その36
◇◇◇◇◇◇ その36
「四郎を呼べ。」
つつじケ崎館の「飛翔の間」には極限られた人間しか信玄は近づけなかった。異次元空間で出会った少年は側室の湖静姫との間に生まれ、しばらく里に預けられていたという触れ込みで館に迎えられた。
本妻の三条の方との間に生まれた長男太郎義信は今はなく、武田四郎が事実上の跡継ぎである。十六才になった四郎は元服を迎え、勝頼と名乗った。
「勝頼どのがいた世界では天朝様を中心とした日本国という名前になり、猛スピードで走る鉄の車や、空飛ぶ船があるというのだったな。」
信玄は勝頼から遠い未来の話しを聞くのが好きだった。
「電話という遠くの者と話す機械もどこの家にもありました。」
信玄は勝頼の話しを聞くとそれを絵に書かせた。
「元の世界では母が水戸黄門というテレビ番組が好きでよく見ておりました。それから徳川吉宗という将軍様がでてくる時代劇も好きでした。」
水戸黄門は聞いたことがない名前であるが、徳川と言えば今は織田と連合しているあの家康のことであろうか。織田なくしては吹けば飛ぶような田舎大名としか思えない。もし、本当に徳川が勝ち抜くのであれば織田はどうなるのだ?。
「この戦国の時代はそう遠くない将来に終わるらしい。だが、最後に残るのは武田ではない。」
「歴史を変えることはできるのでしょう。」
「勝頼どのがこの世界に来たことはどのような意味を持っているのだろうか。徳川の世の中を実現させるために来たのであろうか。それともこの武田のためにきたのであろうか。」
「父上、それは私にもわかりませぬ。けれどもこの国を少しでも早く戦の無い世の中できればよいではありませぬか。そのためには武田が捨て石になろうとも悔いはありませぬ。」
「まったく勝頼どののいう通りじゃ。それが神仏の意にかなうのであれば私も本望じゃ。」
信玄は勝頼にそう答えてはみたものの武田家の行く末を考えると簡単に割り切ることはできなかった。
「全力で京を目指すだけだ。」
信玄は一人つぶやくと次の戦の作戦を考えることに熱中して行った。




