第四話 二つの憶い 3
こんにちは。
第四話の「3」になります。
最近になって、今までに挙げた話の内容を読み返していました。
当時は、多少読み返しを含めた推敲を行っておりましたが、最近になってそれをする機会が減ってきてしまっていたので、時間を作り行ってみました。
誤字や脱字。その他、不必要な文脈などを改修し、再び公開しております。
ストーリーに関しての変更点はありませんので、ご安心下さい。
それでは、第四話「3」をどうぞ。
人が行き交う都会場までやってきた俺達は、一度ショッピングモールへ向かった。
「あの・・・葛城君・・・」
「・・・あ?」
「その・・・あの・・・こっちとこっち、どっちが・・・その・・・」
「・・・・・・」
両手に商品の服を持ちながら、俺に質問を投げかけてきた明美を見て、盛大に突っ込みたかった。
そこで言葉を詰まらせるな、と。
そこまで言えたら全部言えるだろ、と。
「どっちでも良いんじゃね?」
「あ・・・うん・・・」
俺の一言に、しおらしくなった明美を見ては胸の内で愚痴をこぼす。
俺に聞くな、と。
俺に聞いて、結果自分に合わない服だったら、責任は俺に来るんだろ、と。
しかし、言葉には出さない。
コイツの打たれ弱さは重々承知だ。
「葛城君は・・・その・・・」
「・・・・・・」
「いいの?」
「なにが?」
「その・・・服・・・」
「あー、俺はいいや。そんな金持ってないし」
そこまで伝えると、明美は黙ってレジの方へ向かっていった。
その後ろ姿を、店外に出てから確認する。
本当に小さい体だ。
ちょっと衝撃を与えれば、すぐに崩れ落ちそうな。
子供とまで言ったら語弊があるが、中学、高校生くらいと勘違いされても仕方が無い程に小さい。
それは、身長の面だけではなく、おそらく内面も・・・
袋を片手に近づいてきたその姿も、何もかもが小さい。
「ごめん・・・待っちゃった?」
「いい。行くぞ」
「あ、うん」
そんなやり取りをしている姿を、周りの人間はどう映っているのだろうか。
恋人に映っているのだろうか。
友達に映っているのだろうか。
まさか、対極する兄妹に映っていたりしないだろうか。
「あの・・・葛城君?」
「あ?」
後ろから袖口を小さく摘むようにして、俺の前進を止める。
「行きたい所があるんだけど・・・その・・・」
「・・・どこ?」
「その・・・あの・・・」
それから二、三分待ってようやく明美が行きたい場所を聞き、片手を引っ張るようにして、そこへ向かった。
エスカレーターを使って、一つ一つ上へ向かった後、大きなペットショップに立ち寄った。
ここが、行きたかった場所だ。
「かわいい」
店内に入ってすぐ、犬猫の場所まで一直線に進む明美の後を追う。
そこにいる犬猫を見ては度々同じ言葉を繰り返している明美を隣にして、ボーッと眺めていた。
まあ、かわいいと言われたら納得は出来る。
しかし、目の前に居てる奴らも、永久にこの大きさじゃない。
大きくなって、果たして「かわいい」と言えるのだろうか。
明美の姿に視線を移す。
長い髪を耳にかけて、目の前の仔猫とにらめっこをしている。
左右に別の客が同じ目的で並んでいる事にも目もくれず、ただ動物と見つめ合っている状況に、コイツの動物への想いの強さが、なんとなく、それでもより強く伝わってきた。
「・・・・・・」
普段でもおっとりした目つきが、更に柔らかい表情になっている。
俺を目の前にした時には見せない顔だ。
「本当に好きなんだな」
口に出すしかなかった。
俺の言葉に明美も小さく首を振る。
俺も、動物は嫌いではない。
しかし、明美とはそのベクトルが違う。
明美は、一匹の動物としてだが、俺の場合は、一つのモデルとして。
動物は俺にとっては、漢字の通り「動く『物』」だ。
だから、明美の言う「好き」がわかったようで、わかっていないようで。
この前コイツは言っていた。
ここにいる動物達のうちの何匹かは、殺処分されると。
そう考えると、今コイツが見せている姿は、そういった未来を考えているのかもしれない。
「もし」
「?」
俺の一言に明美がコチラを窺う。
「もし、ここに居てる犬猫の一生を養える程の金があったら、お前はどうするんだ?」
「お金?」
「飯代と、飲み物と、遊び道具と・・・そういうのが最後まで揃えれる金があったら・・・」
「飼う!」
即答だった。
最後まで言う前に明美の強気の言葉が返ってきた。
「全員飼って、最後まで育てるよ」
「・・・そうか」
「この子達が元気でいてくれるなら、無理だって出来る」
「・・・・・・そうか」
俺と普通に会話しているときは、あんなにドギマギしているくせに。
普段の明美の会話がこうなのかどうかはわからない。
しかし、俺の質問を言い終えるより先に返ってきたんだ。
その想いは間違いなく本物だろう。
一体、どこから生まれたんだろうな。
「かわいい・・・」
覇気というか、情熱というか。そんな物はもう鳴りを潜めていた。
「本当に犬猫好きなんだな」
「ううん。犬猫だけじゃないよ」
「・・・・・・」
「犬も猫も、動物全部が好き」
「そうか」
言われてみればそうだよな。
だから、獣医を目指してるんだ。
犬や猫だけじゃない。
それこそ、動物園の獣医とかになれば、象やライオンのような、自分より大きく、凶暴な動物すら看なくてはいけない。
「・・・・・・」
俺とは全く違う。
毎日ブラブラしている俺とは大違いだ。
「そろそろ行くぞ」
こんな所に長い事居てると、妙な劣等感を感じてきてしまう。
明美に一言そう伝えると、展示されている犬猫に背中を向けた。
「あ・・・ちょっと・・・」
その後ろを追うようについてくる明美だったが、追いつかれたと思ったら、即座に俺の袖口を握ってきた。
「なんだよ?」
「あの・・・その・・・ちょっと、色々見たい・・・かな」
「色々?」
「その・・・チャッフィーの・・・ケージとか・・・」
さっきまでの口調は、本当に無くなってしまっていた。
ケージか。
そういう道に少しでも詳しい奴が傍に居てるし、買うなら今がチャンスか。
近くまで行き、値札を見る。
「いち・・・まん・・・」
俺の予想を数倍も上回る金額に目眩がした。
桁を一つ間違えてるんじゃないかと、店員に文句を言いに行きたくなった。
「こんなもんなのか?」
「このくらい、かな。もっと高い物もあるけど」
「マジかよ・・・」
オブラートに包んで、ぼったくりじゃないのか。
こんな鉄檻だけで、なんでそんなにもするんだよ。
「買う?」
「は?」
あまりにも巫山戯た問いかけに、思わず半ギレで返してしまう。
「その・・・私が出すから・・・」
「・・・・・・」
明美の言葉で、思わず揺らぐ。
俺が一円も払わなくて良い状況に、頬が緩みそうになるのを必死に堪える。
それでも。
「また次で良いんじゃね?」
「え・・・あ・・・うん・・・」
「そもそも、俺そんなに金持ってねえし、お前に全額負担なんて出来ん」
俺はそう言いながらペットショップをあとにした。
明美を放っておくように。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する事があります。
あらかじめご了承下さい。