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その33

◇◇◇◇◇◇ その33


 信玄と静はつつじケ崎の「飛翔の間」にいた。謙信の忍びの探索は正確に信玄の所在を掴んでいたといえよう。そして連日側室の湖静姫を寵愛していると確信をもって謙信の元へもたらされていた。


「静、いよいよ謙信と決着をつけてやる。今宵が勝負じゃ。」

「静はどこまでも一緒でござります。」


 信玄の静を思う気持ちと静の信玄を慕う気持ちがお互いを高めあい、燃え上がらせて行く。信玄は天下統一を願い、静を愛撫する。


二人の心が一つに溶け合い、この時代を導く灯台のようにそれぞれの体から淡い光を導き出す。光はゆるやかに明滅を繰り返しながら着実に輝きを増し、やがて二人の体を亜空間へといざなう。


 信玄は川中島の長持ちを強く念じた。静をその胸に強く抱きしめ、光る河をさかのぼる。

「あっ、あの童は。」


 亜空間の中では声を発した事など一度も無かった静が思わず声をあげてしまったのは、光り輝く河の上流から子供が一人流されて来たからである。子供は気を失っているようであったが、静が手を伸ばして受けとめて、胸の中に抱きかかえることができた。信玄は本能的に目的地である長持ちを知り、河の岸辺と向かう。


 武田軍の騒ぎは夜中まで続き、祭りの行列は陣中を練り歩き、最後に信玄の本陣へと運びこまれる。


「お館様、ご無事ですか。」

 勘助が声をかけたが、返事が無い。不安にかられ長持ちを急いで開けると驚くべきことに長持ちには三人の人間が入っていた。


「お館様、大丈夫ですか。」

 勘助が声をかけると幸いにも信玄は目を覚ました。

「どうしたことです。」

「わしにもわからんが、飛んでいる時にこの童とすれ違い、次の瞬間、ここに到着していたのだ。」



「勘助、采配を持て。」

 信玄は采配を手にすると、全軍に向かって下知した。


「今夜必ず謙信はこの霧の中を攻めて来る。打ち合わせ通り、謙信を取り込め。」

 夜半過ぎより霧はさらに濃くなり、兵達はお互いを縄で結び、手探りで行動した。


「おじちゃん、謙信はね、一直線におじちゃんの首を狙う作戦だよ。」

「なぜ知っているのだ。」

「だって、テレビでそう言っていたもの。」


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