第五四話 天の助け
目の前の道以外は、森という長閑な風景。空を見上げれば、晴天。ピクニックなら最高な日だ。
アージェは、こういう時に魔術が使えたらと思うのだった。
「どうしたらいいのでしょう」
アージェがリーフを背負ってビュドー村に行くにしても、どっちの方向に行っていいかわからない。なので、下手に動かない方がいいだろう。
すぐに夜になる時間帯でなくてよかったと、アージェはそれだけは救いだった。暗くなればここなら何も見えないだろう。
「どうしました?」
考え込むアージェの耳に声が届く。
馬車すら見えなかったので、声の主は空からしかあり得ない。反射的にアージェは、顔を上げた。
男が一人浮かんでいた。
魔術師団が支給している深緑の服を着た青年。色黒でアージェより少し濃い深緑の髪。
「テッド!?」
「はぁ!? アージェ? 何でお前がこんな所にいるんだ?」
テッドは、驚いた様子でアージェの前に降り立つ。
騎士であるアージェが、ここにいるのに驚いていた。
「助かりました」
アージェは、安堵を浮かべる。
「で、その子は? 怪我したのか?」
「いえ。魔力切れです」
「……ぶっ倒れる様な事したのか? ここで? 何させたんだよ」
「ちょっと色々事情がありまして」
「うん? まさか、駆け落ち!?」
「そんなわけないでしょう!!」
「だいよなぁ。お前に限ってあり得ないよな……」
「リーフは、男です! ふざけた事を言わないで下さい! 彼は、魔力を回復出来ない状態で無理をしたんです!」
「………」
それを聞きテッドは、しかめっ面をする。
「まさかと思うけど、そういう状態で王都から連れて来たのか?」
「……まあ、そうなりますね」
「そりゃぶっ倒れるだろうよ」
はぁっとため息をしつつ、テッドは言った。
「お願いがあります。王都まで連れて行ってほしいのです! 急を要します!」
「魔力切れなら……」
「そうではなく、すぐに戻る案件が出来たのです!」
「はあ……。まあ、いいけど。その子、本当に男?」
「……男ですよ」
「まあ、お前が女と来るわけないか」
それにアージェは、力強く頷いた。そして、リーフを抱き上げる。
二人は、フワッと浮きあがった。そして、王都に向けて飛ぶ。
「テッド。どれくらいで王都に着けますか?」
「どんなに急いでも八時間。おたくらがいるから休憩入れないと、俺もばてる」
「……ですよね」
「手だるくなるようなら、どっかで交代するか?」
テッドは、リーフを見て言った。
リーフと一緒に浮遊の術を掛けている。ある程度軽いが、手はだるくなるだろう。
だが、アージェが確認をしたのは、一般的な移動時間を知りたかったからだ。
アージェが遠出したのは、今回が初めてだった。しかも国の一番端だ。宿主のテオボルドに聞いてはいたが、リーフがあまりにも早くついたので確認をした。
仕事で飛び回っている魔術師団の者でも八時間はかかる。
リーフが、それだけ凄かったと実感したのだ。
「一時間もすれば目を覚ますでしょう。そうしたら、リーフにも浮遊の術をお願いします」
「わかった」
◇ ◇ ◇
「目が覚めましたか? 体調はいかがです?」
リーフが目を覚ますと、アージェが覗き込んで来た。そして、見知らぬ男の顔もありリーフは固まった。
「あ、彼は私の知り合いです」
「いや、そこ友人で紹介しないか? 俺はテッド宜しくな」
「私は、あなたと友人になった覚えはありませんよ? あなたと同類に見られるなんて、不本意ですからね!」
「お前な……。助けてやったのにその言い方はないだろう!」
「それとこれとは別です。私も女にだらしないと、思われたくありませんからね!」
(あ、そういう事か……)
相手が男なのに、つっかると思ったら女好きな人なんだとリーフは納得した。
「ったく。まだ引きずってるのかよ」
「申し訳ありませんが、先を急ぐので。起きられそうですか?」
「あ、はい。大丈夫です。飛べます」
リーフは、少しふらっとしながらも起き上がる。
「いや、魔力切れなんだろう? 俺が浮遊かけてやるよ」
「え!? 魔力切れ?」
「お前、魔術師なのに自分で気づいてないのか?」
「えっと……」
「彼にはちょっと事情がありまして……。兎に角時間が勿体ないので、話しながら行きましょう」
「本当、お前って容赦ないよな。OK」
呆れながらテッドは、二人に浮遊を掛ける。
リーフは、驚いて近くにいたアージェに掴まった。
「まさかと思いますが……」
「ごめんなさい! かけてもらって飛んだ事ないんです」
「はぁ?」
アージェはやっぱりと言う顔つきだが、テッドは驚いていた。本当に魔術師なのかと。
結局リーフとアージェは手を繋ぎ飛んでいた。
「アージェにしては、随分と優しいじゃないか?」
「あなたに近づけさせたくないだけです!」
「あっそ」
「ご、ごめんなさい……」
リーフは、迷惑を掛けてしまったと謝るも、本当のところアージェは、自分の失態だと思っていた。
しかし、襲われる事態は予想外の事だった。
「で? その子は、アージェとどういう関係?」
「リーフは、私の所で雇っています」
「え!? よくアージェの元に来たもんだ……」
ボソッとテッドは呟く。
(もしかして、アージェさんって女性だけじゃなく男性の間でも有名なのかな?)
テッドの言い方だと、男たちはアージェに近寄らないと聞こえる。
三人は、休憩を挟みつつ、夜に王都に着いた。
普段なら王都に入れば馬車を利用するが、アージェが急用だと言うので魔術師団の館まで飛び、四階のベランダに下りた。
「ありがとうございます」
「いや別についでだし」
アージェは礼を言うと、室内に続く扉をノックする。
出入りできる扉は、休憩室と繋がっている。
「休憩室には、誰も居ませんか……」
明かりがついているので、いると思いノックしたが返事が返ってこなかった。
アージェが、隣の研究室の窓の方に移動しようとすると、ガラッと扉が開いた!
「アージェか……」
「ロイ王子!? 申し訳ありません。王子だとは思わず……」
「かまないが。取りあえず中に入れ」
「はい。失礼します」
ロイに言われ、アージェ、リーフ、そしてテッドの三人は、休憩室に入った。
「ダミアン! アージェが戻って来た」
ロイが、研究室にいるダミアンに叫んだ。




