第四八話 手を繋いで
リーフは、困っていた。
毎日、ナディアが研究室に来るのだ。勿論、前から来ていたので来る事自体は問題ない。問題なのは、連れて来ている目的だった。
ダミアンが言った通り、どうやらウリッセは、リーフとナディアをくっつけようとしているようだった。
召喚師の男子は、20歳過ぎたら見合いの話が来る事もあるのだ。そうなる前に手を打っておこうとしているのだろう。
「アージェ」
「はい? なんでしょう」
「明日、リーフと一緒にこの薬草を受け取りに行って来てほしい。そして、調合などを自宅の研究室でお願いする。なので、明日から二人はあっちで研究をお願いする。よいか?」
「わかりました」
ダミアンからアージェは、用紙を受け取った。
リーフは、安堵する。ダミアンが、助けてくれたのだ。
「えー。お兄ちゃんもう来ないの?」
「うん。明日からは、別なところでお仕事するからね」
とても残念そうにするナディアだが、好かれれば好かれる程、心苦しいリーフだった。
「ダミアンさん。ありがとうございます」
「いや。例にはおよばん。フランクが参加出来る様になったのでな。それにこれは、今だけの対策だ。前に言った通りアピールはしておけよ」
「え!?」
それは、しないといけないのかと、リーフは困る。
フランクは、研究に参加し国に貢献する事で許される事となった。勿論彼は、召喚する事は許されない。
こうしてリーフは、一時的にナディアから逃れる事が出来たのだった。
◇ ◇ ◇
次の日、朝食を終えた二人は、紅茶を飲んでいた。
「あなたは、ウミュールの場所はご存知ですか?」
「ウミュール?」
「今日、薬草を取りに行く村です。山のてっぺんにあるのですが」
アージェの問いに、リーフは知らないと首を横に振った。
そもそも自分が住んでいたカルムン村ですら、馬車で通った道を辿って行かないと帰る事が出来ない。
「では教えますので宜しくお願いしますね」
「えっと。宜しくとは?」
「あなたの浮遊の術で行くのです」
「え!?」
アージェの言葉に、リーフは驚いた!
彼は、リーフが浮遊の術が不得意な事を知っていたからだ。なので、馬車で行くものだとばかり思っていた。
「馬車でいかなのですか?」
「馬車なので行ったら一日掛かるではありませんか。飛んでいけば、三時間程です」
「三時間?! カルムン村より近いんですか!?」
「何を言ってます。カルムン村なら飛んでいけば、一時間もかからないではありませんか」
「え……」
アージェの言葉に、またリーフは驚く。
一直線に飛んでいけば、一時間もかからない場所にカルムン村はあったのだ!
「あなたもしかして、飛ぶのが凄く遅いのですか?」
「うーん。速さはわからないですけど、僕がアージェさんを浮かせられるかどうか……」
「前に出来たではありませんか」
「え! だって、あれは……」
必死だったから――そういいたかったが、言わずともわかったのかアージェが大きなため息をした。
「この国で魔術師としてやっていきたいのであれば、浮遊の術は必須ですよ。練習だと思いなさい」
「でも……。アージェさんって怖い物知らずなんですね。僕、アージェさんが落ちたらどうしようと思うと怖くて出来ないのに……」
「そんなに無理なのですか!?」
リーフの言葉に、アージェは声を裏返らせて言った。
「自分自身は浮遊できますか?」
「あ、はい。それは出来ます」
「では、今日は手を繋いで行きましょう」
「あぁ! その手がありました! それなら大丈夫だと思います」
いい案だと喜ぶリーフに、アージェはまたため息をするのだった。
◇ ◇ ◇
ウミュール村は、馬車で行くのなら途中までカルムン村に向かう道を行き、途中から急な坂道を上る。それは、山を一周する道で、この村に来るものは、魔術師を連れて飛んで来る者が多い程だ。
そのウミュール村を目指して飛び立ったリーフ達は、二時間で村に到着した。
「あなた、本当に勿体ないですね。手を繋がずとも出来る様になれば、かなり優秀なのに……」
村に降り立ちリーフと手を離したアージェが、残念そうに言った。
大抵の魔術師は、三時間かかるところをリーフは二時間で飛んで来たのだ。飛ぶスピードは、申し分なかった。
「そうですか?」
リーフには、速さを比べる相手などいなかった為、ピンとこなかった。
「アージェさん!」
すぐに女の子達が集まって来た!
「どこでも人気ですね……」
「全く、嬉しくないですけどね」
アージェは、寄って来た女の子に軽く礼をすると、歩き出した。慌ててリーフは追った。
すぐ近くの家の扉をアージェはノックする。
トントントン。
ノックすると、すぐに扉は開いた。
「これは、アージェさん。遠い所ご苦労様です。これが注文があった薬草です」
「ありがとうございます。代金です」
家の中から出て来た、40代ぐらいの女性からアージェは薬草を受け取ると、代金を支払った。
「こ、こんにちは……」
家の中から顔を真っ赤した少女が挨拶をした。
年のころは、リーフと同じぐらい。淡い緑の若芽色の髪を右横で編んでいる。服装は、青いワンピース。
外にいた少女達は、ズボンだったのでおめかししたのかもしれない。
「こんにちは。シディー。そうでした。私の助手のリーフです。次からは、彼が一人で薬草を取りに伺いますので、宜しくお願いします」
(聞いてないけど!!)
突然の紹介にリーフは戸惑うも、宜しくと挨拶を交わした。
「では、失礼します」
挨拶を済ませると、アージェに急かされてリーフ達は、王都に戻ったのだった。
「村で言った通り、次からはお金を渡しますので一人でお願いしますね」
「一人で行ってもいいんですか?」
「大丈夫です。手続きは出してあります。研究の為の外出は、私達は許可がおりてます。四時間分、研究に回せるのですから効率的です」
それだけじゃないだろうと思うもリーフは頷いた。
そこまで女性が嫌いなのかとリーフは溜息をつく。アージェには、女性だと絶対に知られてはならないと改めて思うのであった。




