第三話 距離感 5
こんにちは。
第三話の「5」になります。
第四話から、少しだけ一つ一つの話を長くしようか検討中です。
とは言っても、変に説明臭くなるのも嫌だし、なにより無駄なところが多くなってしまいそうなのが一番怖いんですよね。
そう考えると、やはり今まで通りの方が良いのか、と変に悩んでおります。
悩み続けながら執筆活動を続けますが、これからも愛読していただけると幸いです。
あまり行き慣れていない道を歩き、俺はとあるペットショップの扉をくぐった。
「いらっしゃいませー」
どこも同じ挨拶が第一に聞こえてから、店内を歩き回る。
ひとまず、欲しい物はというと・・・
「何をお探しですか?」
ペット用おもちゃ売り場を眺めている俺に店員が割って入って来た。
探している物、か。
「猫が好きなおもちゃとかって、どんなんスか?」
「猫が好きなおもちゃですか」
俺の聞いた事を、確認するかのように聞き返してくる。
「猫ちゃんの性格とか、どんなですか?」
「性格?」
性格か・・・
調子に乗ってて、身の程知らずで、頭が悪いって事くらいだな。
でも、全部説明するのも。一応、飼い主という事になっている以上、そういう事を言うと、お互いに後味が悪いというかなんというか。店員から何か変な事を言われるのも嫌なので、ざっと纏めて、漢字二字で伝えた。
「元気ですよ」
「元気な猫ちゃんですか」
それを聞いた店員が、若干困り気味の表情を見せながら、こんなのはどうでしょうと言いつつ、小さいボール状のおもちゃを手に取った。
しかし、よく見ると「犬用」と書かれている。
「いや、犬用って書いてるんスけど」
そう言っても、店員の態度は変わらなかった。
「大丈夫ですよ、犬用って書いてますけど、猫ちゃんでも大丈夫です」
「・・・・・・」
本当か?
猫用の物が欲しいって言ってんのに、なんでコイツは犬用の物をすすめて来るんだ。
「飼ってるの猫なんだって」
「はい! ですけど、コレでも大丈夫です」
店員の態度は変わらない。
猫って、どんな生き物かわかってんのか。
そのおもちゃをよく見ても、犬用としか書いていないし、片隅に金色とも茶色とも言える毛をしたデカイ犬が、そのボールを銜えている写真が載っている。
ねこの「ね」の字も見当たらない。
「・・・・・・」
本当に大丈夫なのか、不安になってくる。
この店員に頼っても大丈夫なのか。
変なもの勧められて、金儲けしようという魂胆じゃなかろうか。
そんな疑いの念を抱いてしまう程だが、店員の目つきは真剣で、嘘をついているようには見えない。
心の中で変なジレンマが生じる。
「返品とかって、出来るんスか?」
この店員の言っている事は、半信半疑と言った所だが、それが出来るのであれば気軽に買って帰れると言うもんだ。
しかし、店員の回答は、俺の期待を裏切った。
「おもちゃの返品は出来ないんですよ。やっぱり、ワンちゃんとか猫ちゃんってこういう物を舐めたり噛んだりするので、そうしたおもちゃを返品されると、後はコチラで処分するだけになるんですよね」
「・・・・・・はぁ」
ようは処分するのが面倒だから、各自でやってくれって事か。
散々遊んでぼろぼろになったおもちゃを返品されても迷惑なだけ、とも取れるが。
しかし、そうなると余計に迷いが生じる。
値札を見てみる。
高くはないが、ボールにしては安いとも言えない値段だ。
「猫じゃらしとかって無いッスか?」
「猫じゃらしですか?」
そういうと、店員は足元にある棚から、カラフルな猫じゃらしを取り出す。
赤、緑、黄、青、ピンク。
万色揃っているソレを見て、俺のペットを飼う事にしての知識の無さをわずかながらに実感した。
猫じゃらしと言っても、こんなにカラフルな物が売られてるのか。
別に一色だけでもいい気はしていたが、なんでこんなに色んな色を揃えているんだろうな。
「んじゃ、これで」
クジを引くように、適当に手に持ったのは緑色の猫じゃらしだった。
店員もにこにこしながら、俺の顔を眺めている。
「他にご要望はありますか?」
「他か・・・」
猫を飼うには何が必要になるんだろうな。
アイツの飯はもう買ったし、遊び道具は持っているカゴの中。
檻は無いが、ダンボール箱に入れてるし、今日絶対に買わないといけないという程でも無さそうだ。
爪とぎも同様。
あとは、何がいるんだ、と店内をぐるぐる回ると、トイレの砂を見つける。
トイレか。
たしかに壁に用をたされても困るし、既に前例が出てしまっている。
ここは奮発して買ってやってもいいか。
とは言っても、どれが良い物なのかは、全くだ。
金も、あのとき貰ったババアの釣銭なんだけどな。
適当に一番安い物を手にし、それらを持ってレジへ向かう。
店員は、さっきの奴とは違ったが、それでも丁寧に接客していた。
「ありがとうございました!」
それらが入った袋を手にし、俺は店をあとにした。
見てみると、店のロゴが袋に描かれている。
「・・・・・・」
こういうのをデザインする企業でも悪くないか。
今までは、ポスターのデザインだったり、ジャケットのデザインだったり、そういった所にしか申請をしていなかったが、こういったものなら出来るかもしれないな。
とは言ったものの、今日はもう行く気にはなれない。
アイツの事だけで、疲労困憊だ。
まだ一日目というのに、本当に大丈夫なのだろうか。
変な所に漏らすし。
部屋中自由に動き回るし。
そして、何より懐かねえ。
「はぁ・・・」
正直、明美の卒業が明日だったら良かったのに、と思ってしまう。
というか、なんでペット禁止のマンションに住み始めたんだよアイツは・・・
もう何度目かわからない文句を繰り返す。
そう思っている時だった。
ポケットの中で、スマホが小さな煽動を始める。
なんだと思いながらも、それを手に取り画面を見てみる。
前原明美ーーー
「またアイツか」
今でもスマホは震え続けている。
昨日言い忘れていた事でもあるのかと、頭の中で考えていたが、結局それが何かがわからなかったので、仕方なく電話の通話ボタンをタップした。
「もしもし」
「あの・・・私。前原・・・ですけど」
「ああ」
「あ、あのね・・・その・・・あの・・・」
「・・・・・・」
「その・・・」
「・・・・・・」
これも、明美との電話では日常茶飯事ではあるが・・・
「もしもし!」
「おっ!?」
明美とは違う、女の声が聞こえた。
その声は、明るく、それでも聞き覚えの声。
「橘ですけど、少しお時間ありますか?」
「ああ」
「よかったー」
スマホの向こう側で安堵の声が聞こえる。
橘の声は、どこか幼さを感じる。それでも、ハッキリと可愛らしい声だった。
「あの、もし今日時間があったら、会いに行っても良いですか?」
「ああ・・・別に構わないが」
昨日の今日だ。
たしかに、週一でも顔をだして、あのガキ猫に会いに来てほしいとは言ったが。あまりにも早すぎないか。
でも、断る理由も特に無い。
「それじゃぁ、そちらに窺う時にまた電話かけますね!」
「ああ」
そう言うと、向こうから電話が切れる音がした。
明美の電話の筈なんだが、自分勝手というかなんというか。
しかし、明美と電話していると、日が沈んでしまう。
俺は、日が沈むまでに少しでもアイツの心の扉が開くよう、急いで家路についた。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する事があります。
予め、ご了承下さい。