第四話 二つの憶い 2
こんにちは。
第四話の「2」になります。
今年度も終わり、来週には4月になります。
これから新天地で輝く方も多くなると思いますが、体調だけには十分気をつけて下さい。
自分も、執筆活動をはじめ、色々と頑張って行きますので、これからもよろしくお願いします。
さて、当日になったわけだが。
明美には待ち合わせの場所と時間しか伝えておらず、どこに行くかなんて一切伝えていない。
俺は、明美よりも先に着くように、歩いて十五分程度しかかからない場所へ、三十分前に出掛けた。
途中、信号に捕まったりして、結局二十分ほどの時間を要してしまったが、着いたその時は、まだ明美の姿は見当たらなかった。
どうせこんな時間になっても来ないだろうと、スマホを弄りながら到着を待つ。
しかし、スマホに暗証番号を入力した直後に明美からの電話が入った。
「もしもし」
「あ・・・えっと・・・前原明美・・・ですけど・・・」
いつもよりも小声。前々からそうだったが、今の明美の声は、それに輪をかける程の。聞き取る事自体が無理難題なほどだった。
その声色で、何かあったのかと一抹の不安が過る。
「どうした?」
「あの・・・ちょっと、遅れちゃうかも・・・」
「・・・・・・なんで?」
「その・・・ごめん・・・」
「謝れなんて言ってない。なんで遅れるんだって聞いてんだ」
「あ・・・えっと・・・その・・・着ていく服を迷ってるうちに、時間が来ちゃって・・・」
「・・・・・・」
思わずため息が漏れそうだった。
色々と突っ込みたい所があるが、俺はそんな事を全てのみ込み、早く来るようにだけ伝えて、通話を終えた。
「・・・・・・」
遅くなる事への電話はまだしも、その理由が服選びって。
その辺にほっぽり出している服を適当に着れば良いじゃねえか。
わかんねえな、アイツの事は、本当に。
「時間まであと五分」
遅刻十分までなら待ってやるか。
スマホでもいじっていれば、計十五分なんてあっという間だろ。
時々通る人が向ける視線を無視しながら、俺はスマホを弄り続けた。
集合時間を過ぎて十分。
そろそろ待つ事に嫌気がさしてきた。
「いつまで待たせるんだよ」
連絡もせずに帰ろうとも思うくらいに、アイツに対しての怒りが込み上げてくる。
スマホをいじるのも少々飽きが近づいてきていた。
「あと三分だな」
自分の中で制限時間を決める。
どういった理由で三分なのかはわからないが、せいぜい待てる限界時間といった所か。
しかし、それを決めて間もなく。遠くの方から、急いでこちらに近づいてくる姿があった。
だんだんと近づいてくるその姿は、いつもの姿とは違う・・・
普段でも、そこそこお洒落しているように見えてはいたが、近づいてきてはっきりとわかってきたのは、今までに見た事も無いワンピースを着ている事。
「あの・・・ごめんね・・・」
「・・・・・・」
その姿が俺のすぐ傍まで来ている。
思わず、言葉が出なくなっていた。
明美の二度目の呼びかけに、ようやく我に返る。
「あの・・・変・・・かな・・・」
「・・・いや」
こんな時、なんて言えば良いのか、髄液までをも使っても、その答えが出てこない。
素直に、似合ってるとかって言えば済む話なのだろうが、そんな小っ恥ずかしい事言える柄じゃない。
一つ一つが小さいながらも、裾に彩られている花柄のワンピース。腰の辺りまで伸びているベージュのカーディガン。
それらが、清楚さというか、明美らしさを引き立たせているように感じる。
もともと、美人に分類される明美だが、今目の前にいる彼女は、新鮮味溢れる格好をしていた。
「やっぱり・・・変・・・?」
それでも、自信が無さ過ぎる彼女の欠点が全面に映し出される。
しかし、その姿を見ると、思わず抱きしめたくなる。
そんな衝動を理性で抑え、俺は精一杯の言葉をぶつけた。
「良いから、行くぞ」
「・・・あ、うん」
明美の小さな手を掴み、俺は引っ張るようにしてこの寂れた田舎町から、今日一日離れようと決めた。
改札をくぐって、電車に乗り込む。
「どこに行くの?」
小さな声で俺に問い掛けてくる。
上目遣いに、再び理性が飛びそうだったが、再度抑え込み、無愛想に答えた。
「行きたい所がある」
「行きたい・・・ところ?」
これ以上は何も言わない。
「・・・・・・」
アホらしい。
今まで散々明美に、言いたい事があるならハッキリ言え。なんて言ってきたクセに、今の俺は、まさしくその状態じゃねえか。
いつもなら俺が主導権を握って、明美を思うがままに誘導していたのに、今は立場が全く逆転してるじゃねえか。
俺が今、唯一優位に立っているのは、せいぜい案内者くらいだ。
精神的余裕は、間違いなくコイツに分がある。
そんな自分が、ほとほとアホらしく感じる。
「おまえ」
その一言で再度俺の方を見る明美に、再び言葉が詰まる。
電車の揺れと、自分の鼓動が善くも悪くもマッチしていて、何が何だかわからなくなる。
今ここに俺一人しかいなかったら、思い切り叫びたいくらいだ。
次の駅のアナウンスが頭上で流れる。
「・・・つぎ?」
「・・・・・・」
これ以上バレたくはない。
俺は、必死になって明美の言葉を無視し続けた。
やがて、ホームに侵入し、同時にスピードも落ちていく。
そして、扉が開く直前で、車内が大きく揺れた。
それに耐えきれずに、明美の体が俺の懐に潜り込む。
「!?」
言葉にならない、唸り声のような。自分が出した筈なのに、自分の声とは思えない声が口の中で生まれた。
明美自身も、事の事態を最初は理解できていなかったようだが、すぐに俺から離れ、隠った声ではあったが、ひたすらに謝っていた。
その反応に、俺も何も言えなくなる。
「その・・・ごめん・・・ね?」
「・・・かまわん」
正直、ラッキーだと思ったなんて死んでも口には出せないな。
「・・・・・・はぁ」
橘の立案から生まれたとはいえ、俺と明美の初デート。
その幸先は、あまりにも不安な幕開けになってしまった。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する事があります。
予めご了承下さい。