第四九話 リーファーに戻りたい
「では、行って来ます」
「気を付けて」
リーフは、アージェに見送られて一人でウミュール村に向かった。
(そう言えば、こんなに高く飛ぶ事なんてなかったなぁ……)
隠れ住んでいたリーフは、飛んだとしても森の中だ。空を飛ぶなどほとんどなかった。
(気持ちいいかも)
一人なので、何も心配がいらない。
前と同じく二時間でついたリーフは、扉を叩いた。
「あの、アージェさんの使いできました」
「あら、こんにちは。たしか……」
「リーフです。宜しくお願いします」
「そうだったね。リーフくんだったね。悪いけどまだ摘んでいるとことなの。向こうで娘が摘んでいるから少し待っていてくれないかい?」
指さす方向をジッと見つめると、今いる場所より高い所があった。そこらしい。
「あの、僕見てみたいんですけど、行ってきてもいいですか?」
「構わないよ」
「じゃ、ちょっと行って来ます」
お辞儀をするとふわっとリーフは浮いた。
それを驚いて夫人は見ていた。
暫く行くと薬草畑が広がっていた!
雑草の様に、沢山生えている。
リーフは、縁に降りた。
「あの……」
薬草を摘んでいる少女のシディーにリーフは声を掛けた。
「あ。アージェさんと一緒に来た人ですよね? 今日、アージェさんは……」
「えっと。僕一人です」
「そうですか……」
シディーは、あからさまにしょげた。
今まできっと、アージェが来るのを楽しみにしていたのだろう。
「あの、何か御用ですか?」
「え!? いや、えーと。どんな感じか興味があったから見に来たというか……」
「そうだったの? 別に何もない風景だけど……」
「……ですね」
(同じ年頃だし、お友達に慣れたらなぁって思ったけど……無理っぽい?)
はぁっと、リーフは溜息をついた。
村には、歳が近い者はいなかったし、一緒に遊ぶという経験がこの二年間なかったのだ。
「ふう」
「終わったの?」
「えぇ」
「じゃ、戻ろうか」
リーフがそう言って手をだすと、シディーは凄く驚いた。
しかも怯えている。
「あ、ごめん。僕浮遊が不得意で、手を繋がないと他の人を浮かせられないんだ。嫌なら……えっと、歩いてもらう事になるけど」
アージェとなら喜んで手を繋いだろうにと、リーフは思うも仕方がない。一度しか会った事が無い相手だ。
「そうだったんだ。アージェさんと来ていたから凄い人なのかと……」
「え? あ……えっと。色々と見習いで……」
「へえ。見習いって研究の方も?」
「えっと……そっちは、ほとんどわからないです。あ、でも、薬草の知識は少しあります。名前と効能ぐらいですけど」
「そうなんだ。えっと……」
「あ、僕は、リーフです」
「じゃ、リーフ。お願いしてもいい?」
そう言ってシディーは、手を出して来た。リーフは頷いて手を取った。
二人は手をつないだまま、フワッと浮いた。
「わぁ! 凄い! 浮いているわ!」
「え? 初めてなの?」
リーフの言葉に、うんとシディーは頷いた。
「じゃ、ちょっとそこら辺、飛んでみる? 怖くないならだけど」
「うん!」
リーフは、村の上を飛び回った。
家の屋根が見え、薬草畑も上から見下ろす。
遥か遠くに、お城が見えた。
十分程の浮遊を終え、家の前に降り立った。
「楽しかったわ!」
「よかった。そうだ、お金」
薬草を受け取り、お金を渡した。
「またね、リーフ。今日は、ありがとう」
「うん。僕も楽しかったよ。またね、シディーさん」
「シディーでいいわよ」
「うん。シディー……」
ちょっと照れながら言うと、リーフはフワッと浮かび上がる。シディーに手を振り、アージェが待つ研究所に戻った。
それからは、村に行っては二人で飛んで楽しんでいた。
◇ ◇ ◇
初めて二人で飛んでから一か月ほど経ったある日。リーフは、これまでに十回程一人で、ウミュール村に訪れていた。
いつも通り、薬草を受け取り空を飛び景色がいい高台に降りる。それがコースになっていた。
「今日は、いい天気だね」
「うん。あのね、リーフ」
「うん? 何?」
いつもと違う様子に、どうしたのだろうとリーフは心配になる。
「えっと。家に戻る?」
その言葉に、ぶんぶんとシディーは首を横に振った。
「リーフは、恋人っているの?」
「え? 僕? なんで?」
「なんでって……」
シディーは俯いた。その顔は真っ赤だ。
(もしかして!? 僕の事を?)
「アージェさんを好きだったんじゃなかったの?」
「アージェさんは、憧れです! 私が恋人になれるなんて思ってなかったわ!」
「ごめん。僕は、君と友達になりたかったんだ。……その、そう言うのは、えっと……そう! 年上が好みなんだ! ……ご、ごめんね」
「……そうなんだ」
「帰ろうか……」
リーフは、シディーに手を出した。ここからは歩いては帰れない。シディーは、震える手でリーフの手を握った。
まさかアージェを好きだった子が、自分に惚れるとは思っていなかったリーフは、どうしていいかわからなかった。
とっさに、ダミアンに言われていた言葉を思い出し、年上好きだと嘘を言った。
シディーを家に送り届け、リーフは研究室に向かった。
(彼女を傷つけてしまった……)
はぁ……。
どうして、こうなったんだろう。
友達が出来たと思ったのに――。
「ただいま」
「おかえり。……なんです? 人の顔をジッと見て」
「いえ……」
(やっぱりおかしい。僕よりアージェさんの方が美形だよね。悔しいけど……)
「何かありましたか?」
「……えっと。次からはアージェさんも一緒に来てもらっていいですか?」
「何故です?」
「えーと」
リーフは、言葉に詰まった。何と言っていいのかわからなかった。
「まさか、何かしでかしたのですか? もう来るなとか言われたわけでないでしょうね?」
「ち、違います! 気まずくて!」
「気まずいとは?」
リーフはしまったと思うも睨む様にアージェは、リーフを見ていた。もう誤魔化せないと、リーフはアージェに事の顛末を話した。
「あなたは! そんな事をすればそうなるのは、当たり前ではないですか!」
「え? なんで?」
「なんでって。手を繋いで二人で出掛ける男女の友達がそんな事をしますか? 気があるのではないかと、思うのが普通ではありませんか!」
(男女の友達!)
そう言われてリーフは愕然とした。
自分は、同性の友達のつもりになっていた。だが向こうは違ったのだ。
アージェの言う通り、全く気が無い相手なら毎回、手を繋いでなどしないだろう。
「思いもよらなかった……」
「はぁ……。何を言っているのですか。もしあなたがおじさんだったら相手は手を繋いで、空の散歩をしたと思いますか?」
リーフは、首を横に振った。
嫌がるに違いない。
「仕方がありません。あの村に行かない方法を考えましょう」
「え? でも……」
「嫌なら毎回一人で行ってもらいますよ」
「……わかりました。一人で行きます」
「え?! 行くのですか?」
リーフは、こくんと頷いた。
自分がやった事で誤解をさせて気まずいからと、そこまで相手に迷惑はかけられない。
「まあ、あなたがそれでいいのなら構いませんが」
(僕ってもしかして、友達を作れないの?)
仲良くなったとしても騙していた事になる。いずれ別れが来る。
リーフからリーファーに戻れば、その友達とは疎遠になるのだから……。
(なんで僕は、男性で取得しちゃったんだろう……)
罰せられてもいいからリーファーに戻りたいと、初めてリーフは思ったのだった。




