その34
◇◇◇◇◇◇ その34
時空の河の中で出会った少年はこの時代の童とは違う服を身に付け、髪も結ってはいなかった。が、言葉は通じるようであった。テレビとは何かと気になったが、
「うむ、気を付けよう。」
信玄は少年の言葉に素直に従い、床机には影武者を座らせ、自分は足軽の姿になって司令を飛ばした。
「お味方有利!。」
忍びの報告から謙信を着々と追い詰めていることがわかる。が、信玄は少年の言葉を無視する気にはなれなかった。
「上杉を完全に追い詰めるではない。」
追い詰められて死に物狂いになることを信玄は恐れた。濃い霧が晴れると戦況がはっきりしてきた。
「信玄め、やはり本陣にいたのか。」
詳細に調べた上で決戦を挑んだ謙信は神出鬼没の信玄が不思議でならなかった。
「ここも危のうござります。」
「ええい、わかっておるわ。」
謙信は馬に跨ると後方に下がろうとする馬周りをふりほどき、信玄の本陣を目指して戦場の中を突き進んだ。
「信玄が本物かどうか今日こそこの目で確かめてくれる。」
武田軍は単騎本陣を目指す一人の騎馬武者がまさか謙信本人であるとは思わず、本陣への接近を許してしまった。
「なにやら騒がしいな。」
晴信が外の喧騒に気が付き、見に行かせようと立ち上がったその時であった。
「信玄、出会え。」
大音声と共に本陣の万幕が倒れ、見事な栗毛の馬が前足を上げて、信玄に襲いかかった。信玄は少年の言葉を咄嗟に思い出し、その騎馬武者が謙信であることを悟った。
「そやつは謙信じゃ。」
間一髪で馬を避けた信玄は本陣を駆け抜けた謙信を睨みつけた。
「信玄殿、またあおう。」
「本物であったか。」
謙信は馬上でひとり呟くとなにやら可笑しくなってきた。
「甲州と川中島を簡単に行き来する信玄がうらやましいわい。」




