第四話 二つの憶い 4
こんにちは。
第四話の4になります。
現在、もう一作を同時執筆中で、近日中に公開の報告をするかと思います。
自己満小説ばかり書いていた人間ですが、結構苦手分野のチャレンジになっていますので、「挫折」という二文字が一番の問題になると思います(汗)
しかし、あくまでメインはこちらなので、公開をしても、その作品はおそらく「不定期公開」になると思います。
もし公開する時が来れば、そちらの方もよろしくお願いします。
ペットショップを出て、下りのエスカレーターに乗ろうとした直前。
あとをついて来てるだろうと思っていた明美の姿が無かった事に気づいた俺は、その場から少し離れ、本人が来るのを待った。
それから数分後、ようやく明美の姿が視界に入ったのだが、何やら見覚えの無い黄色いビニール袋を手にしている。
一瞬嫌な予感はしたのだが、明美が手にしているのは片手で十分事足りる程の大きさをしたビニール袋だ。
あんな鉄檻が、その程度の袋に収まる筈が無い。
「おい」
目の前まで近づいて来た明美に、キツめの口調で問い掛ける。
「なんだそれ?」
「えっ・・・?」
「なんだそれって聞いてんだ。さっきまで無かったろ、そんな袋」
「あ・・・えっと・・・その・・・」
相変わらずの口調になりつつも、袋の中身を俺に見せて来た。
入っていたのは、猫用のミルク。
この前、俺があのコンビニで買ったミルクと同じパッケージのデザインをしたミルクだ。
それと、何枚かの広告が入っている。
「・・・あいつのか」
ペットショップで買った物なら、必然的とも言える程に、あのガキ猫の物だと想像に難など無いのだが。
「んなもん買わなくても良かったろ」
「で・・・でも・・・」
しかし、買ってしまったのなら仕方が無い。
その袋をぶんどるように、その袋を明美の手から取り上げた。
「なんか食うか」
「あ・・・うん・・・」
いつもの明美に戻る。
ペットショップに居た時の明美の姿は、もうそこには無かった。
「・・・・・・」
二重人格かよ、とも思える程のしおらしい表情。
「なあ」
「え?」
真に聞きたいこともあるのだが、まずは腹ごしらえといきたい。
「何食いたい?」
「あ・・・えっと・・・」
今はまだ聞かないでおこう。
時間はたっぷりある。
昼飯を食いながらでも、食い終わってからにでも聞けばいい話だ。
俺達は、その周辺の飲食店を回った結果、一軒のファミレスに決めた。
適当な場所に案内され、注文をしてからしばらくの時間が空く。
ファミレスというだけあって、家族連れの客もいれば、俺らと同じで若いカップルが楽しそうにダベっている姿が多く見受けられる。
その光景に少し嫌気がさしてきていたが、入ったからには後には引けない。
「・・・・・・」
目の前でもじもじしている明美を見ながら、俺は一本の爪楊枝を手にし、指先で転がす。
「便所なら行ってくれば良い」
「え・・・?」
ほら、ともう片方の指で便所の場所を指差す。それでも明美は顔は更に赤らめたものの、立ち上がる事無く、再び俯く。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
周りは楽しそうにダベっている環境の中、ここだけがまるで葬式の後のような沈黙が流れる。
注文した物を店員が運びにやって来たが、そいつが居なくなったら、また同じ空気が流れる。
「食うか」
「う・・・うん」
仕事をしていない人間には出来るだけ出費を抑えたい。
俺が頼んだのは、メニューの中でも一番安い、カレーピラフ。
そいつを、掬い、形を崩しながら口へ運ぶ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
訳が分からなくなって来た。コイツが黙り込んでいるのが、まるで俺のせいのような気がしてくる。
「なあ」
頬張った米を喉奥に流し込んでから、明美に声をかける。
彼女が頼んだのはチーズリゾット。それをゆっくりと食べ進める明美の動きを止めて、俺は続けた。
「なんていうか・・・その・・・」
なんで俺がしどろもどろにならなきゃいけないんだよ。
コイツが何も言ってこない分、俺の方から話題を探り当てなければならないのが、何やら理不尽に思えてくる。
「これから、どうするんだ?」
「・・・これから?」
「その・・・なんだ・・・」
この次の言葉が出てこない。
必死になっている俺の向かいに、キョトン顔の明美が存在している事に苛立ちが募る。
「どこか行きたいとことかないのかよ」
「あ・・・えっと・・・」
さっきペットショップで買った袋の中から、一枚のビラが出て来た。
「ここ・・・いかない・・・?」
俺に見せて来たのは、今居るショッピングモールからでも徒歩で行ける美術館。
そこで個展を開催している、その案内広告だった。
「おまえ、絵に興味あるのか?」
「あ・・・その・・・そうじゃなくて・・・その・・・」
「・・・・・・」
そろそろ、その性格直してほしい物だな。
二人きりは多くないとはいえ、もう何年俺と一緒に居るんだよ。
「その・・・私じゃなくて・・・葛城君の・・・その・・・」
「俺のか」
「あの・・・前にもらった絵が・・・その・・・あの・・・」
「・・・・・・」
どんどん顔が赤くなっていく明美をまじまじと見つめる。
そのまま目眩起こして倒れるんじゃないのか・・・
十分に注力しながら、次の言葉を待った。
「絵が、すごく上手かったから・・・だから・・・その・・・」
「・・・わかった」
ため息が思わず漏れるが、だいたいの事は分かった。
ようは、俺も個展開いて出してみろって言いたいんだろう。
もちろん、この広告に関しては言うまでも無く、席取りの申し込みは終わっているが、次に機会があれば・・・
そんなところか。
これから何処に行くかも考えていない今となっては、十分な時間にはなるだろう。
「食い終わったら行ってみるか?」
「あ・・・う・・・うん!」
子供のような笑顔を見せる明美を見て、俺は何度も思った。
コイツが。
明美がなんで俺と一緒にいるのだろうか、と。
橘が提案した今日のデート。
女子二人の今日の最終目標が、事無きのまま終了することだとしたら、俺の最終目標は・・・
「ごちそうさまでした」
両手を合わせて口元を拭う明美を眺めながら、俺はポケットから、中が寂しい財布を取り出した。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する事があります。
予め、ご了承下さい。




