥を照らすと、湯がふつふつとまるで煮えている様になっている場所が数か所あった。
耳を澄ませば、ザーっという音も聞こえる。
「どうやらここに湧いた湯が、あの場所で滝の様に出ていたのですね。だったらここに原因があるかもしれません。あなたは湯に触れないように」
「わかった」
テッドは頷く。
リーフが、この湯に浸かった事を聞かされていた。
アージェは、湯の中に足を踏み入れる。そして、足元を確かめながら奥へと進む。
「これかもしれません!」
暫くすると、アージェが叫ぶ。
立ち上がったアージェの手には、何やら握られていた。
「草?」
「これが奥に生えてます。もしかしたら栽培していたのかもしれません」
「まじかよ」
「これを持って帰りましょう。もしかしたら解毒剤を作れるかもしれません」
「もし栽培していたとなると、アージェ達を襲った連中だろうな」
「そうですね。まず、魔術師でないと来るのは困難ですからね」
二人は速やかに、この場を離れ王都に向かった。
そして、その日の夜に二人は王都につく。テッドは、へとへとになり、もうアージェと組むのは勘弁と内心思うだった。
◇ ◇ ◇
次の日、成分を分析した結果、この草が原因だと判明する。
万が一を考え、騎士であるアージェがそのまま、分析を担当した。
「片づけが終わったら私は報告をしに行って来ます。誰も来ないとは思いますが、お留守番をお願いし……」
トントントン。
アージェが、リーフに説明していると、誰かが訪ねて来た。アージェが、扉を開けるとシリルが立っている!
「シリル! あなたどうしたのです?」
「あ、アージェさんですか? ご無沙汰しております。リーファーいますか? ここに居ると聞いて来たのですが……」
「え? シリル!?」
「リーファー!」
リーフの声を聞いて、シリルは勝手に中に入って行く。
「ちょ……」
「よかった! 目を覚まし……わぁ」
リーフは、シリルにギュッと抱きしめられた。
「よかった。ごめんな。俺……」
「痛いよ。シリル」
「シリル。あなた、伝えて出て来たのでしょうね?」
再開して抱擁している二人に水を差す様に、アージェが聞く。
それに、シリルは勿論と頷いた。
スッと、リーフをシリルは離す。
「ちゃんと伝えたよ」
「そう、ですか。私は片づけがありますのでこちらの部屋に居ますね」
「あ、はい」
アージェは、そう断ると研究室に入って行った。
「ごめん。俺、あの魔術師と戦った後からの記憶が無くて……。髪、切っちゃったんだな」
そう言いつつシリルは、リーフの髪に触れる。
(やっぱり記憶ないんだ……)
「うん。色々あってね……」
リーフは、シリルが目覚まし、嬉しさで目に涙を浮かべてシリルを見つめていた。




