その45
◇◇◇◇◇◇ その45
「ははは、俺にも父上のような力があったらしい。」
最初で最後の自分の能力を開放して爽快な気分のまま、勝頼はシステムが完全に起動したことを知った。自分がどこか遠いところへ転移する初めての感覚に己をゆだね、意識を失ったのである。
勝頼が入った長持ちが飛んだ後、側近の体を貫いた刀が四本の御柱のように天に向かってそびえたつのみであった。
勝頼は幼いときに見たきりの光る河の流れに身を任せていた。あのときは、上流にさかのぼっていたような気がするが、今は下流に流れているように思える。
「四郎勝頼、こっちよ。」
声がする方を見ると、そこには母である湖静姫がいた。
「私の名前は御鏡静奈、あなたの本当のお母さんのお友達。あなたの名前は純一だよ、きっと本当のお母さんやお父さんに会えるから。」
純一は時間の流れの中でどんどん若返る。
「あなたのお母さんに私がそばにいながら悲しい思いをさせてしまったおわびに、いいものをお土産につけとくね~。」
静奈はそういうと赤ん坊用のおくるみにメモとUSBメモリらしきものを挟み込んだ。
「さあ、今よ、ええ~い、亜空間にいるとホントに疲れるのよね~、ああ、お腹が減った~~。」
静奈はそう言うと手を伸ばして純一を抱き留めた。純一は産まれて間もない赤ん坊に戻っていた。
純一が失踪した年の御柱祭りはいつも以上に盛大に行われた。地元諏訪で男の子が謎の失踪を遂げた事が御柱の神秘性を高めたのか例年以上に全国から人が集まり、にぎやかであった。
東谷夫婦は御柱を楽しむ気分にはとてもなれなかったが手掛かりがつかめるかもしれないと思い観光客をかき分けるようにして上社、下社の山出しから里引き、建て御柱までつぶさに見物した。
「変わったことは何も起こらなかったね。」
涼子は撮影してきた御柱のビデオを見ながらつぶやくように健一に話しかけた。
「残念だったね。」
健一もビデオをじっと見つめる。
「あれ?、ここ何か光ってる。」




