第三話 距離感 3
こんにちは。
第三話の3になります。
最近、また少しずつ忙しくなって来てしまい、また書けていない時間が続いています。
そんな現在は、第五話まで進みました。
第三話は、まだ続きますがこれからもよろしくおねがいします。
「うぃー」
玄関を開け、そんな声を上げると、やって来たのは・・・
「ミャー」
「お前・・・」
ガキ猫だった。
「どうやって来やがった」
玄関の目の前には、紛れもないガキ猫がいる。
二階の、俺の部屋にいたガキ猫が。
と、そんな事を考えてる時間があるなら、さっさと取っ捕まえた方がいいか。
靴を脱ぎ、急いで持っていた袋を置いて、ガキ猫を捕まえようとするが、ソイツは身体の小ささを利用し、靴棚の下のわずかな隙間に潜り込み、そこから出て来なくなった。
「シャー」
そこから、今まで通りの鳴き声が聞こえてくる。
膝をついて、更には手もついて。ガキ猫の、鳴き声のもとを覗き込んだ。
両方の前脚を揃えて、奥の方で動かないでいる。
「喧嘩は後で買ってやるから、とにかく出てこい」
靴棚の下を覗き込んでいる最中に、ケツの方からババアの声が聞こえた。
「何やってるの?」
その声はひどく冷ややかな感情だった。
「お前の猫がここに潜り込んで・・・あー!!!」
ガキ猫がようやく動いたと思った。
しかし、どいたそこには、小さな水たまりが出来ていた。
いや、水たまりなんて綺麗なもんじゃなかった。
「コイツ」
「シャー」
ガキ猫が威嚇する。
キレたいのはこっちだ。
「シャー」
身を潜めつつも、俺との目線は離そうともせず、精一杯の強がりを俺に見せてくる。
「シャー」
イライラが募る。
その視線のバトルを止めたのはババアだった。
「いちいち大声出すから、その子もビックリするんじゃないの」
そう言いながら、ババアが俺のすぐ傍まで来ては、同じ体勢になり、ガキ猫と視線を合わせる。
ババアの顔がすぐそばにある事に嫌悪感を抱いた俺は、たまらずその場から離れた。
「シャー」
ガキ猫はまだ威嚇している。
「怖くないから、いらっしゃい」
ババアの声は、俺やジジイに対しては発する事はない、甘ったるい声だった。
俺からしてみれば、気味が悪く、背中から寒くなるような声だ。
「なかなか出て来ないわね・・・」
ババアは不思議そうに靴棚の下を覗き込んでいるが、俺からしてみれば、その理由は自明の理だと思っている。
「ほら、いらっしゃい」
「シャー」
「もういいだろ」
ガキ猫相手に、どれだけ時間を割こうしているんだ。
だんだん、コイツの事を考えているのがバカバカしく感じて来た。
「しばらくしたら出てくるだろ、朝飯もまだなんだし」
「うーん・・・そうね」
用をたしたあの溜りが気にはなるが、アイツが出て来てくれない以上、どうする事も出来ない。
ババアが、ゆっくりと立ち上がる。
「そういえば、どんなの買って来たの?」
「ん? ああ・・・」
そばに置いてあった袋を手にし、中身を取り出す。
ババアはそれを受け取ると、台所の方へ消えて行った。
もう一度靴棚の下を覗き込む。
「シャー」
「・・・はぁ」
よっこいせ、と声を出しながら立ち上がり、自分の部屋へ向かった。
部屋に戻り、ガキ猫がいてたダンボール箱の中を覗き込む。
当然、猫はおらず、ただの厚紙の容器となっている。
「これから色々と必要になるんだろうな」
ペットを飼う事に関しての知識はほとんど無いが、アイツを入れる檻に、エサ皿、爪とぎなんかも必要になってくるか。
「・・・・・・」
あのクソババア、なんで引き取ったんだろうな。
ペット買う金なんて無いだろ。
「・・・・・・」
そうだった。
だから「働け」って言ってたんだな。
コイツの事だけで頭が一杯になっていた。
「はぁ・・・」
何か良い所は無いだろうか。
もう求人票に書かれている枕詞は信用ならない。
だが、そこ以外でそういった情報を得られる場所も少ない。
藁をも縋る気持ちで考えるなら、あそこは頼らざるを得ない。
だが・・・
スケッチブックを手に取り、一ページ目をめくる。
昨日書いたガキ猫の絵があった。
「・・・・・・」
そのページを根元からやぶり、机の上に置く。
ポートフォリオとしては載せては行けない程の駄作だ。
しかし、アイツも来た事だし、モデルには困らなくて済みそうだ。
「ごはん!」
下からババアの高らかな声が聞こえて来た。
適当に返事をして、スケッチブックを閉じた。
「気が向いたら、描いてやるか」
あのガキ猫は、まだ靴棚の下に居てるのだろうか。
階段を下りて、リビングへ向かう前に、そこに顔を覗かせてみた。
「いないな」
さすがのクソババアでも、外に逃がしていないだろう。
「あれ?」
そういえば、目の前にあった、水・・・もとい、尿溜りもない。
「・・・・・・」
そうか。
もうリビングにいるんだな。
ソレも、もう処理を済ませた後か。
リビングに居させられるんだったら、最初からそうしろっての。
俺は心の中で散々愚痴りながら、リビングへ向かった。
公開は毎週土曜日の予定です。
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