第五三話 アージェの失念
タタタっと、二人が走る足音が森の中に響き渡る。
風もなく穏やかなため、鳥の鳴き声ぐらいしか聞こえない。
「アージェさん、一体何が?」
「わかりません。ですが、攻撃を受けました!」
二人はもういいだろうと、走るのをやめ後ろを振り返り確認する。人影はない。いや、あの位置なら走って追って来るのは不可能だ。
「温泉に何か関係があるかもしれませんね」
「じゃ、あの人達が毒を混ぜた?!」
「どうなので……ッツ!」
驚く事にシュッと矢が飛んできて、アージェの右腕をかすめた!
「アージェさん!」
「大丈夫です! それより木の陰に!」
アージェに言われ、大きな木を背に座り込む。
「大丈夫ですか? 手を見せて下さい。治癒します」
「すみません……。しかし、どういう事でしょう?」
リーフは、アージェの傷の上を両手をスライドさせる。
「どうですか?」
「ありがとう。傷は癒えたみたいです」
リーフは、安堵する。
「たぶんですけど、感知系の魔法を持っているのかもしれません。でなければ、うわぁ!!」
シュ!
また、矢が飛んできた!
当たりはしなかったが、確実に居場所がばれている!
「魔術師なのに、矢を使っているのですか?!」
アージェは、驚きの声を上げた。彼の感覚だとあり得なかった。魔法の方が確実だからだ。
「相手は複数でしたよね? 僕には二人いる様にみえました。もしかしたらだけど、一人が魔術師で、その人が居場所を教えているのんじゃないかな?」
「だとしたら、ここも安全ではないですね。森を下りましょう!」
アージェは、立ち上がった。
飛んで村に向かった方が早い。だが、仲間から位置を聞いて撃ってこの正確さなら、自分の目で見て狙えば、リーフ達がその攻撃をどけなければ当たるだろう。
リーフに、それが出来るとは思えない。それならば、森を抜けた方が安全だ。
「え……!?」
アージェは、ふらついた。そして、両手を地面についた。
「どうしたの? 大丈夫ですか?」
「どうやらあの矢には、痺れ薬か何か塗ってあったようです……」
「えぇ!!」
シュ!!
また矢が飛んできた!
アージェのマントをかすめた!
「それって、どれぐらいで効力なくなるのでしょうか?」
「わかりませんが、普通は一時的なので一時間ぐらいでしょう」
「だったらここで隠れて……」
「何を言ってます! 相手には魔術師がいる可能性があるのですよ? ここに飛んでやって来る可能性があります! あなただけでも逃げなさい!」
リーフは、アージェの言葉に驚いた。
置いて行かれたアージェは、殺されるだろう。
「できません。そんな事! 大丈夫です。今、結界を張りましたから!」
「結界?」
「はい。感知されない結界です」
「あなた、そんな事も出来るのですか? 普通、それは学ばないと出来ないでしょう?」
「……うん。まあ……おばあちゃんに習いました」
習った時は、何に使うのだろうと思っていた。
これは、対エミールの為に、教えてくれたのだろう。
「そうですか。なるほど……。でも、流石に移動しないと……」
シュ!
矢が降って来た!!
乱れ撃ちだった。ある程度予測して撃っているのだろう。道に降り注いでいた!
「これって。相手は森の中を熟知しているのでは……」
「……道を通って行ったら撃たれちゃいますね……」
(一時間をここで待つよりも一時間後、村に下りていた方がいいよね?)
「アージェさん。後ろから失礼します!」
「え? 何です!?」
「これから直線的に村に向かいます! 舌を噛まないようにして下さいね!」
リーフは、後ろからアージェにガバッと抱き着いた。そして、フワッと浮くと、言った通り道を無視し直線的にあり得ないスピードで飛び始めた!
「ちょ……」
アージェでも恐怖するぐらいのスピードで、木の間を縫って行く。
これは、こういう訓練をしていなければ、出来ない事だ。
「すみません。僕も二人ではこうやって飛んだ事がないので。後、結界も張ったままです。だから見つかってないと思うので、逃げ切れると思います!」
「………」
チェチーリアは、こんな事も教えていたのかとアージェは驚いた。
一般的な魔術師が飛ぶスピードとほぼ変わりなく飛んでいた。これなら、障害物が無ければ、あのスピードで飛べるはずだと感心したのだった。
◇ ◇ ◇
一時間後、目の前に明かりが見えた。森の端、村だ!
そう思って、リーフは森を抜けた。だが、何故か建物は見当たらない。
リーフは、アージェを道端に降ろした。
「あれ? ここどこだろう?」
「どこだろうって……。あなた、もしかしてかなりの方向音痴なのではないですか?」
「……どうなんだろう?」
何せ、村から出るのは、森で飛ぶ練習する時ぐらいだった。
迷ったらちょっと浮いて、村の位置を確認していのだ。
「はあ、疲れた。そうだ、アージェさん体調どうですか?」
そう聞きながらリーフは、座り込む。
アージェは、逆に立ち上がった。
「大丈夫そうです。手にも足にも力が入ります」
アージェは、ギュッと手を握ったり、足を地面にトントンして答えた。
しかし逆にリーフの方は、疲労困憊していた。
確かに、結界を張り一時間飛んだ。だが、昨日に比べればそんなんでもない。
(おかしい。何で、こんなに披露しているんだろう?)
当たりは、真っ直ぐある道以外何もない。道の向こう側も森だった!!
「たぶん、普通に飛んでももう見つかる事はないと思いますので、飛んで村に帰りましょう」
当たりを見渡して、アージェは目線をリーフに向けた。
リーフは、倒れ込んでいた!!
「リーフ!」
驚いてアージェは、膝を付きリーフ抱き起す。
「おかしいです。体がだるくて……なんか、疲れちゃったみたい。ごめんなさい……」
「え? それって魔力が……」
アージェは、ハッとする。ある事を思い出したのだ。
手を温泉の湯につけただけで、回復力が半減した。それを考えれば、未だに回復力が落ちていたとしたら?
昨日ぶっ通しで飛んだ。それが回復出来ずに、先ほど結界をはりながら飛んだ。魔力が枯渇したのかもしれない。
「失念でした……。どうしたら……」
魔力が回復出来ず倒れたのなら、目を覚ましたとしても飛ぶ事は出来ない。
気を失ったリーフを腕に抱き、アージェは途方にくれたのだった――。




