第四話 二つの憶い 1
こんにちは。
今回から第四話に入ります。
今回からはチャッフィーの件は一時お休みとなり、この物語のある内容に関して進んでいきます。
なので、第四話は今までと違い、少々重要場面になります。
前話で吉正が言っていた「聞きたい事」とは何だったのか。
その事を残しながら、この第四話を読み進めていければと思います。
明美との約束の日・・・の、一日前。
俺は、曾根崎にある事を聞きに、コンビニの前まで来ていた。
店の外から中を覗いてみると、クソ店長がレジ打をしている。
気に食わない。
あの姿を見ているだけで反吐が出そうだ。
「クソ・・・」
俺がここに来たのは、買い物でも無ければ、あのクソ店長の顔を見たかったわけでもない。
曾根崎。
アイツは何処に行った。
スマホに電話をかけても留守電に繋がるし。
それじゃ勤務中かと思ったら、このザマだ。
橘でも、多少話が通じる内容ではあるのだが、ソイツよりも、やっぱり曾根崎の方が相談はしやすい。
だが、待てど暮らせどアイツの姿は現れない。
レジ打も、クソ店長から、おぞましい口裂けババアに代わったりしているが、それでも曾根崎の姿は見えなかった。
ここまで来ると、今日は休みなのかという結論に辿り着く。
俺は、諦めてそのコンビニをあとにしようとした時、向こうから橘の姿が目に入った。
向こうも向こうで、俺に気づいたようで、少し歩を早めてコチラに近づいてきた。
「どうしたんですか?」
「いや・・・曾根崎に会いたかったんだけどな」
「・・・いないんですか?」
「ああ」
俺の言葉に疑問を抱きながら、さっきまで俺がしていたような行動を橘もおこす。
「あれ・・・ちょっと見てきますね」
そう言うと、スタッフ専用の出入り口へと消えていく橘を、仁王立ちで見送っていた。
日の光を全身で浴びながら、ふと空を見上げる。
青と白。
グラデーションのような薄い雲が、所々に広がっている。
寒くもなければ暑いわけでもない、非常に過ごしやすい時期。
こういう空が続けば、毎日が快適に生活出来るんだがな。
「曽根崎さん、今日休みみたいですよ」
その声に俺は目線を降ろし、コンビニの制服に着替えた橘が、自動扉をくぐって教えてくれた。
「休みか・・・」
「本当はシフト入ってたんですけどね。連絡が入ったみたいですよ」
「ほお・・・」
「なんでも、従兄が怪我をしたからって・・・」
「怪我か」
それなら仕方ないか。
怪我の度合いがわからないが、それの付き添いか何かで休んだのなら、俺の電話に出ないのも、多少納得はできるな。
「どうします? 今度来たら伝えますけど」
「いや、いい。直接俺がかけるから」
それだけを言って、俺はコンビニをあとにした。
駐車場を抜ける直前、塀の上から一匹の野良猫がこちらの姿を見下ろしていた。
丸まりながら、目を細めつつも顔だけをこちらに向けている。
「・・・なんだよ?」
俺の呟きに何も反応しない。
当たり前と言えばそれまでだが。それでも、ニャーとかシャーとか、言える口も持ってないのかよ。
「シャー・・・か」
あのガキ猫も、どんな事を思ってあんな鳴き声出してるんだろうな。
敵意をむき出しにしているのはわかっているが、なら何でそんなにむき出しなのか。
そもそも、最初に出会った時にあんな鳴き声出さなければ、俺だって・・・
「はぁ・・・」
ため息も漏れる。
曾根崎とは会えず、明日は大事な約束の日。
それでも、俺はもう一度スマホを手にし、曾根崎の名前を探していた。
再びスマホを耳に近づけ、相手の応答を待つ。
何も返ってこず、結局留守電に繋がった。
仕方なく、気づき次第掛け直して欲しい旨だけを伝えて通話を終えた。
「どこに行くか」
行くあてなんて、何処にも無い。
ただ、その辺をブラブラするのも悪くないが・・・
俺は、あの公園まで足を運ぶ事にした。
昼間という事もあって、ガキ一人もいない。
公園にたどり着いたときは、犬を引き連れた男がベンチに座っていたが、その姿も既に消えている。
俺は、あの時座っていたベンチに座り、ガキ猫がいた辺りをじっと眺めていた。
かき分ける程の草の長さではなかったが、アイツの鳴き声が聞こえてこなければ、街灯が助けていたとはいえ、夜の暗さで気づけなかっただろうに。
たしか、あいつらも夜に見つけたって言ってたな。
あのガキ猫も随分と幸運だな。
一回鳴けば人が近づいてくるんだから。
「どうするかな・・・」
あのクソババアは俺が働けば、あのガキ猫の面倒を見れるからと言っていた。
俺だって、出来るものなら働きたい。
しかし、そんなに上手く事が進むわけでもない。
一度どこかでバイトでもしながら、デザイナーを目指すのもアリだが、またあのクソコンビニみたいな環境で働くのもごめんだ。
出来るだけ、少しでも良い環境で働きたい。
そんな事を考えていると、ポケットに収めていたスマホが震えだした。
スマホを取り出す前から、それが誰からなのかは想像に難など無かった。
「もしもし」
「おう! すまんな、電話に出れなくて」
「いや、いい」
相手の言葉も聞きつつも、早く用件を言いたかった。
「なんか、大変みたいだな」
「ん? ああ、まあな。怪我とは隣り合わせな仕事してるから、仕方ないって言ったら仕方ないけどな」
「どんな仕事なんだよ?」
俺が曾根崎に相談したかった内容ーーー
それは、コイツの知り合いの勤務先で働きたい事だった。
そうすれば、今まで履歴書を受け取りながらも俺を蹴ったクソ企業どもと比べると、幾分か入れる可能性はあるはずだ。
デザイナー関連じゃなくてもいい。
少なくとも、収入さえあれば、それでいい。
バイトのつもりで入って、後々正社員になれるような環境だったら、それに縋り付けば良い。
しかし、その思いを惑わせる返事が曾根崎の口から言い放たれた。
「建築だよ」
「・・・そうか」
一番興味の無い仕事だ。
絵とは無関係の仕事。
俺が持ちたいのは、工具じゃない。
せめて、接客か何かだったら即申し込みしたかったのだが、その心を大いに惑わせた。
それでも、俺は期待と不安を抱きながら問い掛けた。
「それが原因で人手不足とかって・・・ないのか?」
「んー・・・どうだろうな。俺はそこに働いてる訳じゃないし」
「まあ、そうだよな」
やはり、そんなに上手くはいかないか。
ベンチから立ち上がり、その公園をあとにしようとする。
「なんだ? 人手不足だったら、入りたかったってか?」
「・・・まあな」
猫を飼った事や、明美達と約束した事。
そして、ソイツを養うための金儲けなど。
公園を出て、自転車や自動車が何台かすれ違う道を歩きながら、俺は事情を説明した。
「ふーん・・・あのコンビニは流石にアウトだよな」
「当たり前だ」
俺の方から頭も下げずに辞めてやったクソコンビニに、おめおめと戻れるか。
「ま、聞いてみても良いが、朗報が来るかは微妙だぞ?」
「それでも構わん。一旦聞いてみてくれ」
そう言うと、曾根崎も快く承諾してくれた。
「それじゃ、これからまた用事あるし、切るわ」
「ああ」
スマホの切断ボタンをタップする。
これで、収入もなんとか確保出来そうだな。
あとは・・・
明日の明美とのデートの事に頭が切り替わる。
その事でいっぱいになるまで、一分もかからなかった。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する事があります。
予め、ご了承下さい。