その9
◇◇◇◇◇◇ その9
守屋自身は祈祷や掃除のためにこの神殿に毎日出入りしている。しかし、「奥の院」と呼ぶ神殿の中心にある小部屋には入った事がなかった。もし入れば子々孫々にまで災いが及ぶと伝えられている。晴信を神殿に入れればこの扉を空けろと言い出すのはわかりきったことである。
「絶対に後悔なさいますな。」
守屋が叫ぶ中、晴信は神殿の扉を開けて中に入った。中には神社でよく見かける祭壇が祭ってある。
「なんだ特別変わった事はないではないか。」
晴信はがっかりして中を見回した。
「あの扉はなんだ。」
「開けるなと申されても晴信様は承知されないでしょう。中をご覧になっても結構ですが、私は外でお待ちしたいと思います。」
そう言うと神殿の外へ出た。
「もったいつけおって。」
晴信は奥の院の扉に手をかけた。千年以上誰も触れていない閂を静かに外すと扉を開け放った。奥の院の中には箱のような物があるようであったが、暗くてよく見えない。
晴信は祭壇のろうそくを手に取ると奥の院に足を踏み入れた。院の真ん中にその箱は鎮座していた。長い間誰の手にも触れていないはずなのにまるで昨日安置したように新品の輝きを放っている。
「おかしいな。たぶらかされているのであろうか。」
晴信は箱の蓋を取るがためらわれた。が、既に開けなくてはならない脅迫観念にとらわれてしまっている。晴信は蓋に手をかけると静かに開け放った。
「なんだ。何も起きないではないか。やはりあの神主のはったりであったか。」
蓋の内側はお椀の内側の様に湾曲しており、その中ではなにやらちかちかと点滅するものがあるだけである。
晴信は内心ほっとしたが、表面は取り繕ってすばらしい獲物を見つけた顔つきになった。そして蓋を閉めようと手に取った。その時である。
箱の中から青白い光があふれ始めてきている。光は生き物のように晴信に向かって静かに輝き始めた。晴信はとっさに逃げようと思ったが体が動かない。光の中から一際強い一条の輝きが晴信の体を調べるように頭から足の先までを照らし、箱の中から晴信に向かって極細の鋭い針を発射した。




