第三話 距離感 2
こんばんは。
第三話の「2」になります。
今回は・・・特に話す内容はなく(汗)
前回にお伝えした「新作」も同時に執筆中です。
公開までお待ちください。
「らっしゃーい」
コンビニの中で、曾根崎の声が響く。
相変わらず、店内は1人も・・・
いや、誰かいた。
曾根崎の方に近づくと、話はあとだとあしらわれた。
こういう所では、ちゃんと仕事してるんだよな。
やがて、客がレジに向かってやってきた。
手にはキャットフードを持っている。
ササッとソイツのコードを読み取り、お金を受け取ってはおつりを渡す、そんな曾根崎の動きに、半ば感心しながら、店内から出て行く客を見届けた。
「で、何か買ってくれるのか?」
「・・・は?」
曾根崎の第一声だった。
「何か買ってくれるから、ここに来たんだろ?」
「あー、うん・・・まぁ・・・」
「なんだよ、煮え切らない態度だな」
たしか、橘はコイツにあの猫の事を話したって言ってたな。
だが、俺が飼う事になったって言っても、仕方ない話だしな。
そう考えを巡らせていると、妙案が浮かんだ。
「なぁ、店長居るか?」
「あ? 店長?」
俺からの言葉に一瞬理解に苦しんでいる様子を見せた曾根崎。
当然、理由を聞かれる。
「いいから、ちょっと呼んで来てくれよ」
「まあ、それは構わないけど」
そう言って、曾根崎は裏に身を潜めていった。
心の中でガッツポーズが出た。
俺の事を散々忌み嫌って来た天罰を、猫アレルギーである雑魚店長に思い知らせるきっかけになると確信した。
出来れば、店長の取り巻きだった奴らもギャフンといわせてやりたいが、それはまた別の機会に考えよう。
そう。
まずは店長だ。
早く来い。
早く来い。
ガキ猫と同じ部屋で朝を迎えたんだ。
触っちゃいないが、同じ空気吸った中に居てたんだから、猫アレルギーなら何か反応が出るだろ。
さあ、早く来い。
と、心の中で何度も何度も念じていたんだが、出て来たのは店長じゃなく・・・
「店長今日休みだったわ」
「・・・・・・」
「いや、来てると思ってたんだけどな」
「・・・・・・」
ワクワクが、ドキドキが、曾根崎の一言で一気に萎んだ。
せめて、今日誰が来るかくらい覚えとけよ。
「じゃぁ、裏に誰がいるんだよ」
「呼ぶか?」
「・・・・・・」
「なんでそこで黙るんだよ」
「いや、橘がいたら呼んで欲しいって思っただけだ」
「なんだ、ここはキャバクラじゃないぞ。会いたかったら自分の直感でここに来い」
「・・・・・・」
遠回しに、今はいないってことか。
それだけわかれば十分だった。
「なあ」
「今度は何だよ」
若干嫌気がさしてきているような曾根崎の対応に、こちらもイラッとしたが、気にせず続ける。
「お前、猫飼った事あるか?」
「猫?」
「ああ、猫」
「ないな。ガキの頃痛い目に遭ってるからさ」
「・・・・・・」
曾根崎が言う「痛い目」とは、前に橘が話していた事だろうな。
「じゃぁ、猫の知識とかもあんま知らねえか」
諦めて他の店に行こうとした時、曾根崎の口から思わぬ言葉が出た。
「知識はあんま無いが、店内のだったらオススメ教えられるぞ」
「なに?」
「お前が会いたがってる、その子から色々教えてもらったんだよ」
「ふむ・・・」
ここでも、一度顔を見た事はあるのだが、敢えて突っ込まないでおこう。
そんな事をしていたら、余計に話が長引きそうだ。
曾根崎は一言声を出してから、レジカウンターの扉を開けて、ペットフードの陳列棚まで歩き出した。
俺も、そのあとを追う。
「ほら、これ」
曾根崎が指差したのは、見覚えのあるフードだった。
「他にも色々あるけど。なんでも、タンパク質が多いフードなんだと」
「へえ・・・」
それを片手に取り、裏を返してみる。
何やら読むのも投げ出したくなりそうな字面が延々と書かれている。
「まあ、これにするか」
「これ?」
訳が分からなさそうな曾根崎の面を見た後、俺は鼻で笑いながらレジへ向かった。
「おい、お前。猫飼ってるのか?」
初めて買う、そして意外すぎる俺の行動に、曾根崎は戸惑っていた。
「それ、お前が食うものじゃないぞ」
「わかってるわ!」
喧嘩売ってんのかコイツは・・・
金を払い、レジ袋に入れられたフードを手に、俺はコンビニをあとにした。
「・・・出来れば会いたかったな」
直接聞いた方が、色々と情報も入って来やすかったのに。
俺は、少々残念に思いながら、まっすぐ家路についた。
「・・・・・・」
まっすぐ家路・・・か。
いつぶりだろうか。
いや、別に家が、家庭が恋しいと思ってはいないがな。
ただ、アイツの朝飯が無いから、仕方なく買ってきただけだ。
「・・・・・・」
だが、あのババアは俺が働いて金稼げば良いって言ってたな。
就職活動自体投げやりになっていたというのに、まだあのババアは言うのか。
「・・・・・・」
ふと考える。
俺は、何になりたいのだろうか。
いや、デザイナーになりたいという気持ちは変わらない。
しかし、何度もそれになろうと色んな企業にチャレンジしてみたが、全て玉砕———いや、粉砕と言ってもいいかもしれない。
しかも、この世界。みんながみんな、自分の夢の職に就けるとは限らない。
夢を諦めて職に就いた連中も絶対に居る。
そういう奴らは、その夢を職ではなく、趣味の一環として楽しんでいる筈だ。
なら、俺は・・・
デザイナーを諦めた方が良いのだろうか———
俺は今、一つの究極の選択を迫られている気がする。
しかも、それを選ぶまでの時間は、そう長くない。
俺は・・・どちらを選んだら良いのだろうか。
右手に持っていたレジ袋が、風でクシャリと音を立てた。
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