第五二話 乗りかかった船
トントントン。
その日の夜、事務所で待っているとダミアンが約束通り尋ねて来た。
「お待ちしておりました。ありがとうございます。……え? ロイ王子?」
「夜分すまない」
「いえ……」
アージェは、驚いていた。
普通ならアージェが呼ばれる方だからだ。
「あれ? 王子も……」
リーフも、ダミアンと一緒に入って来たロイを見て驚いた。そして、自分の処遇が決まったのではないかと身構える。
「大丈夫だ。温泉の湯の事で来ただけだ」
それを察したダミアンが、リーフにボソッと耳打ちをした。リーフは、安堵する。ここには、事情を知らないアージェがいるからだ。
ロイとダミアンが並んで座り、向かい側にアージェとリーフが座る。
「さて、温泉の件だが、こちらも人手がない。そこで、継続して調査をアージェにお願いしたい」
ロイの言葉に、アージェは頷いた。
相手はロイだ。断れるはずもない。それに、乗りかかった船だ。
「でだ、早速現地に行って調べてほしい。原因が、人為的なものなのか、それとも何かが作用しているのか、原因を突き止めてほしい。温泉の調査で王都を出るのは、許可する。これが許可証だ」
まだ法律が改正されていない。その日の内に戻れない場合は、許可がいる。
一応、リーフの分があった。
「では明日、向かいます」
「宜しく頼む」
話は決まり、ダミアンとロイは戻って行った。
「まさか直々にお越しになるとは……」
アージェは、呟いた。
ロイは、魔術師団副団長であり、研究チームを指揮する立場でもあった。なのでロイは、魔術師団の中にある研究室に来る事もある。
「リーフ。明日は、テオボルドさんを連れてビュドー村に行きますからね。心しておいて下さい」
「え? それって、僕と手を繋いで飛ぶって事ですか?」
「そうです! 出来ますね?」
「手を繋いでいれば……。でも、遠いんですよね?」
「そうですね。あなたの速さならば、八時間で着くのではないでしょうか? まあ、休憩を少し挟んで、九時間というところでしょう」
一時間の休憩があるとして、八時間は飛ぶ事になる。かなりヘロヘロになりそうだ。しかも両腕がまた、疲れそうだった。
◇ ◇ ◇
次の日、リーフ達は空を飛んでいた。
王都から一直線にビュドー村を目指す。
テオボルドが訪ねて来て、軽く説明した後時間が勿体ないと飛び立った。そして、飛びながらアージェが詳しい話をしていた。
それから四時間。半分を超えていた。
「思ったより早く着きそうですね。ところで休憩しなくても大丈夫ですか?」
二時間程前に休憩したきりだ。
普段、ずっと飛び続ける事などないリーフは、疲れていた。こくんと頷く。
「では、あの村で休みましょう」
見えて来た村をアージェは指差した。
十五分程で着き、三人は二時間ぶりに地面に足を付けた。
そして、リーフと結んでいたロープを解く。万が一の事を考え、ロープを結んでいたのだった。
「少し横になってもいいですか?」
「そうですね。って、ちょっと!」
答えを聞く前に、リーフは座ったかと思ったらアージェにもたれ掛かり眠っていた!
「まあ宜しいではありませんか。ここまで四時間で来たのですから……。しかし、驚きました。お客さんで飛んでくる方もいらっしゃいますが、休憩を入れつつのようですが、大抵の方は十時間かかると言っておりました」
「私も驚いてます。ただ、配分が出来てませんね。そこまで急いでいないのですから、こうなる前に休むべきです。申し訳ありません。三十分程休ませてもらってよろしいでしょうか?」
「勿論ですとも。いやぁ、若いのに優秀ですなぁ」
「優秀なのでしょうか……」
偏りがあり過ぎると、もたれ掛かっているリーフを見てアージェは思うのだった。
◇ ◇ ◇
「お風呂どうでした?」
「はい。よかったです」
「では、私も入ってきますね」
「行ってらっしゃい」
アージェは、タオルを持って部屋を出て行った。
リーフ達は、村で三十分程休んだ後、二時間ちょいかけてビュドー村に到着した。
昼過ぎに着いたリーフ達は、テオボルドの宿に泊まらせてもらう事になった。
宿に着いた途端、疲れ切ったリーフは、布団にごろん。寝てしまった。その間に、アージェは下調べをしていた。
そして、夕飯を食べた後、湯に浸かる事になった。
普段なら入れる温泉には浸かれないので、一人ずつお風呂に入っていた。
(危なかった。一緒に入る事になる所だった……)
お風呂は別だが、部屋は一緒だった。
並べて布団が敷いてある。
そして、消灯。
暫くすると、アージェの整った寝息が聞こえて来た。
(ね、眠れないんだけど!)
チラッと、横に眠るアージェの寝顔をリーフは盗み見る。
流石に疲れたのだろう。ぐっすりだ。
「そう言えば、こうやって布団を並べて寝るなんて、おばあちゃんが亡くなってからないや。……それにしても女性より綺麗な顔だな」
女性に追いかけ回されるのもわかるが、何故あそこまで女性嫌いになったのかがわからないと、ジッとリーフはアージェを見つめた。
そのうちにリーフも、眠りについたのだった。
次の朝、二人は朝食後、今日の打ち合わせをする。
テーブルに、見取り図の様なものをアージェは広げていた。
「これは、温泉を引いた時の見取り図の様なものです。源泉が出ているところからほぼ真っすぐに堀を作り、温泉まで引っ張っています。今日は、ここに行って源泉を汲みます。その後、辺りを調査して帰る予定です」
アージェが指差したのは、山の上だ。
普通に登れば、半日はかかるだろう。だが、飛んでいけば三十分程で行ける。
二人は、打ち合わせが済むと、源泉の麓に向かった。
そこに降り立つと、周りは暖かい。
「流石に熱いですね」
「不思議! お湯が沸いている!」
リーフには、不思議でならなかった。
アージェは、お湯を汲んだ。後は、辺りを調査するだけだ。
「さて、どこら辺を調べましょう……え!?」
アージェが、辺りを見渡した時だった。
自分達より高い場所に人影らしきものが目に入り、何かが飛んできた!
「うわぁ!」
咄嗟にアージェは、リーフを押し倒し伏せた!
シュ!
飛んできたの矢だ!
「もう、アージェさん、一体……え?」
「森の中に逃げますよ!」
アージェに引っ張られ起き上がったリーフは、頷いて森の中へ急いだ。
飛んで逃げる方法もあるが、相手は矢で攻撃をしてきている。隠れる場所がある方がいい。
二人は、森の中へ逃げ込んだ!




