第二話 迷える子羊達 7
こんにちは、
第二話の「7」になります。
現在、執筆作業は少し大変な事になっています。
少し間を空けて、執筆再開させたは良いんですが、推敲に推敲を重ねた結果、色んな所を排除しました。
話の展開も少し変えたので、執筆作業が一気に前まで戻り、現在、第三話の後半になっています。
このままでは追いつかれてしまいそうなので、必死に執筆していきます(大汗)
女子二人は、ただミルクを飲んでいるだけのガキ猫をずっと眺めていた。
「美味しそうに飲んでるね」
「うん!」
そして俺は、ダンボール箱の前で女子二人が盛り上がる姿を、ベンチから眺めていた。
「相変わらず華奢な身体だな」
明美の姿を遠くから見ていると、アイツの小さな身体が、より小さく見える。
「終わったね。早い!」
「・・・・・・」
俺と話す時は、しどろもどろになる癖に、アイツと話す時は、流暢・・・とはいかないが、なんというか・・・わかりやすい性格だな。
「ごちそうさまだね」
そう言うと、橘はダンボール箱から離れ、こちらに近づいてきた。
「明美ちゃんと知り合いだったんですね」
「なんとなくはわかってた。ペット禁止のマンションに住んでて、大学の友達と二人で居てる時に、あの猫に会った。明美とは事前にアイツの事を話してたからな」
「あらら・・・そこまで・・・」
変に感心している橘だったが、視線は俺ではなく明美の方を見ていた。
「たしか、俺とコンビニで初めて会う三日前って言ってたよな?」
「えっ?」
「あの猫と初対面した時だよ」
「ああ、そうですね」
「もうちょっと詳しく教えてくれよ」
「ええ、それはいいですけど・・・」
興味があるわけではない。
ただの暇つぶし。そして、だんまりになりそうな空気を避けたいだけだった。
「私も明美ちゃんも、獣医学校に通ってるんですけど。たまたまその日、そこでのレポートの提出で帰るのが遅くなっちゃったんですよ」
「ふむ・・・」
「その帰りだったんですけど、勤務している、あのコンビニで忘れ物しちゃったのを取りに行きたくて、こ この公園の前を通りかかったんです。そうしたら、ここであの子の鳴き声が聞こえて・・・」
「そこからアイツの面倒をみようってか」
「はい・・・でも、見つけた時はかなり衰弱してたんですよ」
「アイツがか?」
今のあの姿を見ていると、にわかには信じ難いが。
「初めて見つけた日は、あの子を動物病院へ連れて行く事でいっぱいいっぱいで、引き取り手を探すなんてこと出来なかったです」
遅かったですしね、と苦笑いを浮かべながら呟いていたが、そこにはどこか安心感があったような気がした。
「その日は、あの子も一日入院ってことになって、同意書っぽいのも書かされたんです」
「で? アイツが元気になったのが?」
「その翌日ですよ」
「ということは、退院もその日か」
「ですね。その後は、一旦コンビニの前で置かせて欲しいってお願いしたんですけど・・・」
そこで言葉を詰まらせた橘だったが、なんとなく想像出来た。
あのクソ店長の問題だろう。
全く。
ただ偉そうにしているだけで、いざという時にはちっとも役に立たねぇ奴だな。
「そういえば、曾根崎にもお願いしたんだよな?」
「ええ、しましたよ」
「曾根崎の知り合いとかにもお願いするとかって考えなかったのか?」
「あぁ・・・したんですけどね」
なにか不都合が起こったような顔付に変わる。
どういった事を言われたのかはわからないが、アイツの事自体に興味は無かった。
「これからどうしましょうか・・・」
「・・・・・・」
俺に問い掛けられても困る。
まさか、俺の家で飼って欲しいとでも言いたいのだろうか、コイツは。
真っ平ゴメンだ。
威嚇してくるクソ猫を、俺が飼ってどうするんだ。
ただでさえ、あの声に嫌気がさしているというのに。
だが、俺が飼わないとなったら、コイツらの飼い主探しも諦めたりはしないだろう。
アイツをこんな所に長く置いておくのも問題だ。
「・・・・・・」
チラッと橘の横顔を眺める。
整った綺麗な顔だが、コンビニで働いている表情しか見ていないからか。
今の彼女の表情が、幾にも増して哀しげに見える。
「・・・・・・」
心の中で、思わず呟く。
やめろ、と。
そんな顔をするな、と。
俺の頭の中で、自分の意に反する思いが。あのガキ猫を助けようと思う、慈悲がチラつく。
「帰るぞ」
「え・・・」
「今日はもう遅いだろ。さっさと帰って、さっさと寝ろ!」
思いをシャットアウトし、ベンチから立ち上がる。
ガキ猫の前にまだいる明美を呼び出し、帰りを促す。
しかし、明美は、以前ガキ猫を持ち運んでいたかばんに、ソイツを入れて、コチラに近づいてきた。
「・・・・・・」
どういう事か、全くわからなかった。
たしか、コイツの住むマンションって、ペット禁止だって言ってたよな。
どういう事だ。
そんな思いを言うよりも早く、明美の口から驚き・・・いや、イヤな予感が当たったかの様な発言が飛び出した。
「おねがい。少しの間だけ、葛城君のお家で、飼ってくれない?」
「・・・はぁ?」
「このままここに居てたら、この子、本当に死んじゃう。今まではここで何とか匿いながら過ごしてきたけど、もう限界・・・」
「・・・・・・」
「里親探しは、続けて探すから・・・だから・・・」
「・・・・・・」
明美の目から、一滴の滴がこぼれる。
顔は、俯いている上、前髪で隠れていてよく見えない。
だが・・・
「・・・・・・」
卑怯だよな、コイツ。
そう思うしかなかった。
「わかった」
「えっ?」
こう言うしか無いだろ。
俺は、仕方なく首を縦に振ったが、条件もつけた。
「実家暮らしだから、上の許可が出てからだぞ」
「あ・・・うん!」
その言葉に大喜びで頷く明美。
現金な奴だ。
しかし、そう言ってしまっては仕方ない。
俺は、半ば気が進まないまま、第一歩目を踏み出した。
公開は毎週土曜日の予定です。
予定は予告無く変更する場合がございます。
予め、ご了承下さい。