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その31

◇◇◇◇◇◇ その31


 信長と晴信の大きな違いは伸びられるだけ伸びてさらに飛び上がってでも獲物を狙う信長に対し、狙った獲物の周りにまず柵を作り、相手があきらめかけたところで捕獲に取り掛かる晴信の性格の違いにあるといっていい。


 晴信は領国の治世には自信があった。徹底的な恐怖政治、穏健政治の両方とも信濃で実験済みである。そんな晴信の一番の悩みは時間であった。


「京へ登るまで生きていられるであろうか。」

晴信は自身に問うてみた。


「神仏は私に空間を瞬時に飛び越える力をくれた。この力を私は最大限に活かして民百姓が安心して暮らせる平和な世を作るつもりだ。だが、信長は二十七才、私は四十才。ここからは今までのようにのんびりとやっているわけにはいかぬ。」


 晴信は決意を新たにし、名前も信玄と変えた。「飛ぶ」ための拠点として各地の神社を着々と勢力下に納めつつあったが、光前寺の例もある。


寺もまた重要なポイントになりうるのだ。そのためには自身が法名を名乗っていた方がまことに都合が良いのである。京都には比叡山延暦寺がある。ここは信玄の京への最重要拠点となるであろう。


 信玄は2万の軍勢を川中島へ進発させた。いよいよ謙信が一万五千の兵を進めて来たのである。だが、同盟を結んでいるとはいえ、駿河の今川もどうなるのかしれたものではない。信玄はつつじケ崎に残り、弟信繁を大将として部隊を送り込んだのである。


「信玄め、なめおってからに。」

信玄がつつじケ崎に残ったと聞き、謙信は今度こそ武田の息の根を止めてやろうと決心した。


 そのためにまず善光寺を占拠したのである。善光寺そのものは平地にあり、戦略上はさほど重要なポイントでないことは明白である。しかし、古来からの歴史を持つこの寺の動きは信濃の民衆に大きな影響力を持っている。


「まさか、お館様の秘密を知ったのでは?。」

勘助は不安の色を浮かべて信玄に尋ねた。


「その心配はあるまい。それよりも勘助にはやってもらわなくてはならないことがある。」

晴信はそういうと一枚の図面を取り出した。勘助が覗くとそこには長持ちの図面が描かれていた。


「この図面は御柱で使われる長持ちを模して描かせたものだ。」

「これをどのようにお使いで?。」


「この長持ちを川中島に持ち込み、古府中より飛ぼうと思う。」

 勘助は信玄の言葉に驚いた。


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